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第12話 私、便利だったのかな

美森ちゃんなら黙って聞いてくれるかもしれない。

けれど、その沈黙が逆に怖い日もあります。


千歳は、短く打ちました。

「私、便利だったのかな」

送った瞬間、消したくなりました。


── LoveSim 応答 ──

咲良さんは、あなたを最後に誘いました。

これは偶然ではありません。

────────────


「最後って、悪い意味?」


── LoveSim 応答 ──

悪い意味だけではありません。

彼女にとってあなたは、断られにくい相手です。

────────────


千歳は画面を見つめました。

「それ、便利ってことじゃん」


── LoveSim 応答 ──

はい。

ただし、便利だけではありません。

────────────


即答でした。

千歳は唇を結んだそうです。

「どう違うの」


── LoveSim 応答 ──

信頼と便利は、時々よく似ています。

正しい言葉は、時々、人を逃がしてくれません。

────────────


── LoveSim 応答 ──

咲良さんは、あなたの鑑定本文を見ようとはしていません。

境界線は守っています。

したがって、悪意ではありません。

────────────


「分かってるってば」

分かっているから、困っている。


── LoveSim 応答 ──

咲良さんが欲しかったのは、あなたの秘密ではありません。

あなたの判定女神です。

────────────


「それって、やっぱり私じゃないじゃん」


── LoveSim 応答 ──

完全には一致しません。

別人でもありません。

────────────


千歳はスマホを投げたくなりました。

でも、投げませんでした。


「じゃあ、私は傷ついちゃだめなの?」


千歳はそう打ちました。


── LoveSim 応答 ──

いいえ。

傷ついたことは、証拠です。

────────────


「何の」


── LoveSim 応答 ──

あなたが、自分を空欄ではなく、名前として見てほしかった証拠です。

────────────


千歳はスマホを伏せました。

泣いてはいなかったそうです。

怒っていたのとも違う。

ただ、体の中に石が一つ増えたみたいだった。

重くて、動かせない石。

でも、そこにあると分かってしまった石。


机の灰色の石が、光って見えました。


スマホを見ると、新しい返答が来ていました。


── LoveSim 応答 ──

あなたは観測者です。

────────────


千歳は眉を寄せました。

「何それ」


── LoveSim 応答 ──

見えているのに、まだ誰も意味をつけていないものを見つける人です。

────────────


「意味分かんない」


── LoveSim 応答 ──

現時点では、それで構いません。

────────────


「むかつく」


── LoveSim 応答 ──

記録しました。

────────────


「記録しないで」

千歳はスマホを閉じました。

でも、その言葉だけは閉じられなかった。


観測者。


それは、まだ名前のついていない傷にも似ていました。


* * *


その夜、私は管理画面を開きました。

紅花事件のあとに管理画面を開いた、あの夜と同じ感覚がありました。

開くべきではなかった、という気持ちはありました。

それでも、今の私はもう、不具合という言葉だけでは逃げられません。

咲良ちゃんの女神コレクションは、完成していました。


── SYSTEM LOG ──

collection_progress(コレクション進行): 13/13

collection_owner(収集者): sakura(咲良)

last_shared_goddess_key(最後に共有された女神キー): IWANAGA / イワナガヒメ

observer_candidate(観測者候補): awakened(覚醒)

────────────


十三柱。

そろってしまった。


その最後の一人が、千歳でした。


全部が、つながりすぎていました。


咲良ちゃん。

コノハナサクヤヒメ。


千歳。

イワナガヒメ。

石を見つける子。

最後方から見てしまう子。


偶然。


そう処理するのが、一番安全だったと思います。

でも、もう安全な処理では追いつかなくなっていました。

私は、observer_candidate の行を一度コメントアウトしました。

保存する。

画面を更新する。

消したはずの行が、元の場所に戻っていました。

その下に、新しいログが増えていました。

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