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「さあ!次は私です!」
ミレイユが、らしくもなく一歩前に出た。
まだルカは鼻に手巾を押さえたままフラフラしており、アナスタシアは硬直したまま赤面していた。
ベビードールという衝撃を空気から追い出すには、これ以上の華やかさが必要だった。
ミレイユは、胸を張って言う。
「お嬢様が喜ぶものは、よーく知ってるつもりですよ!」
テーブルの上に並ぶ包みの一つ。
その上にそっとかけられていた薄布に、彼女は手を伸ばす。
ふわり。
軽く風が揺れた。
布の下から現れたのは――
ガラス細工の花冠だった。
色とりどりのガラスで形作られた花弁は、微かに光を透かし、角度によっては砂の中に埋もれた宝石のように輝く。
繊細なつくりでありながら、どこかあたたかみのある形だった。
アナスタシアは息をのむ。
それは――彼女が、ずっと記憶の底に埋もれさせていた、あの夏の名残だった。
「これ……」
「はい」
ミレイユが小さく頷いた。
「昔、お嬢様とルカ様が一緒に編んだ、あの花冠を、少し形を変えて……再現してみました」
アナスタシアの目が、わずかに揺れる。
胸の奥、遠く霞がかったような過去の風景に、光が差し込んだ気がした。
「それと、」
ミレイユは一歩下がり、にやりと微笑んで追い打ちをかける。
「――花の色合わせは、ルカ様がお手伝いしてくださったんですよ」
「……っ!」
横からルカが音もなく崩れ落ちた。
「ちょっ、ルカ様!?」
バルドーが慌てて支えに入る。
「ふふっ……」
アナスタシアは、ふっと肩を揺らして笑った。
顔を真っ赤にした夫を見下ろして、彼女はそっと花冠を手に取った。
それは、懐かしさと――新しい未来の始まりの色をしていた。
「もう、ミレイユ……ずるいわ」
アナスタシアは冗談めかして頬をふくらませた。
花冠を胸に抱きながら、視線はそのまま彼女に向けられている。
「え?」
ミレイユがきょとんとする。
「だって――」
アナスタシアは照れくさそうに微笑んだ。
「私は、最初からルカが選んでくれたプレゼントがいちばんになるって、思ってたのに」
ルカが再び鼻を押さえて悶えているのをよそに、言葉は続く。
「でもそれが、ふたりの思い出の花冠で、
しかもミレイユとルカの“手作り”だなんて……もう、圧勝じゃない」
ミレイユは思わず口元を覆って笑いをこらえた。
「ごめんなさい、お嬢様。でも嬉しいです。そう言っていただけて」
レティシアは腕を組んで「負けたわね」とあっさり認め、
ゴドフロワは「愛と記憶に勝る贈り物はないですな」と深く頷いていた。
アナスタシアは花冠をそっと頭にのせ、微笑む。
光を受けてきらめくその輪は、かつての約束と、今の愛と、これからの時間を象徴するようだった。
「……どれも、素敵だった」
花冠をそっと撫でながら、アナスタシアが優しく言った。
「じゃあ、全部にしよう」
その言葉が割り込んだのは、彼女が何かを続けようとしたその瞬間だった。
ルカは、すっと立ち上がっていた。
鼻血の余韻を残しつつも、今度はまっすぐ、迷いのない声だった。
「君のために選ばれたものは、全部大切だ。どれも一つ残らず、君にふさわしい」
「ルカ、でもそれは――」
「輸送の段取りは任せて。全部ちゃんと届けるわ」
レティシアがいつの間にか手帳を開いていた。
「信頼してる職人の箱詰め部隊、召喚する」
「完璧に封をして、最短の安全ルートを確保します」
ゴドフロワもすでにリストを確認している。
「ちょっと待って」
アナスタシアが手を上げかける間に、全てが決まっていった。
「……誰も、私の言うこと、聞いてないわよね?」
「うん、今だけは」
ルカは笑った。
「贈りたいから、贈る。いいでしょ?」
アナスタシアは、口を開けかけて、それから小さく笑った。
「……もう。みんな、ありがとう」
その声に、誰もがほんの少しだけ、頬を緩めた。




