九十一話 人影
「うぅ…」
暑くて寝苦しい夜。ベッドの上でミーナはゴロゴロとして少しでも涼しい場所を探していた。
「うぅ…暑い…」
暑さに我慢できず、目を覚ましベッドから出る。
今日は部屋の中が異様に暗い。家の近くに街灯は無いものの普段なら月明かりで多少窓から光が漏れてくるが全く漏れてこない。
ミーナは喉が渇いた為近くに置いてあったランタンに火を灯し台所へ向かう。
廊下に出ると夕方の時と同じ、洗面所の方から謎の視線を感じ、少し恐怖を感じたが気のせいだと自分に言い聞かせながら台所へ行きコップ一杯の水を飲む。
ベキッ…
廊下から謎の音を耳にしたミーナはランタンを照らし廊下へ向かう。音は謎の視線を感じた洗面所の方から聞こえ、ランタンを向けるが何も見えない。
するとガサガサと何かが床を這っているような音が聞こえ足元を見た。
「きゃあああ!」
影から大量のゴキブリやムカデなどの虫がガサガサとミーナの元へ押し寄せ数匹が足をつたっていた。驚きのあまり脚についた虫を払うがバランスを崩してしまい尻もちをつきランタンを落とす。
「……あれ?」
ミーナは再び床と脚を見るが虫の姿はなく落ちているランタンだけだった。だが脚には虫が上ってくる時の感覚がまだある。不安に思いながら立ち上がりランタンを手に取ろうとすると今度は寝室から視線を感じどこからか子供の笑い声が聞こえる。
「何…?…そこに誰かいるの!?」
ミーナは寝室に向かって叫ぶが何も返答はなく、子供の笑い声も途絶え無音が続きミーナはゆっくりと寝室のドアに手をかけようと近寄る。
すると突然寝室のドアが勢いよく開き中から暗くてよく見えないが大きな人影がミーナに飛びつき押し倒されてしまう。力は非常に強く掴まれている両腕に痛みを感じる。
「ぐっ…いた……」
ミーナはとっさに魔法を出し、押さえつけていた人を吹き飛ばすとミーナは玄関のドアの前へ移動する。人は飛ばされた勢いで体を壁に勢いよく打ちつけ首と腕から骨の折れるような音とグシャという鈍い音が鳴った。
「はぁ…はぁ…あなたは誰なの!?」
ミーナは声を上げながら言う。人影は首が90度近く折れ曲がり、片腕も関節から折れ逆の方向を向いており痛々しい姿で立ち上がりクスクスと笑い声を出す。
バギバギバギッ!
凄まじい音をあげながら折れ曲がった首を手を使わず戻し、折れた片腕もぐりんとねじる様に動かすと元に戻った。
人間じゃないと思ったミーナは玄関から逃げ出し、それを見た人影は高笑いをした。
「はぁ…!はぁ…!」(何あれ!あんなの人間じゃない!化け物!?)
人気のない一本道を走って逃げ、街中に入ったところで階段で足を滑らせてしまいゴロゴロと転がり落ちてしまう。幸いにも短い階段だった為軽い怪我で済んだが肘を擦り剥き、左足首を痛めてしまい立ち上がる事が出来なくなった。
「いったぁ…」(立てない…しかも…街もなんか変…人の気配を感じない…)
すると目の前に襲ってきた人影が笑いながらミーナの事を見下し、口を大きく開くとミーナにかぶりつこうとしてきた。ミーナは逃げられないと確信しギュッと目を瞑った。
チュンチュン…
「……あれ…?」
外から聞こえる鳥のさえずりで目を覚ましたミーナは呆然とした。
「…え?」(ここは…私の家の中…?じゃあ…さっきのは…夢?)
ミーナは不思議に思いながらもベッドから起き立ち上がろうとする。
「いたっ!」
立ち上がると左足首に痛みを感じ壁に寄りかかる。さらに肘には怪我がありミーナはゾッとする。
「うそ…夢じゃないの…?」
ミーナは寝室を出てリビングへ向かおうとすると夢の中で落としたランタンが廊下に転がっていた。
それを見てミーナは夢じゃなかったんだと思いながらリビングへ移動し、救急箱から絆創膏と湿布を取り出し患部に貼る。
安静にしてた方がいいのか迷ったものの、念の為と思い町の病院へ向かう事にしたが歩くと痛みを感じる為出来るだけ痛みを感じずに済みそうな箒に乗り飛んでいく事にした。




