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「これ、これで決まり!」
応接間にレティシアの声が響いたのは、ルカとゴドフロワがまだ最終調整をしている最中だった。
振り返ると、レティシアはすでに品物のひとつを掴み、迷いもなく手際よく包み紙を巻いている最中だった。
「……お決まりですか?」
バルドーが控えめに尋ねると、レティシアはふんと鼻を鳴らした。
「ええ、即決。迷ってる時間がもったいないわ。
アナスタシアへの贈り物なら、直感がいちばんよ」
「参考までに、どんな品を……」
ミレイユがそっとたずねかけたが、レティシアはすぐさま笑顔で言葉を切った。
「発表のときのお楽しみよ」
そのまま、テーブルの下で器用に紐を結ぶ。
「でもね」
誰にというわけでもなく、彼女はさらりと続けた。
「新婚といえば……これよね」
くるくると布を巻きながら、意味深に笑う。
その様子を見ていたミレイユとルカとバルドーは、ほぼ同時に目を合わせた。
――嫌な予感がした。
だが、本人はご機嫌そのものだった。
「さあて、誰の贈り物が一番アナの心を射抜くかしら。勝負よ!」
包装を終えた彼女は箱を抱え、まるで自分の勝利を疑わない、優雅な女王の風格だった。
騒がしさがひと段落し、応接間にほんの一瞬だけ静けさが落ちた。
バルドーは椅子の背にもたれたまま、黙ってミレイユを見ていた。
視線を送るというより、彼女が何を見ているのかを探るように。
ミレイユは無意識にテーブルの上、ある一角を時折見つめていた。
やがてバルドーは椅子を静かに引き、立ち上がる。
誰も気づかないほどの自然な動きで、商品が並べられたテーブルへ歩を進めた。
ルカやゴドフロワが目を上げた時には、彼はもうひとつの髪飾りの前に立っていた。
金細工に繊細な彫りが施された、細く優美な作り。
装飾は控えめだが、動くたび光の粒が舞うようにきらめく。
「私は……これにします」
バルドーはそのままゴドフロワに向き直り、短く言った。
「構いませんね?」
ゴドフロワは少し目を見開いてから、にやりと口角を上げた。
「ええ、もちろん。よくお似合いになる方がきっといらっしゃるんでしょう」
返された言葉には何も答えず、バルドーは静かに頷いた。
テーブルに広げられた品々のなかで、ミレイユだけはしばらく一点を見つめていた。
それは完成された商品ではなく、色とりどりのガラスのアクセサリーパーツが並んだ小さな区画。
透き通る花びらのようなもの、朝露のような粒、揺れる光のかけら――
それぞれに違う色、形、質感があった。
だが彼女の視線は、選んでいるというより“考えている”ようだった。
「……お悩みですか?」
近くにいたゴドフロワが声をかけると、ミレイユは頷いた。
「いえ、どれにするかは、もう決めていたんです」
「では?」
「どれでつくるかを、迷っていました」
ゴドフロワはにこやかに目を細める。
「それなら、とびきりのものを選ばなくてはなりませんね」
ミレイユは慎重にいくつかのパーツをトレーに取り、
ふと顔を上げて近くにいたルカを見た。
「ルカ様。……少しだけ、お手を貸していただけますか?」
「え? いいけど」
即答だった。
ミレイユが差し出したトレーには、透明なガラスの花弁パーツがいくつか並んでいる。
「これを、花の形になるように並べていただけますか? 色の組み合わせだけ、私が決めますので」
ルカは少し戸惑いながらも、トレーの前に座った。
「こう、で……いいのかな?」
「はい、それで大丈夫です。あと、こちらはもう少し濃い青と入れ替えて……」
ふたりはしばらく静かに、並べる作業に集中した。
ガラス同士が触れ合う、澄んだ音。
指先の微細な調整。
角度と光の具合を確かめながら、ひとつ、またひとつ。
やがてミレイユが満足げに微笑んだ。
「ありがとうございます。あとは……」
「はい、あとは私の出番ですね」
タイミングを見計らって現れたのは、ゴドフロワが呼んだ専属の細工師だった。
白衣に手袋、繊細な道具を抱えていた。
「大切な方への贈り物です。仕上げは、心して務めさせていただきます」
ミレイユはぺこりと丁寧に頭を下げ、トレーを預けた。
花のようなガラスのきらめきに、ルカも少しだけ目を細めていた。




