第2話 女神コレクション
「結果、何だった?」
私が聞くと、千歳は少しだけ口を曲げました。
「コノハナサクヤヒメ(木花咲耶姫)」
それは、似合いすぎていました。
咲く女神。
選ばれる側の女神。
明るくて、目立って、そこにいるだけで人が集まる。
千歳の話す咲良ちゃんは、いつもそういう子でした。
クラスの中心にいるのに、誰にでも普通に話しかける。
千歳にとっては、親友。
ただ、咲良ちゃんにとって千歳が親友なのかは、私には分かりませんでした。
その分からなさも含めて、父親には見えない教室があります。
咲良ちゃんの画面に現れたコノハナサクヤヒメは、十三柱の判定女神のうちの一柱です。
判定された女神は、アプリの「女神コレクション」へ登録されます。
女神は最初、封印されています。
誰かの判定女神として現れた時だけ、イラストが解放されます。
十三柱すべてを解放するには、少なくとも十三人分の判定が必要になります。
正直に言うと、友達を誘いやすくするための、運営側の仕掛けでした。
画面の中では、ただのコレクション要素だったんです。
でも、そこに中学生の人間関係が乗ると、思ったより残酷になります。
誰が最初で、誰が最後か。
誘われたか、誘われなかったか。
ただの順番に、教室では意味が生まれてしまうからです。
咲良ちゃんが最初に誘ったのは、澪ちゃんという子でした。
千歳の話では、澪ちゃんは咲良ちゃんのグループにいる。
でも中心にはいない。
写真を撮る時は、だいたい端。
話を振られれば笑うけれど、自分からはあまり話さない。
咲良ちゃんが「澪もやってみて」と言った時も、澪ちゃんは一度だけ首を振ったそうです。
「いいよ、そういうの」
でも咲良ちゃんは引きませんでした。
「お願い。最初の一人、澪がいい」
その言い方は、たぶん咲良ちゃんの本心でした。
最初に選ぶことで、端にいる澪ちゃんを特別にしたかったのかもしれません。
ただ、選ぶ側の善意と、選ばれる側の気持ちは、いつも同じ形になるとは限りません。
澪ちゃんは、しばらく画面を見たまま動きませんでした。
それでも結局、女神占いを開きました。
判定は、イザナミ(伊邪那美)。
その瞬間、澪ちゃんの顔から笑いが少し消えたらしいのです。
「澪、結果見たあと、ちょっと変だった」
千歳は冷蔵庫から麦茶を出しながら言いました。
「変って?」
「別に。いつも通りなんだけど、いつもより静か」
かなり分かりにくい説明です。
でも千歳は、そういう微妙な違いをよく見ています。
空気は読めない。
けれど、顔色は読む。
集団の流れには遅れる。
でも、声の小さなひっかかりには気づく。
「イザナミって、怖い女神なの?」
「怖いだけじゃないよ。神々を生んだ、はじまりの母みたいな女神だ」
千歳は少し考えて言いました。
「ふうん。じゃあ、澪っぽいかも」
なぜ澪ちゃんっぽいのかは、聞けませんでした。
翌朝のホームルームは、いつも通り長かったそうです。
昨日の帰り道に買い食いをしていた人がいたこと。
修学旅行の班決めがまだ終わっていないこと。
進路希望調査を出していない人がいること。
それから、忘れ物の確認。
体操着、水筒、名前のないハンカチ、小さな布袋。
先生の話は、いつものように右から左へ流れていきました。
千歳も、その時は机の端を見ていて、半分くらいしか聞いていなかったそうです。
大事な話も、どうでもいい話も、同じ声の高さで並べられる。
その列の中では、大事なものまで、あるのに見えなくなる。




