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ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
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第五十九話

「……ん?」


 戻ろうと思って歩き出そうと思ったのですが、戻る前にする事があるのではと思い動きを止めました。


 折角、希少なモンスターの素材があるのに、それを捨てて行く理由はないですよね。どうも、冷静とは言えない精神状態が続いていたのかもしれません。処理する情報が多すぎるので仕方ないですが、少しだけ時間に余裕もありますし、深く息を吐き出しましょう。


 兜の隙間から熱くなっていた体内の空気を吐き出した後、周囲を確認するとお宝の山が転がっているように見えてきました。


 不思議そうに此方を見ているエルヴィーラに顔を向け、回収する物を説明すると行動を開始します。


 腰に吊るしていた水袋の中身を捨てると、切断された魔界の大樹に近づき、その樹液を回収。後でゾルタンに頼んで保存の魔法を使って貰う必要がありますね。後は樹皮と枝も回収しておくのを忘れません。


 その後は吸血鬼の牙も念のため回収しておきました。一応は進化したらしいので普通の吸血鬼の素材より強力になるでしょう。


 その間に、エルヴィーラには精神集中して大技の準備をして貰います。魔樹の素材は僕隊だけが貰っておけばいいのですよ。後、残しておくと碌な事に成らないと思いますし、さっぱりと燃やして灰にしてしまう心算です。


 回収が終わるのと、精霊魔法の準備が終るのが同時だったので、ついでに真っ二つにした吸血鬼の死体もナ元に投げ捨て一緒に焼き捨ててしまいます。


 集中していたエルヴィーラのスキルが発動し、紅蓮の炎が魔樹と、ついでに死体を包み込むのを眺めた後、次は館の中を捜索します。


 勝利の篝火に他の人間たちが気を取られている間に捜索を終了させたいのです。


 裏口から大きな屋敷に、礼儀知らずと言われても窓から侵入。貴族の屋敷に相応しい大きな窓で助かりましたよ。必要以上に広いと感じる廊下に立ったら、血生臭い匂いが鼻につきました。碌でもない想像は出来るのですが、脚を止める理由にはならいですね。


 嫌な匂いと気配を頼りに薄暗い館の中を進んでいくと、地下に続く階段を発見したので、そこを下りて行きます。


 降りた先には大きな木製の扉があったのですが、幸運にも――もしくは不幸にも、開けっ放しだったので中の様子が一目で理解出来てしまいました。


 石畳の湿気が多そうな地下の一室。その床は血や臓物で汚れており、ついつい表情が曇ってしまいます。それも一人二人の量ではないでし、大人だけでもなかったですよ。


 その一室に足を踏み入れると、亡骸に残されていた衣服から、平民ではないと簡単に予想できました。今は弔い時間もないので詳しく見る余裕はなかったのですが、動き出す気配だけはないですね。


 その部屋の中央にそれはありました。


 禍々しい気配をさせる一枚の大きな黒い鱗。両手で抱える凧型盾(カイトシールド)サイズの鱗が目的の素材ですね。この吸血鬼の話から魔界の竜の鱗に付着していた肉を使って進化した事になるのでしょうか、観察すると、死体や地肉で汚れた床には魔法陣の痕跡もありますね。鱗は外側を下にした状態で置かれており、内側に肉などは付いていない綺麗な状態でした。


 その鱗を回収すると、部屋を後にします。外が騒がしくなってきたので、他に回収するものを探す時間的余裕はないですね。他の人間に見つからないように屋敷を出るのを忘れません。広い屋敷なので死角が多くて助かりましたよ。


 屋敷の陰から出ると、まだ燃えている魔樹の前で屯していたボニファーツ達を見つけたので、そちらに向かいます。


「これは?」


「大本は吸血鬼だったよ。その戦闘でね」


 ボニファーツが聞いて来たので、正直に敵の正体だけは答えます。その後、吸血鬼の最期の足掻きでこうなったと嘘の報告は忘れません。責任は死んだ吸血鬼に押しつけます。


 納得したボニファーツ達でしたが結構な傷を負っているようですね。僕も鎧に助けてもらいましたが、衝撃までは殺せずダメージは蓄積されていますね。戦闘が終了した後から少し鈍痛を覚える個所があります。


「大火事にはならないのが救いか……」


 感慨深げに誰かが呟きましたが、まだ終わりには早いかも知れません。


 この炎に誘われてか、蒸発する樹液の香りに誘われてか、無数の気配が此方に近づいてきています。一緒に燃えてくれると楽なのですけどね。


「っと、来たよ」


 僕がそう告げると、一瞬不思議そうな顔を浮かべたボニファーツ達でしたが、周囲から近づく羽音に気がつき臨戦態勢に入りました。流石ですね。


「撤退戦だな。ここまで来て死んだら馬鹿らしいぞ!」


 ボニファーツが吠えるように叫ぶと、冒険者捜索者問わず返事し、皆が一斉に行動を開始しました。目的は達しているのです。後は、接近する昆虫型モンスターを避け、無理なら撃退しながら本陣に戻る予定です。


 最後の頑張り……に成ってくれると良いのですが、何か嫌な感じもしますし、この騒動が終わるまでには、もう少し時間が必要なのかもしれません。

ご感想、お待ちしております。

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