第五十七話
決着を見届けなくても、やる事に変わりはありません。
館を迂回するように突き進み、その奥に聳える大樹の根元まで来たのですが、案の定、一人の男が立っていました。
違和感を覚えるくらいに汚れのない貴族風の服装をした、病的な肌の二十代半ばに見える男。白い髪を後ろに撫でつけた赤い目のソレが口元を歪めると、長く伸びた犬歯が見えましたよ。
正体は、解ったのですが、まだ幾つかの疑問も残っています。聞いて教えてくれるか分からないのですが、なんとなく自信に満ちた表情から、大丈夫そうな気もしましたね。
「……あえて聞かないけど、何が目的か教えてくれるかな?」
大剣を両手で正眼に構えて声を掛けます。
相変わらず分厚い雲に覆われた空、魔樹の影響で瘴気渦巻く周囲、それに目の前の男の傲慢な表情。色々と雰囲気が出過ぎですよ。
「目的?それを聞いて……いや、無知なるものに、知恵を与えるのも一興か」
口元に嫌な笑みを浮かべて話し始めた姿を、白い目で眺めてしまいますよ。フルフェイスの兜なので、表情が見られないのは嬉しいですね。見られていたら、きっと話の途中でも怒られていました。
長々と面倒な言い回しをされましたが、要約すると簡単でした。吸血鬼の過去の苦労は流すとして、封印されたのを、領主の二男か三男だかが、領主に成りたくて封印を解除。その途中で若くて腕の立つ冒険者たちに邪魔されそうになったけど、復活には成功。冒険者を返り討ちにして部下に。更に封印を解いた男も消すと、前々から更なる進化をする予定だったので、それを実行したらしいです。
物語なら、復活する前に冒険者に阻止されたり、復活後に倒されたりしてくれるのに……負けちゃったのは仕方ないのですが、現実は厳しい物ですね。
もっと上手く進めてくれていれば、ここまで大事に成らずに、街に住んでいた人達の迷惑にもならなかったのにとは思うのですが、全て過ぎた話ですね。
「それに、この世界は犯されているしな。私も利用させてもらったよ」
饒舌な吸血鬼が、自分に酔いながら気に成る話を始めたので耳を傾けます。
この世界に、別次元から未知の情報を浸透させる力が働き、別の世界に繋がりやすい現象が起きているらしいです。300年ほど前から起こった現象で、頻度は10年に一度ほど。それでも100年前から最近まで、その現象が起こって居なかったそうですが、最近この近くで、その現象が起き、その時で来た次元の亀裂とも言えるものを利用し、魔樹の召喚を行ったそうです。
色々と気になる事があるのですが、今は置いておきましょう。
「なるほど……でも、どうして虫型モンスター?」
些細な疑問を呟いたら、耳も良いのか両腕を広げ、大げさな仕草で教えてくれました。どこまでも芝居がかっていますね。
復活し、手駒も手に入れたけど、不十分だったので、魔樹の瘴気に寄せられたモンスターを使役することにしたのですが、更なる高次元存在になるための時間も欲しかったそうです。
召喚した大樹に、偶然、魔界に住む不死竜の肉の一部が着いていたので、その腐肉を食い、力を馴染ませる時間が……だから太陽の下でも平気だったのですね。
最悪な情報です。
「そして……その進化した私の、最初の生贄になる栄誉をくれてやろう!」
そう宣言すると、不意に男の姿が変化していきました。
病的に白かった肌が背徳的に淀んだ濃い緑に変色し、衣服を引き裂きながら2メートルを超える大きさに。腕は細くなっていますが、先端は強靭な鍵爪状になり、太く逞しくなった脚の先端にも太い爪が伸びています。
頭部は真っ赤な目が大きくなり、口は耳元まで大きく裂け、鮫のようにも見える強靭な歯が並び、毛髪は消え変わりに頭頂部から背中まで縦に並ぶように棘状の角が特徴的ですね。
大きくなった頭部のためか、前傾姿勢に成りバランスと取るように身近けど太い尻尾が生えています。
「チュ、チュパカブラ……っ!」
その姿見た時、脳裏に蘇ったUMAの名前を呟いてしまいました。
UMAとは、Unidentified Mysterious Animalの略で、要するに未確認生物の事……って、本当に役に立たない知識ですよ。
でも、チュパカブラそっくりな姿に変化した元吸血鬼は、僕の言葉に目を細めます。小さく呟いたつもりが聞こえていたみたいですね。
「ほう、不可思議な響き、気にいったぞ。生贄の羊としては学があるな」
気にいられてしまいました。後ろのエルヴィーラから可哀想な子を見るような視線を背中に感じちゃいましたしね。夜の復讐理由が増えたようです。
姿はあれですが、戦闘力が増したのは事実なのです。
気を抜いたつもりはなかったのですが、不意に元吸血鬼の姿が霞んだかと思うと、正面に大きな気配が、見えなかったですが感を頼りに剣を振りますが、太い爪で弾かれます。
軽く腕は痺れましたが、すぐに追撃の気配が迫って来ました。慌てて更に剣を振り下ろし、追撃の爪を叩き落とします。押しきれませんでしたが、今度は此方の勝ちですね。大型化してくれたので、大剣と間合いが近いのは助かりますよ。
急な攻撃をした癖に、余裕を持った笑みを浮かべるのが、癇に障りますね。チュパカブラそっくりな顔で浮かべる表情だから余計にです。
それでも実力は確か。厳しい戦いに成る予感はしています。
感想、お待ちしています。




