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ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
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第五十四話

 いくつかの言葉が、頭を過りました。でも、その中で一番適した言葉を一つ選べと言われると――見誤った。


 この一言に成ると思います。


 少しの間、一緒に居たので情が移って、冷静に実力を見ていなかったのですよ。基本的に冒険者の失敗は、死に繋がるケースが多く、次が少ないと言われていますし、その通りだと思います。


 言い訳ですよね。


 ジャイアント・セイバービートルを一匹倒して、残りをと、少し離れた場所で戦っていたリコ達に視線を向けた、その時、大きく振りかぶったカタナのような角が、サッシャを袈裟切りにしていました。真っ赤な血に染まった鋭角な角が地面に着くと同時に、体を切り裂かれたサッシャも倒れていきました。


 その後ろには倒れているリコの姿が……攻撃から守るとしたみたいです。両手で持っていた剣を盾のように構えていましたが、予想外の勢いで反らしきれなかったのでしょう。


 その証拠に、セイバービートルは、斬撃を加速された体を地面に下してきます。大きく広げていた背中の羽を閉じながら……一度は耐えたけど、高速で飛ぶのではなく体を浮かし自重を前面に移動させ、威力を増したのかも知れませんね。


 でも、柔らかな背中を見せるような隙を、エルヴィーラは見逃せませんでした。


 背中の外殻が閉じきる前に、矢が深く突き刺さります。慌てて此方を向くセイバービートル。その眼には、僕が走り込んできた僕の姿が映っているかもですが、遅いです。


 剣の間合いに入ったその顔、振り下ろされた角を避けるように、真一文字に薙いだ刃が頭を捉えます。水晶の刃が深く突き刺さり、重量で粉砕されていくセイバービートルの頭部。確かな手応えを感じながら、後方に飛びのき距離を取りました。


 周囲を警戒すると、他のモンスターの気配は今の所なく、後方から門を突破した冒険者や捜索者が此方に向かってきているのが分かりました。


 警戒は続けたままですが、サッシャの亡骸に目を向けます。


 大きく体を切り裂かれ、赤い血を大量に失い、冷たくなっていく亡骸。何が起こったのか理解できない死に顔。冒険者の最後は、本当に突然で突然ですよね。


 倒れたリコを抱きしめながら、涙目で僕を見るサラに、首を左右に振ります。その動きに理解したのでしょう。唇を噛みしめて何かに耐えています。見たところ、リコは生きているようですね。強い衝撃を受け、気絶しているようですが、鎖帷子(チェインメイル)が守ってくれたのでしょう。


 ここまでかも知れませんね。この先、サラやリコだと足手纏いになる可能性が高いです。ダンジョンなら、罠の心配もありますが、この場所にその心配はないし、他の冒険者も居ますしね。エルヴィーラを見ると、無表情のまま小さく頷きます。僕も人の事は言えませんが、やはり、彼女も少しは愛着があったのかも知れませんね。


「僕たちは先に進むよ。サラはリコを守って残って……もう直ぐ、冒険者たちも来るから、ベースに戻った方がいいよ」


 なるべく冷静判断できるよう声を掛けたのが、気に入らなかったのか、涙を湛えた瞳で、サラが僕を睨んできます。


「ちょっと!死んだのよ。サッシャが……他に何か言うことないの?」


 三人で仲が良かったので、溜めこんだ感情が爆発してしまったのでしょう。その気持ちも理解できます。多分、僕が何を言っても反発しかしないですし、リコも気絶しているので、止まらないでしょうね。


「何か……いや、サッシャの死を冒涜する気はないよ。でも……無駄にもしたくないんだ」


 戦いに身を置くと決めて、生き物を殺しているのです。勝利、栄光、名声、自信などが毒みたいに体を蝕んでいき、死に近づけていく世界に居るのです。今の僕の言葉だって、時間を無駄にしたくないのでサラを納得させる方便、本心でないと自覚はあるのですよ。


 僕の言葉に、サラは言葉に詰まり、サッシャの亡骸に視線を向け、何かに耐えるように体を小さく震わせていました。一緒に来ると言わないのは、気絶したリコが居るかでしょうね。


 この先をどうするかは、サラ、それにリコの判断です。一緒に来るか、別れる事を選択するか……無理強いは出来ませんよね。


「良いのじゃな?」


 握っていた剣からゾルタンの静かな声が聞こえました。何を聞かれたのか理解できないですが、小さく頷いて答えておきます。いつの間にか、背後に寄り添うようにエルヴィーラも立っていました。そっと、剣を握って居ない僕の手に、自分の手を重ねて軽く握ってくれます。


 僕が思っているより、精神的な何かがあったのかもですが、この時はそれにすら気が付く余裕もなかったですよ。


 ボニファーツ達が直ぐに合流し、現状に気が付いたのか何も言わずに先に進み始めたので、僕とエルヴィーラもそれに続いて前進します。少なくとも、今は、この場所で立ち止まる気はないのですよ。


 さぁ、最後の門の攻略です。その先に待っているのは……まぁ、何かまでは情報がないので判らないですが、碌でもないモノだけが待っているでしょうね。

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