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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第九章 ミクロな世界の戦争

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「炎」の場合 ①

怒涛の4/n連投


南部戦争は、当初両国とも小競り合いに留まると見ていた。


それは、南部東側盆地のルサリア聖盟国が、南部西側平原のヴァルディア王国に「勇者の解放」を宣言し、東境の支流都市へ軍を進めたことに始まる。


ルサリアは、低ランクダンジョンが頻繁に発生する土地だった。


瘴気と霧が立ち込め、魔物が蔓延る。


必然的に戦えぬ者は逃げ去るか消え去り、後に残るのは人口に比例して異常な程の数の勇者、そしてそれに対してあまりに脆弱な政治体制。


ダンジョンとは土地に巣食う病巣だ。


地は魔力にて汚染され、過剰なエネルギーはまともな作物を枯らし、家畜を魔物と化す。


大国であれば褒賞にて取り払うこともできようが、小国であるルサリアにそれを成す力はなかった。


国家よりも強い力を持つ勇者集団を抱えるルサリア。


不満は募る。


崩壊は目に見えていた。


外に敵を作る他なかったのだろう。


時の王は、勇者を王属騎士として管理していた隣国、ヴァルディアへの侵攻を宣言した。





滑らかな大理石で出来た円卓は、闇に浮かぶ月のように、中心だけが静かに照らされている。


円卓に座る面々は皆一様に白色の光の影となって黒く沈むように見えた。


黒い壁は音を吸い、影は肩章や指先を鋭く切り取っている。


冒険者協会本部、最高幹部が集まるその円卓の中心には2人の魔女が立っていた。


一人の魔女は黒を重ねた静謐そのものだった。金髪と薄灰の瞳は零度を含み、艶を抑えた外套は光を拒む。

縫い込まれた細い銀の紋様だけが白い照明を受けて浮かび上がる。


腰を絞る装具と長手袋は実用性に徹し、布の隙間から黒ずんだ魔道具が除いていた。


もう一人の魔女は、同じ円卓の中心にあっても空気を軽く歪めていた。


赤を基調とした衣装は大胆で、柔らかな布が照明を受けて生き生きと揺れる。


銀髪は照明を弾くように輝き、蒼い瞳は悪戯めいた光を宿したまま、円卓の重苦しさを意にも介さず周囲を見渡す。


無造作に羽織った上着の内側には幾重ものスクロールが隠され、袖口や裾に走る金の装飾が彼女の魔力に呼応して煌めいていた。


「…では、これより南部戦線への戦力…」



「もう少く景気良くできなかったんですかー?」



厳かに口を開いた老齢の幹部の言葉を、赤い魔女が遮った。


「不用意な発言はお控え下さい。」


別の幹部がそれを咎めるものの、赤い魔女はなお口を尖らせた。


「だってあまりにも辛気臭いですよこれー。…そだ、ライト、ライト置きましょ暖色系の奴。お目目悪くなっちゃいますよ?この間この子が作ってくれたんです。スタンドが可愛くって、やっぱりどちらかって言うと…あうっ」


悲鳴をあげて言葉を詰まらせる赤い魔女。


赤い魔女の尻を黒い魔女が後ろ手で叩いたようだった。


「…酷いですよぉ…。」


「強制停止ボタンを押しただけだよ。」


涙目になりながら抗議する赤い魔女に、黒い魔女は鼻を鳴らして返した。



「……それでは、これより南部戦争への戦力投入について協議を開始する。」



老齢な幹部が咳払いをし、協議が開始された。





暖炉の灯に周囲がわずかに揺れる。


火の前に座る影が一つ。


赤いローブは紅く反射し、透き通るような銀髪もまたオレンジに染まっている。


外は暗く、部屋は静かで、時折弾ける木の音と、ページを捲る音がその空間を占めていた。



「ちゃんと点けろつったろこれ。」


「っわう」


唐突に部屋に光が灯る。


突然の出来事に本を読んでいた赤い魔女は奇妙な声を上げ、椅子をがたつかせた。


恐る恐る後ろを振り向くと、そこには扉の前で腕を組んでこちらを見下ろす黒い魔女がいた。


「…え、エリゼ…。」


昼間着ていた衣装は薄手のチュニックに変わっており、金髪は無造作に下ろされている。


整った片眉を吊り上げてこちらに向く視線に、赤い魔女は思わず椅子に隠れた。



…。




魔力回路は正常に照明をつけている。


エリゼは壁のスイッチから手を離し、椅子から目だけを出している姉に向かって言った。


「お目目云々をお偉いさんに説いてたのは誰だっけ?リナ。」


「ち、違いますよー?あそこは、雰囲気が、そう、雰囲気が悪かったから、明るさってよりかは、雰囲気が、だから違くてぇ」


「違うのは論点だよ。」


ため息をつき、側のソファに座り込む。


「よくわからんね。雰囲気?見えやすい方が大事だろ魔導書なんか。」


「あ、っでもほら、作ってくれたスタンドはちゃんと使ってたよ?」


リナが椅子の陰からスタンドを見せる。


「最小光量で?気質なのかね、職業的な。」


半眼で返すエリゼに、リナは目を輝かせた。


「そう!そうなんですよー!職業的に、やっぱりこう言う環境で色々やるのがいいって言うか、便利っていうか!」


「んなわけないだろ阿保。」


リナが口を膨れさせる。


エリゼは鼻で笑い、ソファで伸びをして言った。


「とにかく、さっさとその重装備片付けな。強制呼び出しくらって続きが気になってたのも分かるが、皺ができるし、目に悪い。」


リナの姿は、冒険者協会に呼び出された時の赤いドレスのままだった。


「えー、いいじゃないですか、明日も着るんだしぃー。」


「それが罷り通れば、世界はもっと楽だったろうね。」


エリゼは立ち上がり、リナの背を掴んで持ち上げた。


「ぐえっ」


リナはカエルが潰れたような声を出した。


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