八十二話 買い物
次の日の朝9時ぐらい
パトリシアは日課の買い出しへ行く前にメンバー全員に何を買ってきて欲しいか聞き回っていた。
(えーっと…次はキアラさんとハンリンさん、ザビーさん、グレッタさんですね……キアラさんは…やっぱりいつものところにいましたね…)
暖炉の近くでテーブルに足を乗せながら椅子に座り本を読んでいるキアラを見つけパトリシアは恐る恐る近寄る。
「……あ…あの…」
「なんだよ」
「買い出し行くんで…何か買ってきて欲しいものってあります…?」
「こいつの餌。何かは分かるよな?」
「はい…他には…」
「ねぇよ…さっさとどっか行ってくれ…うぜぇから」
キアラは手で邪魔だという感じに動かすと再び「独裁国家」という本を読み出す。パトリシアは何も言い返す事ができずとぼとぼ歩きながらメモを書く。キアラが買ってきて欲しいものは足元で大人しく寝ていたドーベルマンの餌1ダースだった。
(あのドーベルマン…すごく大人しかったなぁ…次はハンリンさん達ですね…)
コンコン
パトリシアはドアをノックし待つが反応が無くドアに耳を当て中の様子を伺った。
「すぅー…すぅー…」
(寝てる…)
中から寝息が聞こえ、パトリシアは起こさないようにとゆっくりとドアを開け部屋へと入る。部屋の中は昨日着たであろう服が床に散乱しておりに拾い上げるとベッドから寝返りをうったのかぎしっとベッドの軋む音がした。
「うーん…お姉ちゃん…えへへ…」
(可愛いなぁ…はっ…!そうだった…忘れてた…)
パトリシアは部屋に来た理由を思い出し、ドレッサーに置いてあるメモ帳を手に取り確認した。
(えーっと…お菓子っと…次はグレッタさんですね…)
パトリシアは静かに部屋を出て洗面室に向かい、ハンリンとザビーの着ていた服を洗濯機に入れようとしていたがボーっと眺めているうちにある好奇心に襲われた。
(そういえば…ハンリンさん達の部屋…初めて入ったけど良い匂いしたなぁ…これもするのかな…)
「はぁ…はぁ…」
息を荒げながら手に持っているハンリンとザビーの衣類をゆっくりと顔に近づけ、匂いを嗅いだ。
「何してるの?」
後ろから声が聞こえ、パトリシアはくるっと後ろを振り返るとそこには眼に隈があり眠そうに頭をポリポリしているグレッタが立っていた。
「あっ!!グ…グレッタ…さん…おっ…おはようございます…」
「うん、おはよう。また人の服嗅いでたのかい?」
「い…いえ………はい…またやってしまいました…」
「まあ、パトリシアの能力的に仕方ないと思うけど…秘密にしといてあげるから次から気をつけなよ?あと、買い出し行くんだっけ…?」
「はい…何か買ってきてほしいものってありますか?」
「うーん…包帯と消毒液かな…いつもの薬局でいいよ。それと、この二人に私の事を聞かれたら知らないって言って、しつこかったら殺すなりして」
グレッタはそう言い、白衣の中から写真を二枚取り出しパトリシアに渡した。
「そっ…そんなっ!私には出来ませんよ!弱いですし…ならキアラさんに任せた方が…!」
「本当はそうしたいけど…キアラは戦闘能力的に最終手段で使いたいし今は時間稼ぎがしたい。だからお願い」
「…わかりました…やってみます…」
とぼとぼと肩を落としながら玄関に向かうパトリシアをグレッタは少し心配そうに眺めた。
パトリシアはメモ帳を眺めながら商店街を目指した。
(私にそんな事出来るのかな…うぅ…まぁそう簡単に会わないだろうし大丈夫だよね…)
ドンッ
メモ帳を眺めながら歩いていたせいで前を見ておらず、誰かとぶつかってしまったパトリシアは尻餅をついてしまった。
「わりぃ…大丈夫か?」
「はい…すみま…あっ……」
顔を上げると目の前にはパトリシアに手を差し伸べているマーガレットと後ろにジャックがいた。
パトリシアは差し伸べられた手を掴み立ち上がるとグレッタに言われた事を思い出しどうすればいいか混乱し始めうつむきながら唇を噛む。
「怪我とかしてないか…?」
「は…ははは…はっ…はい…だ…大丈夫…です………」
「そうか…ならよかった…それじゃあな」
マーガレットはパトリシアの肩をポンと叩き横を通り過ぎる。続いてジャックも通り過ぎるがパトリシアは冷や汗を流し、うつむいたまま震える唇を噛みしめる。
「あっ…あのっ…!」
「ん?」
「あ………」
パトリシアは無意識にマーガレット達を呼び止めてしまった事によりさらに混乱し頭の中が真っ白になってしまう。恥ずかしいさと後悔により再び俯き涙目になった。
(あああああああ…!私のバカあああああ!このまま放っておけば買い物して終わりだったのにいいぃ…バカバカバカバカバカバカバカバカ!)
「おい、どうした…?」
マーガレットは心配になりパトリシアの隣に立ち、肩に手を添えるとパトリシアはビクッと驚き体をガクガクと震え息をはぁはぁと荒くするとガクッと膝から崩れた。
「おっおい!大丈夫か?ジャック、こいつ具合悪いんじゃないか…?」
「え?まじ?この辺に医者ってあったかな…」
(あああお願いもうほっといて…お願い…お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い…)
小声でぶつぶつと「お願い」を連呼しているパトリシアの足元からじわじわと黒い影が現れ、ゆっくりとマーガレットとジャックの足元まで広がっていく。
目をギュッと瞑り5秒ぐらいするとマーガレット達の声が聞こえなくなりパトリシアは目をゆっくりと開き辺りを見渡すがマーガレット達の姿はなかった。
「…あれ?いない……?……ふぅー…よかった……買い物行かないと…」
パトリシアは立ち上がり再び商店街に向け歩き出した。




