第11話 醜くなんて、なかった
むしろ、美しかった。
ただ、その美しさは、人に選ばれるためのものではありませんでした。
口元には、ほんの少しだけ不敵な笑み。
見上げる顔ではありません。
見られるのを待つ顔でもありません。
相手の目線を、正面から測り返す顔でした。
千歳は、少し怖いと思ったそうです。
でも、目が離せなかった。
この女神は、醜いから返されたのではない。
たぶん、扱いにくかったのです。
この土地の美しさの型から外れた肌の色も、短い髪も、自分の容貌に寄りかからない相手を値踏みするような目も。
望まれる側として、黙って差し出されるには、あまりに強すぎた。
画面の中のイワナガヒメは、誰かに選ばれるための女神ではありませんでした。
選ぶ側の嘘を、先に見抜いてしまう女神でした。
後ろに立っている。
でも、下がっているわけではない。
最後方から全体を見て、どこに逃げ道を残すのかを考えている。
そんな顔でした。
千歳は、説明文を読みました。
理知。
観察。
石。
永続。
盤面を読む力。
感情に飲まれず、構造を見抜く力。
そこに書かれていた言葉は、やさしい慰めではありませんでした。
あなたはかわいそうではありません。
そう言われているような気がした。
あなたは、醜いから選ばれなかったのではない。
選ぶ側に都合よく笑わなかっただけだ。
そう言われているような気がしました。
「出た?」
咲良ちゃんが聞きました。
画面は覗き込みません。
咲良ちゃんは、そういうところで境界線を越えない子です。
千歳は少し黙ってから答えました。
「イワナガヒメ」
咲良ちゃんの顔がぱっと明るくなります。
「え、すごい! 私のコノハナサクヤヒメと関係あるやつじゃん」
「姉妹なんでしょ?」
知ってる。
千歳はそう思いました。
さっき知ったばかりなのに、もう前から知っていたみたいに胸が重くなりました。
咲良ちゃんは嬉しそうにスマホを出しました。
「シェアしてくれたら、私のコレクションそろう」
その言葉は、正直でした。
正直すぎて、千歳はまた少し沈んだ。
共有されるのは、判定女神だけ。
鑑定本文も、詳しい診断も、千歳だけの画面に残ります。
それなのに、送信ボタンを押す指は重かった。
咲良ちゃんの画面に通知が出ます。
イワナガヒメが解放されました。
女神コレクションで、最後の影が光りました。
十三柱が、そろってしまいました。
咲良ちゃんは小さく声を上げました。
「やった……!」
本当に嬉しそうでした。
その顔を見て、千歳は思ったそうです。
私はたぶん、この顔を見たかった。
でも同時に、この顔のために使われたみたいで、少しだけ苦しい。
「やっぱ、ちーと私ってセットなんだね」
咲良ちゃんは嬉しそうに言いました。
その「セット」という言葉が、千歳には少し痛かった。
同じ箱に入っているもの。
でも、同じ役割ではないもの。
千歳は笑いました。
笑ったつもりでした。
その日の帰り道、咲良ちゃんはずっと嬉しそうでした。
「十三柱そろったの、すごくない?」
「うん」
「何か出るかな」
「どうだろ」
「出たら最初にちーに見せるね」
「うん」
会話は普通でした。
普通すぎて、余計に苦しかった。
咲良ちゃんは悪くない。
千歳と自分が姉妹女神だったことも、きっと良い意味で受け取っている。
だから千歳は、自分の沈みをどこへ置けばいいのか分かりませんでした。
家の近くで咲良ちゃんと別れたあと、千歳は道端の石を一つ拾いました。
その石は、ただの石です。
でもなぜか捨てられませんでした。
家に帰ってから、千歳はLoveSimを開きました。
相手の名前は、まだ未設定のままです。
本当は、AIに相談なんかしたくなかった。
AIは嫌いだ。
勝手に分かったようなことを言う。
人間より正しそうな顔をして、人間より冷たい言葉を返す。
でも、人間に言うよりはましだった。
咲良ちゃんには言えない。
澪ちゃんにも言えない。
では、この気持ちは、誰になら言えるのか。




