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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第九章 ミクロな世界の戦争

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Code.2 (3)

カプセル型のポットが青白いスパークを放っている。


接続された多くの絶縁パイプはポットの下から部屋全体を埋め尽くすように広がり、それは一見して部屋に飲まれていくような、有機的な様相を醸していた。


ポットの表面に幾つかの魔法陣が展開される。


それらは歯車のように絡み合い、複雑なプロセスを経て中心に多大なエネルギーとそれを包する外殻を形成する。


紫電。


部屋全体が魔力によって滲むように歪み、パイプと、ポットが震え出す。


鋭い音が唐突に響いた。


獣のような唸りをあげて回転している術式が、一瞬その噛み合いを外れる。


暴力的に精緻であったそれらは僅かな綻びによってその構成を見誤る。


青白いひびが術式と空間そのものを分断し、パイプの中を通っていた莫大なエネルギーが溢れ出す。


行き場を失ったエネルギーが圧縮され、部屋そのものが奔流に押し流される。


解放されたエネルギーは青白い大蛇のように空に向かって放たれ、そして結界に衝突してその波紋を残した。



天井の配線が剥き出しになり、ショートして真っ赤な雨を降らせる。


文字通り降りかかった火の粉を払いつつ、安曇真澄は黒焦げになったポットから這い出てきた石田に向かって口を開けた。


「今のでシステムに影響が出るくらいのは2回目。結界に当たったのは今月に入って3回、探知されるレベルまで引き下げれば10回は超すんじゃなくて?」


「サラ、今ので充填率は?」


冷ややかな安曇の声を石田は無視した。


問われたサラは手元の液晶をスクロールする。


「総充填率は36%、今回でのものに絞りますと9%弱かと。」


「そうか…。」


目を伏せる石田に、安曇は足を組み替えて言った。


「外周での魔王軍との衝突も激化してる。今はまだ偵察兵しか来てないけど、女神には手を出せないし、張った結界も魔王城深層級が来たら破られかねない。エネルギーがいくらあっても、術式が耐えられないわ。」


「その時は俺が対処する。エネルギーそのものを直接防御に転用すればいい。結界の術式に関してもCode.5なら問題ないしな。」


安曇の言葉に、焼けこげた操作端末から物理ディスクを取り出した増井が返す。


それを安曇は鼻で笑った。


「今は崩壊パックによる余剰とアレイヌへの攻撃の収支が合わないから見逃されてるだけ。そんなことして釣り合いが崩れたら崩壊パックが次のフェーズに移行するまでの期限が早まることになるわよ。その時余分に失われる命のことを、少なくともあなた達は許容してはいけないのではなくて?」


まぁ。と、安曇は腕についた枷を左右に振る。


「貴方たちにもうそんな倫理観は無いのかも。」


大森林の処理を小崎1人にやらせてるものね。安曇はため息をつきながら机に乗った割れかけのグラスを弾いた。


地面に落ちたグラスが透明な高音と共に砕けた。


「ではユーリーン1人で女神の対処をしろと?数多の魔物を、人類救済の願いを託せと?」


安曇を睨みつけた石田が腹の底から響くような声で言う。


「誰か1人に責任を負わせたがるわよね。あなた。龍樹から私になって、今度はあの子?人間がどうしてこんなにたくさんいるか知ってる?1人じゃ何もできないからよ。まぁそれももう前提からなくなりそうなのだけど。」


「人類はもうかつてのそれでは無い。力も、価値も、命も。取り巻く全てが、何もかもが違う。」


「それじゃあなぜ私達は愚かなままなわけ?神様になれたって、本質は変わらない。アガペーはもう無いのよ?忘れないで。」


石田は安曇を睨んだまま何も言わない。


沈黙。


やがて安曇はその視線を切ってサラに言った。


「結界の修繕をするわ。連れてって。」


「分かりました。」


天井の吹き飛んだ実験場の戸が勢いよく閉められた。

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