第1話 AIなんか大嫌い
「AIなんか大嫌い。」
千歳は、わりと本気でそう言っていました。
「言うことを聞かないし、優しくないし、寄り添ってもくれない。」
父親としては少しだけ反論したくなります。
千歳が嫌っているAI機能「LoveSim」を、女神占いにつけたのは私だからです。
千歳もそれは知っています。
ただ、知っているから好きになるわけではありません。
むしろ父親が作ったものだからこそ、余計に冷たい。
「お父さんのアプリ、たまに変なこと言う」
そう言われるたび、私は開発者として少し傷つき、父親として少し黙りました。
その前に、女神占いのことを少しだけ説明します。
私が作った『女神占い』は、いくつかの質問に答えると、アラハバキをはじめとする、神話になるよりも古い十三柱の女神たちの中から、その人に近い女神が表示されます。
本人の性格や、何歳ごろにどんなことが起きそうか、みたいなことも分かります。
それとは別に、恋愛占いとして、意中の相手役をAIが務める、LoveSimという機能もつけました。
まあ、そんなLINEアプリです。
思春期の娘に、自分の作ったアプリを使えと言うほど、私は強くありません。
近づきすぎれば、うるさいと言われる。
黙っていれば、何も見ていない顔になる。
だから私は、少し離れた場所から見ていました。
見守っているつもりでした。
それが、いちばん安全な距離だと思っていたんです。
けれど今なら分かります。
見守ることと、ちゃんと見ることは違います。
私は千歳のことを見ていたつもりで、見落としていました。
娘が何に引っかかり、何を怖がっていたのか、その場では拾えていなかった。
この物語は、私がちゃんと探していなかったところから始まります。
千歳には、小さいころから変な特技がありました。
きれいな石を見つけるのが、やたらとうまいんです。
校庭のすみ、公園の砂場、川沿いの道。
誰も見向きもしない土の中から、千歳はなぜか光る石を見つけてきました。
「お父さん、見て。光る石」
見つけるたびに、千歳はそう言って、私の手のひらへ載せました。
私には、ただの灰色の石にしか見えないこともありました。
それでも「きれいだね」と答えました。
正直に言えば、手元の作業を止めず、よく見ないまま返したこともあります。
小学生のころは、それで友達が集まりました。
千歳が見つけた石を並べると、友達の反応はさまざまでした。
真っ先に一番大きな石を取る子もいれば、何度も持ち替える子もいました。
一つの石をずっと見ているのに、みんなが選び終わるまで手を出さず、最後に残った石を取る子もいました。
千歳は、そんな友達の真ん中で、少し得意そうに石を配る子でした。
でも中学生になると、誰も石なんか探さなくなりました。
その日、千歳が帰ってくるなり言いました。
「お父さんのアプリ、学校で流行ってるっぽい」
私は一瞬、変な声が出そうになりました。
「へえ。そうなんだ」
できるだけ平静を装いました。
自分の作ったアプリが、娘のクラスで使われている。
開発者としては嬉しい。
父親としては、少し怖い。
千歳は靴を脱ぎながら、こちらを見ずに続けました。
「咲良がやってた。女神占い」
咲良ちゃん。
千歳が、一番仲のいい友達だと思っている子です。
明るくて、声がよく通って、教室の空気を先に変えてしまう子。
その名前を口にした時だけ、千歳の声が少し変わりました。




