第五十六話
門を潜ると、街の中心と言うべき帝国貴族の城だった場所、という過去形の表現が似合う変化を見せています。
かっては豪華な外観だったであろう大きな館の外観は、長年放置されたかのように色褪せ、何の植物か判断できない黒い蔦に覆われています。周囲にも瘴気が渦巻き、館の奥、中庭とでも言うべき場所から黒々とした大木の陰が見えますね。
入口まで続く広い石畳は、所々ひび割れ、人の腕ほどもありそうな何かの根の一部が突き出しています。足場は最悪ですよ。
騒動が起こって一週間以上が経過しているので、魔界から来たと言う魔界樹の瘴気の影響だというのは理解できますが、この変化は異様としか言えないです。
その石畳の上を進んでいたのですが、館の両開きの扉が、軋んだ音を立てながら開くと、中から数人の気配。入口まで20メートルほど手前で脚を止めると姿を現しました。
人数は6名。全員、元冒険者か捜索者なのでしょう。その装備は、なかなか豪華っぽかったですが、かなり破損しているようにも見えます。その6人が僕たちを赤く輝く目で睨みつけると、不意に体を縛られるような感覚に襲われました。
体に絡みつくよう感覚でしたが、意識を強く持てば問題なかったです。人間を辞めて手に入れた魔的な力だったので、対魔法抵抗ペンダントの効果もあったかも知れませんね。
僕も、エルヴィーラも、特に問題なかったのですが、不意にボニファーツが大きな声で叫びました。
「うおぉぉぉっ!この程度ぉぉぉっ!」
他の冒険者や捜索者も叫んでいますが、何人かは抵抗に失敗し、動けなくなっているようです。これは早く決着をつけないとですね。覚悟を決めると大剣を構え走りだそうとしたのですが、それより早くボニファーツが怒気を孕んだ声で話しかけてきました。
「お前らは、先に進め!奴らは俺が倒す」
「……知り合い?」
「あぁ、この街では、若手で一番の実力者……だった。気の良い奴らだったんだが……なっ!」
知り合い、もしかしたら、もっと深い関係かもしれませんね。フルフェイスの兜で表情は見ないのですが、怒りに染まっているのは容易に想像できますよ。ボニファーツの気持ちも理解出来るので、頷いて答えると、館を迂回するように、ゆっくり動き、それに合わせてボニファーツのパーティーで動けるメンバーが前に掛け出しました。
でも、素直に迂回はさせて貰えそうにないですね。後方から矢が飛んできて牽制してきますよ。それも戦闘が始まるまでだと思うのですが、どんな変質をしているか不明なので、油断は出来ないです。
もっとも、強くなっていてもベテラン達を出し抜くほど、強くはないと感じるのですけどね。今まで潜って来た修羅場は、伊達ではないのです。
正直、昆虫型モンスター達は、ある意味では弱体化していました。虫としての特性が全面に出ていた方が、手強かったと個人的には思います。もっともコントロール優先だったと言う考え方もできるのでしょうかね。
下手に動かないで隙を見つけて突破しようと敵のパーティーを見ていると、前衛3、遊撃1、後衛2のフォーメーションで、冒険者と捜索者、計8名を相手取るみたいです。
数的にはボニファーツ達が有利に思えますが、連携なんかを考えると厳しい戦いに成りそうです。
前衛同士がぶつかり合うと、予想外のスピードとパワーにボニファーツ達が押されています。それでも、流石ここまで来たベテラン揃いですね。致命傷を避け、相手の動きを見極めています。思考が鈍くなっているのか、強さに酔っているのか、居間の優勢を信じて、連携が乱れつつある元冒険者たち。
ボニファーツ達が一枚上手なのもあるでしょうが、かなり前のめりに成っていますね。この作って貰った好機を逃がす心算はありません。
エルヴィーラの方に顔を向け、小さく頷くと、戦線や館を回り込むように走りだしました。元冒険者たちの中で、遊撃担当が、僕たちの動きを察知して矢を放ってきましたが、それを剣の腹を盾にして受け止めると、更に加速していきます。
僕に矢を撃った遊撃担当から二の矢がないのは分かっていましたしね。
ベテラン相手に、そこまで余裕はないのですよ。案の定、捜索二人が逆に切り掛かり、遊撃担当を一気に倒していました。気が逸れた相手に、更に数でとは渋い選択ですね。
その間もガードを固め、仲間が倒されて激昂した元冒険者たちの勢いを交わし、逆に、より激しい勢いで潰し、相手のペースを乱し、自分たち有利になるようコントロールしながら戦いは終盤に向かって加速して行きました。
その戦闘を背後に感じながら館を大きく迂回するコースで、奥に聳える魔界の樹を目出して進みます。なによりの元凶はあの大木ですからね。ここまで来たら、きっちりとケリを付けます。
ベテラン達だけでなく、他にも沢山の冒険者や捜索者が、あんなに頑張ってくれているのですよ。僕たちも頑張らないとですよね。
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