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ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
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第六十話

 長時間の行軍と戦いの連続で、自覚していない疲労が溜まっていた。


 戦いの昂揚に酔ってしまっていた。


 知り合いの死を防げなくて精神的に不安定になっていた。


 先の事を考え、まだ迷っていた。


 後日、落ち着いて考えたると、色々な要因があったと思いつきます。


 でも、この時は、そこまで考える余裕はなったのです。


 木が燃える明りに引き寄せられたのか、使役していた吸血鬼が倒されたからか、理由は不明ですが、撤退を開始した直後、大きすぎる虫の羽音が聞こえてきました。


 薄暗く曇った街の空を覆い尽くすような巨大昆虫の群れ。この大きな街に散らばっていた軍隊が種別を問わずに集まって来ているみたいです。


 迫り来る群れ全てと戦う必要はもちろんないのですが、あれだけ数が揃うと百戦錬磨の冒険者たちでも恐怖を覚えるのは仕方ないこと。


 それでも皆が脚を止めることなく一塊で第三の門を超え、堀を超えた時でした。


 上空を大きな影が過ぎて行きます。その巨大な影は迷うことなく虫の群れに突入し、そして捕食。自然系ではよくある光景ですね。大きさが、普通サイズ成らの話なら問題ないのですが。


 その鳥、1メートルはある虫型モンスターを捕食する程の巨体。10メートルは余裕で超えていそうですね。それが一羽だけでなく、無数に南の空から押し寄せてきています。


 今の季節は春咲き。冬場、少なくなった餌を求め、未開の地である南から飛来してきたのでしょう。もしかしたら昆虫型モンスターの移動に合わせて動いていたのかもしれません。


 今までは吸血鬼や魔樹の気配で近づかなかったのに、それが消えて脅威がないと判断した可能性もありますが、今は真相を考えている時ではありません。


「こ、これは……最悪だ……」


 皆で足を止め、空を唖然と見上げる中、ボニファーツの呟きがやけに大きく聞こえました。その意味するところは……理解出来てしまいましたよ。


 強大な鳥型モンスター達が、昆虫モンスターを餌にするだけなら問題はないのですが、それを食べ終わった後、そのまま去るとは限らないのです。なにせ餌となる人間も沢山この近くには居ますからね。それに餌場だと思い縄張りでも作ると、この街は確実に破棄しなければなりません。


 折角、大本を叩いたのに、このままでは意味がなくなってしまいます。


 しかし、あれだけの巨体を誇るも飛行型モンスターに対応する戦力は、現実としてありません。完全に詰み状態なのです。不安に思うのも仕方ない事。そんな声が周りから漏れ聞こえますが、正直、手はないですね。


「今は、本陣に戻るのが先決。数が足りないし、脚を止めても仕方ない」


 それでも脚を進めるために僕は大きな声を出します。手はなくても、このまま立ち止まって居ても事態は好転しません。今は少しでも早く戻って、この街から撤退するべきでしょう。これ以上の事は国家レベルの話、帝国に頑張って貰うしかないですよ。


 僕の声に現実に戻ってきた何人かは、頷き周りにも声を掛けた後、歩みを再開します。


 表情がまだ暗いリコやサラ、残してきた冒険者たちと合流し、規模を増やし大通りを進んでいると、途中、横合いの道から昆虫型モンスターの襲来がありました。


 冒険者や捜索者の数はいるので迎撃は簡単でしたが、全ての昆虫型モンスターが魔樹に向かっている訳でもないのですね。気を引き締めないと危険です。


 警戒しながら進む事になると、どうしても速度を犠牲にするしかなく、そうなると襲われる可能性が高くなるのですが仕方ない事。


 何度かの襲撃で怪我人を出しながらも、第二門まで到着すると、短時間の休息に入りました。僕もフェイス部分を上げ、革の水袋の温くなった水で喉を潤します。


 エルヴィーラも疲れていたのでしょう。僕の差し出した水袋を受け取ると急いで飲むので、赤い口元から滑らかな顎のラインに沿って零してしまっていますね。


 その水滴が深い谷間を見せる大きな胸元にまで垂れ……これ以上は表情を見られたくないので、フェイス部分を下しておきます。


 短時間ですが、各員が休息を終えると門を出て撤収しようと動き出した時でした。


 上空から勢い良く降ってきた巨体が、僕たちの進路上に止まり、鳥足で掴んでいた虫型モンスターを、地面に叩きつけて潰すと、鋭利な嘴で啄ばむように捕食を開始します。


 なんて間の悪い事でしょう。


 捕食する邪魔をするつもりはないのですが、去って貰わないと先には進めない場所なのですよね。どうしたものかと迷っていると、不意にその鳥型モンスターと同種の大型モンスターも降り立ち食事を開始します。安全な場所だと認識してしまったのかもしれません。


「俺が蹴散らす間に、お前たちは先に進め」


 ボニファーツが覚悟を決めたようで、そう告げましたが、あの巨体、成功する確率は低いと見るべきでしょう。


「それは……」


 さすがに声を掛けようと思った時、更に巨大な影が僕たちを覆います。


 捕食者を捕食する者。更なる強者の降臨。


 全くこの可能性を考えないなんて、本当に、この時の僕は抜けていましたね。


 10メートル近くある鳥型モンスターに上空から襲い掛かってきた漆黒のソレは、周囲の建物を破壊しながら驚き暴れる鳥型モンスターの首筋を、大きく開いた顎(あぎと)で砕き、肉と骨を砕く音の後、血飛沫で赤く染まった口元から一度獲物を離すと、此方を見てきます。


 僕とは縁があり、前にも見た顔なのですが、前の個体よりも遥かに元気なその雄姿。まったく会いたくなかった個体です。


 漆黒のワイヴァーン。


 どう考えても話し合いで解決できないので、相手の出方を窺うしかない状況が、また腹立たしいですね。

熱も下がったので、再開させていただきます。

ご感想お待ちしております。

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