↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
54/63

第五十三話

 朝に成り、強襲作戦が決行に成りました。場所も場所なので、流石に休めた気がしなかったですが、時間は止まってくれませんし、贅沢は言えないですよね。


 最初に中堅の冒険者を中心に大通りを走り抜け、モンスターと戦います。時間との勝負と殲滅する速度は、昨日と違い早いのですが、怪我人も多いです。中堅クラスで頑張っていますが、昨日までのようにベテランクラスのメインでも補佐するのでもないので、正直、このままのペース進めば死人も出るでしょうね。


 モンスターの数は減って行っているのですが、それでも街のモンスター全てを倒した訳でもないのですよ。捜索者グループにも話が行っているのか、同じような速度で進んでいますが、先のことを考えると厳しい戦況と判断するしかないのです。


 怪我人の数が全体の半数に達するころ、時間にして2時間ほどで第二門の前まで到着しました。これまでの戦闘の雰囲気に刺激されたのか、大型のキラー・ホーネット達が、威嚇するような羽音をさせ巣の前に陣取っていますよ。


「ここからだ!遠距離攻撃開始。巣に最初に当てた奴に、後でエールを奢ってやる!」


 巣まで50メートル程の距離に来ると、ボニファーツが大きな声で叫びました。それを合図に、弓を使う冒険者や、遠距離攻撃力の高い『精霊魔法』の使い手達が巣に攻撃を開始、一本の矢が巣に命中すると、不規則な動きでキラー・ホーネット達が低空突撃を開始しました。


 それに答えるように冒険者、捜索者達も突撃を開始します。


 その先頭グループに混じって僕たちも突撃しました。丁度、中間地点で最初のキラー・ホーネットが僕の剣の間合いに入った、威嚇するように顎を鳴らし突っ込んできた個体の頭を叩き潰し、直ぐに回避のため体を捻りながら次の目標に向かいます。


 僕が一匹倒す間に、リコ達にもモンスターが接近。リコがガードしながらサラとサッシャが攻撃を集中させてキラー・ホーネットを削って行きます。


 一対多で戦闘できれば、このまま楽に削れるのですが、敵の数が多く簡単には進みません。互いの群れを削り合いながらも、攻防が続く中、油の入った壷を括りつけた矢が巣に数本命中すると、続いて火矢が放たれ、ついに巣が燃え始めました。


 大きな巣なので直ぐに燃えきる事はないのですが、キラー・ホーネット達の動きに少し変化し、巣を守るように陣取る個体が増えてきました。ここが押し時ですね。ベテラン達も一気に攻撃に転じます。


「み、水の精霊の力を……つ、使います」


 モンスターを斬り捨てながら進み、門が目の前に近づくと、背後からリコの声と共に体を覆うよう水の膜が生まれました。無理して大きな声を出したり、『水の精霊魔法』を使ったりと、リコも頑張っているのですね。


 そのままの勢いで巣が焼け落ちると同時に、門の中央に出来ていた炎の壁を突破します。


 この炎がモンスターの襲撃から僕たちを守ってくれたのは、少し幸運でしたね。壁を突破したのは、僕とエルヴィーラ、リコとサラ、それにサッシャですね。


 背後からは、まだ戦いの喧騒が聞こえますが、今はこのまま中央突破するように突き進みます。この後の戦闘を考慮して全速力ではないですけどね。長革靴(ロングブーツ)に『敏捷強化』が付与されている、背後のエルヴィーラも歩く程度の体力消費で済む速度帯ですし、戦闘力には余裕があります。


 そのまま通りを突っ切り、最後の門まで100メートル程の場所で足を止めました。いやぁ、『気配察知』に反応があったので、居るのは分かっていたのですけどね。


 門を守るよう広い通りの中央に陣取っていたのは、大きなカブトムシでした。それも二匹もいるのですが、形は日本のカブトムシに近いのですが、その角がまるで刀のよう研ぎ澄まされた鈍い光を放っていますね。ジャイアント・セイバービートルとでも言えば良いのでしょうか。


 赤黒い鎧に身をまとった2メートル近い巨体を並べる姿は、さながら歴戦の騎士のようにも感じますね。その赤い無機質に感じる目が僕たちを値踏みするよう見ているのを感じます。


「右は、僕とエルヴィーラが……」


「あぁ!左は任せろ!」


 僕が告げると、サッシャが大きな声で答え、その勢いのまま駆け出しました。それに合わせてジャイアント・セイバービートル達も動き始めます。


 もちろん、僕も見ているだけではないのですよ。周囲の警戒と同時にモンスターに集中です。矛盾しているみたいですが、やらないと乱戦時に苦労するですし、そもそも、兜(ヘルム)のせいで視覚や聴覚が制限されますしね。『気配察知』には頼りっぱなしなのですよ。


 ジャイアント・セイバービートルの突進を、エルヴィーラの矢が牽制するよう、首の後ろに突き立てますが、やっぱり痛みを感じないのでしょうか、速度に変化がありませんし、警戒することなく突っ込んできますね。


 でも、これで勝ち筋が見えました。


 後は準備が終わるまで時間を稼げば良いだけなので、ジャイアント・セイバービートルの角に合わせるように剣を叩きつけ、動きを止めます。少し押されましたが、全身の力を使い押し返すと、相手からの圧力も強まって来ますね。


 均衡状態に入るのは好都合なのですが、それでは芸がないですよね。一度押した後、押し返す力を逃がすように剣を下げながら半身に成ります。勢いが殺しきれなかった敵の頭をそのまま潰そうと剣を振り下ろしましたが、ジャイアント・セイバービートルが更に前進し、頭の上にあった小さな角で受け止めました。


 その小さな角は、一撃で砕けたのですが、逃げ決めは許してくれません。突き出された大きな角の腹を叩きつけてきましたよ。さすがに防御は間に合わないので、胸部装甲で受け止めます。


 思いのほか強い衝撃に息が詰まりましたが、下がる心算もありません。踏み止まって、更に剣を横薙ぎに攻撃し、頭を潰そうと思いましたが、器用に動く角で防がれます。相手の攻撃を剣や鎧で防ぎ、此方の攻撃は角と装甲で防がれ、持久戦に成って来ましたが、準備が終わったようです。


「今よ!」


 エルヴィーラの声を聞くと同時に、一気に後方に下がり、ジャイアント・セイバービートルの追撃を防ぐよう間合い外でも剣を大きく振るった直後、首筋に二本目の矢が突き刺さり……そして、次の瞬間、大きな爆発を起こしました。


 『火の精霊魔法』で矢を爆発させるのは、クリスタルリザード戦でも使ったのですが、実は精神の消耗がかなり減ったりしているそうです。冬の間、僕やゾルダンの話を参考に色々と創意工夫を続けた結果ですね。


 今まで使わなかったのは、単純に他の冒険者たちの目があったから……手札はなるべく隠したいですよね。


 他にも新しい手がいくつかあるのですが、そこまでの敵ではありませんしね。ワイバーンやクリスタルリザードに比べると、どうしても見劣りしますよ。


 その爆発で首が弾け飛んだジャイアント・セイバービートルは、動きを止め地に倒れ伏すと足を細かく痙攣させていました。胴体と切り離された頭の方も赤い目に力なく光を失くしています。


 これで残り一匹――そう思って顔を向けた瞬間、その光景を目の当たりにしてしまいました。

ご感想、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。