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ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
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第五十話

 東から太陽が顔を覗かせ始めても、厚い雲に覆われたままなので薄暗い夜明けとなりました。こんな状況だからでしょうか、都市の真上で雲が渦巻いているように思えるから不思議ですよね。


 ギルドから、この後、東門に取りつき補給陣地を形成。そこを前線ベースとし、モンスターを駆逐しながら中心部にパーティ単位で進撃を開始することが発表されました。帝国の正規軍が到着する前に出来るだけモンスターを駆除するのが狙いなのでしょう。


 ここで逸ると危険なので落ち着いて、一歩引くぐらいの感覚で行こうと思います。下手に死亡フラグを立てる心算もありませんしね。


「この戦いが終わったら、エルヴィーラと……なんてね」


 ついつい小声で旗を立ててみたのはご愛敬なのです。誰も聞いて……おや?隣に居たダークエルフさん、何かを期待するように僕を見ないでください。ポーカーフェイスを維持していますが、長い耳が小さく動いていますよ。


 リラックスも十分できたので、兜のフェイス部分を下して、全体の進軍に付いていきます。15グループ、約80人の冒険者が動きだすと、捜索者の方でも同人数が動きだしましたね。あちらさんにも帝国から話が行っているのでしょう。


 昨日の夜にギルドから支持があった菱形陣形で進み、陣の真ん中には数台の荷車を押す冒険者グループもあります。これはベースに必要最低限な物資を置くのと、空になった荷車をバリケード代わりに使用するのが目的なのです。


 菱形陣の右翼近くに位置して進んでいるのですが、隣には妙なやる気を見せるサッシャや、リコ、サラも居ますが、いきなり走り出す事がなかったので安心なのです。


 武具を装備した多数の冒険者が行軍しているので、騒がしく都市の防壁に接近すると、モンスター達も反応を見せますよね。大きく開いたままの東門の隅や天井部分の壁の影から湧き出るように姿を現したのは1メートル近くある平べったくも黒光りする昆虫型モンスターでした。


 その姿を見て唐突に、肉の記憶が呼びさまされます。


 幼い頃、村の男の子たちに命令され、夏に昆虫採集のため大きな木に朝から引っ張られて行かれた記憶なのですが……その時、カブトやクワガタと言った男のが大好きな昆虫採取のため、木に近づくと樹液を啜る昆虫たちに、コイツも混ざっていたなと、現実逃避なのですけどね。


 1メールもあるゴキブリタイプのモンスター、キラーコックローチの姿を見た瞬間、冒険者の中、特に女性陣から大きな悲鳴が上がります。


「きゃー!ムリムリムリ、無理よー!!」


 サッシャとリコの後方にいたサラからも大きな悲鳴が聞こえますよ。これには同情しますね。武器は捨ててないですが、前に居たリコの背中に隠れるようになるのも納得ですよ。そのリコも真っ青な顔していますけどね。


 エルヴィーラはどうなのだろうと思い、肩越しに後方を確認すると、殺気だった表情で弓を構えていますね。一匹も近づけない覚悟を完了しているみたいです。


 サッシャはわりと平気そうで、この状況を不思議がっていますが、全部任せていいかもしれません。


 とは言っても、モンスターが此方の都合なんか考えてくれないですよね。此方の陣形を確認するとキラーコックローチは、恐ろしい速度で接近してきます。中には独特の羽を広げ突っ込んでくる個体もありますね。


 菱形陣形の先端部分に陣取った冒険者とモンスターが戦闘を開始するのと同時に、全体に広がってきたモンスターが突っ込んできました。良く見ると、門の壁から更にキラーコックローチが姿を現していますね。これは視覚的にきついですし、正直、引いちゃいますよ。


 此方に接近して来る姿が、生理的な嫌悪感を刺激してくれるのですが、迎撃のため走ります。サッシャも一瞬反応が遅れました僕と並んで突撃するみたいですね。リコは生憎とサラが離してくれないので、後衛の防御担当に自然と落ち着きましたね。


 エルヴィーラからの矢の援護で突進の勢いを殺しせたのですが、背中に矢が刺さっても突っ込んでくる姿に、やっぱり痛快はないと確信が持てました。これはこれで厄介な特性なのですよね。


「この……ゴキブリ野郎!早い!」


 予想以上の速さにサッシャは困惑しているみたいです。剣撃を高速で避けたキラーコックローチは反撃の体当たり。何とか、その回避していますが、反撃できないみたいですね。まぁ、外見から騒動できるのですが、本当、この動きと速度は厄介です。


 僕の目の前にもキラーコックローチがいるのですが、矢の牽制があるので動きや気配を先読みで、そこまで困難な敵ではありません。気分的には近づきたくないのですけどね。


 此方の思いっきり振り下ろす剣を避けるように左に動くのに合わせ、剣筋を変化させます。その動きは予想外だったのでしょう。剣と地面で頭を叩き潰したキラーコックローチが足を痙攣させています。


 いやぁ、腕甲(ガントレット)に魔法を付与され筋力が増してから、剣速も増した気がしますよ。個人的には、金剛力の腕甲《ガントレット・オブ・ジャイアントパワー》と名付けたいですね。でも、黒飛竜の腕甲《ブラックワイバーン・ガントレット》もセット装備と考えると捨てがたいですし……はい、現実逃避です。倒すだけで精神ダメージを受けている気分です。


 一匹倒しても、更に後ろ湧き出てくるキラーコックローチの群れ、悲鳴と絶叫に、戦闘音が混じる東門攻防戦は、こうして始まったのです。

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