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ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
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第五十八話

 正直、外見的にはアレなのですが、実力は本物。能力の差は覚悟の上です。


 目では終えないような速度で振るわれる、鋭利な爪や尻尾を、気配を頼りに回避していますが、空を切る音も尋常ではないですね。


 無防備に受けると危険極まりない攻撃なので、今は回避や防御を優先。一撃で再起不能になる心算はないのです。それでも交わしきれない攻撃が鎧の表面を削り、火花を何度も散らします。この鎧じゃなければ防ぎきれなかったですね。


 しかし、こうして周囲を気にせずに戦うのって久々なのですよ。戦いに集中できると言うか、変な感じもします。だからでしょうか、口元に笑みが浮かんできますね。


 戦いながら観察を続けていると、幾つかの事が理解できました。


 吸血鬼(チュパカブラ)は、身体能力は高いのですが、戦闘の技量自体は低いですね。今の体になってからの戦闘経験は少ないと見ました。確か変化したのも最近って話でしたし、納得もできます。


 それにドラゴンの力は、馴染みきっていない気もします。逆に吸血鬼の力に逆らっている気配すら感じるので、これは不死性も怪しいですね。予想を確認のため、ここは無理して攻撃に転じることにしました。


 相手の鋭利な爪を引きつけ、半身になって回避します。肩口の装甲で火花が散りましたが気にせずに剣を横薙ぎに一閃。


 回避しようと後ろに飛びのかれましたが、引きつけた攻撃の後だったので、胴体を剣先で切り裂く事に成功しました。剣先に着いた赤い液体が、振り切る勢いで宙を舞います。


「こ、この……下種があぁぁっ!」


 傷は浅く、ゆっくり塞がっているように見えるのですが、チュパカブラさん本気で怒っていますね。一番の懸念だったのが吸血鬼の不死性だったのですが、瞬時に再生しないみたいですし、これは殺しきれそうなので安心です。


 会話を楽しむ予定ではないので、無言で観察しながら、今までの経験と考察を元に勝ち筋を導き出します。一人では厳しいですけど、頼りになる女性が後ろに控えていてくれるのですよ。

 

 最初の仕返しに、まだ何か言いかけたチャパカブラさんに突撃。剣のリーチの手前でしたが、一度だけ出来る片手持ちにし、右腕を伸ばし振り下ろされる剣先を見て慌てていますね。


 上段からの振り下ろしなのですが、正直なところ重さと勢いはあるのですが、見た目ほど威力はないのですよね。それに細かい修正は無理なので、奇襲用なのですが、ここで使うのはあまり美味しくないのですよ。


 案の定、驚いたのも一瞬で、口元に笑みを浮かべながら懐に入って来ました。顔を突き出し大きな口を広げ並ぶ鋭い歯を見ると、鮫を連想しましたね。


 ここまでは計算通り、頭から突っ込んできたのは予想外の幸運です。


 空いていた左手を軽く握るだけで、手甲(ガントレット)の拳部分にワイバーンの爪が鋭利な煌めきを見せます。


 その拳をフック気味にチュパカブラの左目に叩きつけました。インパクトの瞬間に拳を強く握るのを忘れません。でも、硬度を誇る金属製の手甲(ガントレット)、それも棘付きで殴るのだから意味があるのか、些か疑問に感じますね。


 手に伝わる骨肉を抉り、潰す感触。僕の筋力と手甲(ガントレット)の付与された魔法効果が合わさり、吸血鬼(チュパカブラ)は、魔界樹の根元近くまで吹き飛びました。


 直ぐに追撃の矢が放たれます。体勢を立て直す暇を与えることなく、矢が傷ついた顔に命中すると刺さる瞬間、後方部分が爆発します。その爆発のエネルギーで更に深く鏃は突き刺さり、内部でも爆発。吸血鬼(チュパカブラ)の顔半分が大きく弾け飛び焼け爛れました。


 これは僕が冬の間に、エルヴィーラに教えた魔法の使い方なのですが、簡易のミサイルをイメージして伝えました。凄く喜ばれて抱きしめられたときの大きな胸の感触は今でも覚えています。


 それの影響でゾルタンも僕に教えてと煩くなってしまい、そもそも、うる覚えの現象だけしか知らない事が多く理屈までは説明できなかったですね。


 ここまで上手く進むとは予想外でしたが、この好機を逃がす気もありません。驚くのは後で出来るのです。


 両手で剣を構えなおすと、気に寄り添うようにしながら体勢を立て直す吸血鬼(チュパカブラ)に向かって走りました。


「どれ……ヴァイデ、力を貸そうかの。確りと握っておれよ」


 ゾルタンの声が聞こえると同時に、刃の水晶部分に魔力が集まり手に剣が震え出しました。なんだか耳鳴りもします。


 その震えを抑え込むように確りと柄を握ると、距離が詰まります。


 頭の右半分を吹き飛ばされても睨んでくる吸血鬼(チュパカブラ)の胴体部分を切り裂くように、左、横一閃に剣を振り抜きました。


 死角からの攻撃に対応が遅れたの吸血鬼(チュパカブラ)の胴体を切り裂く手応えのなさに驚きです。熱したナイフでバターを切るような感じと言えば良いのでしょうか……吸血鬼(チュパカブラ)の背後にあった分厚い魔界樹まで一緒に斬っていましたよ。


「そのまま一気にじゃ!」


 ゾルタンの叫びに答え、剣を目元で魔界樹に差しこむと走り出します。吸血鬼(チュパカブラ)にはエルヴィーラの第二、第三の矢が突き刺さり、肉変に変えていっていますしね。


 切り裂いた痕の綺麗な線から、まるで血液の様な赤い樹液を垂らしながら、大樹の根元を一周すると、軋むような音が聞こえてきました。


 抜くことなく刃を返し、館と反対側を抉るように切り裂くと、急いで根元から離れます。すでに剣から震えは感じませんが、水晶部分は熱されて赤くなっていますね。


「高周波ブレードじゃったか……二回も使えば、水晶は砕け散り、剣は死ぬのぉ」


 納得できる切れ味の説明なのですが……つまり、もう使えないと。怖い事してくれますよ、この魔法馬鹿は。成功してなかったらどうしたつもりでしょうか?


 言いたいことは沢山ありますが、大樹が倒れ始めたので、この場から離れてボニファーツ達と合流することにしました。

最近、少しずつ時間を見つけて誤字や変な文の修正をしていますが、内容に変更はございません。

ご感想、お待ちしております。

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