錬金術師の場合 ⑤
{「雷光魔法Lv.8」の発動を確認…
肩を大きく切り裂かれた魔術師が、倒れながら杖の先を白騎士に向ける。
熟練した魔術師の魔法陣は瞬時に構築を終え、込められた魔力から事象を発動させんと光輝く。
それよりも先に白騎士の指先が魔法陣を貫いていた。
杖の先端、魔力補助のための宝玉を握り潰し、顕になった大口を縦に開いて魔術師を噛み殺さんと迫る。
さらにそれよりも先、盗賊が動いていた。
ブラムが投げつけた盾を回収、白騎士の牙が魔術師の頭を噛み砕かんと迫る寸前に身を割り込ませ、盾で白騎士の頭を弾く。
反動で吹き飛ぶ盗賊と魔術師。
ブラムとミラは駆け出した。
{「堅牢Lv.8」の発動を確認しました。}
{「不動Lv.10」の発動を確認しました。}
{「要塞Lv.10」の発動を確認しました。}
青色の結界を纏ったブラムが白騎士の脇腹に突進する。
シールドバッシュにより混乱している最中、突然の横ベクトルに白騎士の体幹が大きく崩れ、地面に引き倒される。
{「命中Lv.10」を発動しました。}
{「命中Lv.10」を発動しました。}
{「命中Lv.10」を発動しました。}
ミラの手から放たれた瓶が3つ空中で回転する。
それらは其々白騎士の頭、右腕、左足に着弾し、氷結効果と共に地面にそれらを固定した。
「ソリス!」
{「雷光魔法Lv.8」の発動を確認しました。}
盗賊の声に魔術師が反応する。
瞬時に退くブラム。
完全に身動きが取れなくなった白騎士の脳天に雷撃が降り注いだ。
雷轟が鳴り響き、白騎士の皮膚表面が一瞬で蒸発する。
極大の雷ダメージに白騎士は抵抗もできず炭と化した。
ピクリとも動かなくなった白騎士から目を離し、ネクロマンサーの方を向く。
白騎士によって神官は全滅した。
あれほどの聖魔法を受けたのだ。
回復にはそれなりの時間を要する筈。
事実、ネクロマンサーの肉体はその多くが灰と化し、ローブは失われ、残るは頭蓋骨と右腕のみのようだった。
ブラムが盾を構え、盗賊がナイフを取る。魔術師が空で詠唱をし、ミラは火属性錬金術の瓶を取り出した。
戦線の様子は本部も把握している。
増援が来るまで耐え切るのみ。
「いくぞ!!」
{「要塞Lv.10」の発動を確認しました。}
ブラムがネクロマンサーに向けて結界を展開した。
背後の白騎士の死体頭上に、魔法陣が展開された。
「じばっ
魔法陣から術式情報を読み取った魔術師が目を丸くする。
白騎士の頭に刻まれた魔法。
死亡時レベルアップ狙いの自爆術。
煉獄魔法が、顕現した。
…。
ミラが意識を回復させた時、自身の体に覆い被さっているそれに気がついた。
鎧は焼けこげ、背中は背骨が見えるまで炭化が進んでいる。
左足はなく、抱きつくようにかかる腕は動いた拍子に根本からもげてしまった。
後頭部もまた大きく削れ、頭の中腹あたりで黒く固まっているが、その顔は識別ができた。
「…ブラムちゃん。」
要塞スキルは、一時的に物理或いは魔法に対しての結界を展開することができるが、その間術者の防御力は被ダメージに参照されなくなる。
結果としてブラムは生身で煉獄魔法を受けたのだった。
ブラムの死体から抜け出し、ミラは立ち上がる。
盗賊と魔術師の姿は見当たらなかった。
ミラより白騎士に近かった事を考えるに、死亡したと考えるのが妥当だろう。
体を見回す。
見たところ大きな怪我はないようだった。
所々軽度の火傷はあるものの、戦闘に支障はない。
ネクロマンサーの方を向く。
気絶していた期間はわからないが、すでにネクロマンサーの肉体はほとんどが再生していた。
黒いローブをはためかせ、蒼炎の杖を掲げている。
魔法袋の中を弄る。
残弾はまだある。
しかし、これらはネクロマンサーに直接的なダメージを与えられるものではなかった。
「…逃げよっか!」
Uターンしてネクロマンサーから逃げ出すミラ。
その進行方向に突然、見慣れた姿が現れた。
「あれ?ユーメイちゃんとソリスちゃん?」
そこにいたのは盗賊と魔術師。
「逃げ…
ミラが2人に声をかけた瞬間、盗賊のショートソードがミラの鼻先を掠めた。
…よ。」
思わず足を止めたミラに、魔術師が失ったはずの杖を向ける。
見れば、それは元の杖ではなく、ネクロマンサーが持っているものと同様蒼色の炎を纏っていた。
「あー」
跳躍。
一瞬後、ミラが立っていた地点に雷が直撃した。
土埃を上げる背後。
着地したミラは魔法瓶を取り出し構えた。
「ごめんねっ」
大きく振りかぶる。
が、その腕を背後から押さえる手があった。
「ブラム…ちゃん?」
半分炭になった腕でミラの腕を押さえるブラムの死体は、残った右足で立ちながらミラを見下ろしていた。
「わっ。」
腕を掴んだままミラを投げ飛ばすブラム。
フィジカル差になす術もなく吹き飛ばされ、穴の付近に転がる。
頭を抑えて立ちあがろうとしたところで、複数の武器がそれを止めた。
ロングソード、杖、槍、無手、剣、その他複数。
それらにはほとんど頭がついておらず、残っているものも体のどこかを欠損していた。
骨が軋む音が聞こえた。
ネクロマンサーの方に目をやる。
仲間に囲まれ身動きが取れなくなっているミラを見、ネクロマンサーは笑っていた。
「…。」
ミラは目を伏せ、口の中の「それ」を噛み砕かんとした。
その時。
「お前のやり方は、いつか大勢の敵を作ると思ってたよ!!!」
頭上。
穴の上。
ネクロマンサーが浮くさらにその上。
ネクロマンサーと同じ蒼炎に身を包み、しかしてその肉体は生前と同じように躍動している。
構えるは普段使っている錆びついた拳銃ではない。
2本のバレルが連なる双眸のようにそれの頭に向いていた。
青い炎が冷たい銃身を這い回り、細い蛇のように螺旋を描いて木製のストックを舐め上げる。
二連式散弾銃
胴程もある巨大なその銃をネクロマンサーの後頭部に突きつけたエリゼ・エンバースタークは、けたたましい笑い声を上げながら引き金を引いた。




