第17話 五色の断片
── SYSTEM LOG ──
location_status(位置状態): fixed(三内丸山に固定)
current_site(現在地点): SANNAI_MARUYAMA(三内丸山)
sync_point(同期点): LARGE_PILLAR_BUILDING(大型掘立柱建物)
location_accuracy(位置精度): plus_minus_200m(±200メートル)
time_index(時刻索引): rollback(巻き戻り)
estimated_offset(推定差分): approx_5000_years_ago(約五千年前)
measurement_status(計測状態): limit_exceeded(計測限界超過)
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場所は三内丸山のまま。
大型掘立柱建物を同期点として、位置の誤差は±200メートル。
時刻だけが、約五千年前。
現在地点の情報としては、両立しません。
でも画面は、それを同時に表示していました。
現地では、自動で起動した女神占いの画面に、イワナガヒメの開放版が表示されていました。
もうイラストには見えません。
浅黒い肌。
短い髪。
甘くない目。
不敵な笑み。
その奥で、白、黒、赤、青、黄の石が回っていました。
白いフラッシュ。
通常画面。
白いフラッシュ。
通常画面。
点滅のたびに、イワナガヒメの輪郭が近づいてくる。
── LoveSim 応答 ──
一致しました。
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「何が?」
── LoveSim 応答 ──
画面に触れないでください。
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「触ってない」
── LoveSim 応答 ──
戻ってください。
今すぐ。
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その「今すぐ」が、千歳の胸を強く叩きました。
咲良たちは少し先にいました。
呼べば届く距離です。
千歳は声を出そうとしました。
でも、喉が詰まりました。
── LoveSim 応答 ──
声を出してください。
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出ない。
── LoveSim 応答 ──
誰かに呼ばれてください。
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咲良が振り向きました。
「ちー?」
その声だけが、はっきり聞こえました。
でも、聞こえた瞬間に遠くなりました。
柱の影が、千歳の足元で交差します。
白。
黒。
赤。
青。
黄。
五つの色が、スマホの画面から外へ出ました。
「やだ」
千歳は、やっと声を出しました。
「行きたくない」
── LoveSim 応答 ──
拒否を記録しました。
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「じゃあ止めて」
── LoveSim 応答 ──
停止できません。
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五色の輪が、千歳の足元で閉じました。
石を打つ音。
風の匂いが変わりました。
── LoveSim 応答 ──
五色石盤、同期開始。
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その直後、千歳のものではない記憶が、順番を失った破片のまま流れ込んできました。
今ここで起きていることではない。
そう分かるのに、いつのことかは分かりませんでした。
五色石盤が見えました。
色は消えていません。
けれど五つの石が、全部同じ命令を返していました。
白か黒か。
進むか止まるか。
味方か敵か。
石盤の向こうには、白と黒しかない遠い盤面がありました。
誰かの指が、そこから細い黒い線を送り込みます。
顔は見えません。
五色石盤を囲んでいた人々が、互いを指さしていました。
「中の者が通した」
「向こうの女を疑え」
さっきまで同じ輪にいた人たちの声が、二つに割れていきます。
何人もの女神の中で、一人だけ、五色石盤から手を離さない女神がいました。
白い光に切られた横顔が、一瞬だけこちらを向きます。
「三つ目より前よ」
誰に言ったのかも分からないまま、声が途切れました。
次の破片では、人の声が消えていました。
同じ石盤の周りは夜で、水音だけがしています。
水辺の黒曜石を調べていた少女の顔を、千歳は知っていました。
女神占いで見た、イワナガヒメでした。
イワナガヒメは黒曜石を裏返し、奥へ指を当てました。
「消えてねえ。止まったふりしてるだけだ」
石の奥で、月のような白い印が開きました。
――見るな。
どこからか声がしました。
イワナガヒメは、不敵に笑いました。
「見るなって言われて、やめるかよ」
白い光が腕を上り、水面に映っていたイワナガヒメの姿だけが消えました。
そこで記憶は、白く欠けました。
「今の、イワナガヒメ……?」
千歳が考えるより先に、白い欠落の奥から荒い声が落ちてきました。
――黙るな。名前を捨てるな。
LoveSimなら、そんな言い方はしません。
問い返す時間もありませんでした。
咲良の声が伸びます。
澪の足音が遅れます。
千歳が振り向いた先にいたのは、三人ではありませんでした。
水辺。
低い屋根。
煙。
裸足の子ども。
見たことのない人たちが、こちらを見ています。




