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この婚約に、恋の続きを込めて  作者: もちもちほっぺ


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29

陽ざしのやわらかい午後、街角の小さなカフェで。

タバサとミレイユは、窓辺の席で向かい合っていた。


店先の花籠からはラベンダーとレモンバームの香りが漂い、

テーブルにはふたり分のハーブティーと、スコーンの皿。


「で?」


唐突に、タバサが身を乗り出した。


「告白の返事、どうしたの? してないの?」


ミレイユの手元で、ティーカップが小さく揺れた。


「……な、なにをいきなり」


「いきなりじゃない。あんたが話してくれないから、こっちから聞くしかないじゃん」


タバサはやれやれといった様子でスコーンをちぎりながら続けた。


「だってさ、この前話してくれたじゃない。

“髪飾りをもらったの。こんなのはじめてで、すごく嬉しくて”って。

顔、めちゃくちゃにやけてたんだからね?」


ミレイユは視線を泳がせながら、ティーカップを持ち直した。


「……にやけてなんか、ないわよ」


「で、返事は? してないの?」


タバサの言葉は、やわらかくも鋭かった。


沈黙。

ミレイユは目を伏せ、カップの縁にそっと指を沿わせた。


「……まだ。してないの」


「なんで?」


「……怖いのかも。こっちが気持ちを伝えたら、壊れてしまう気がして」


「何が?」


「今みたいな関係が、よ」


タバサは眉を上げたあと、ふっと肩をすくめた。


「……あのね、ミレイユ」


彼女はスコーンをひとくちかじってから、まっすぐ言った。


「気持ちが伝わってない“今”だって、ちゃんと続く保証なんかないの。

だったら、伝えた上で築く関係のほうが、よっぽどしっかりするんじゃない?」


ミレイユの目が、ふっと揺れた。


「……タバサって、たまにずるいくらい、正しいこと言うのね」


「たまに、じゃないでしょ?」


口元に笑みを浮かべるタバサの前で、

ミレイユはほんの少しだけ、カップを握る手に力を込めた。


そして、静かに息を吐いた。


「……今度、ちゃんと話してみる」


「よし。やっと前進ね」


ミレイユがそう呟くように言うと、タバサはすかさず満足げに頷いた。


スコーンをもぐもぐと噛みながら、いたずらっぽい目を向けてくる。


「でもさ――」


「……なに?」


「早くしないと、誰かに取られちゃうかもよ?」


「っ――」


ミレイユは思わず、ティーカップを置く手を止めた。

目を見開いて、タバサを見返す。


「そ、そんなこと……」


「あるかもよ? その人、けっこうモテそうだもん。背も高いし、真面目なんでしょ?

そういう“頼れる無口系”って、刺さる人にはドンピシャなんだって」


「た、たしかに……でも……」


「それに、あの髪飾り、ちゃんと見れば細かい金細工があってさ、質も悪くない。

あんなの選べる男、そこらにはいないってば」


ミレイユは顔を伏せた。


頬がほんのりと赤い。

唇がわずかに揺れていた。


「……うう……私、ちゃんとしなきゃね」


「そうそう。取られてからじゃ遅いのよ?」


ウインクまでしてくるタバサに、ミレイユはつい苦笑してしまった。


ふたりの前で、紅茶の湯気がやわらかく立ちのぼる。

カップの中の琥珀色に映る未来は、少しだけ、温かく輝いて見えた。

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