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ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
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第四十九話

 ジャイアント・ドラゴンフライ達の襲撃での被害は軽微でした。さすが、熟練の冒険者が多いのは伊達ではないですね。


 この夜は、詳しい情報収集のためギルド側からは馬を走らせ、冒険者は交代で休みました。被害は少なかったとはいえ、体力面、精神面を共に休ませるタイミングを作らないと先が続かないですよね。


 夜、僕とエルヴィーラが陣の前方に、無数に焚かれた篝火の一つの前に立って城壁を眺めていると時折、昆虫型モンスターの影が見えました。襲って来る気配がないのが、逆に不気味ですね。基本、夜行性だと考えると余計になのですよ。


「何があったと思う?」


 僕達二人以外、周囲に気配がないのを確認した後、背中の剣に小さな声で質問してみました。学者肌で戦闘より知識に長じたゾルタンなら何か知っているかと思ったのです。


「原因は不明じゃな。だが感じる魔力は……魔界にあると聞く瘴気の森の魔木、デビル・ウッドのように思えるの」


 ゾルタンの説明なのですが、この世界と隣接する別の世界の一つ、魔界の森林部に生い茂ると木々の一本ではないかとい事でした。その瘴気を含んだ蜜はモンスター、特に昆虫型のモンスターを引き寄せる効果が高いそうです。


 普通は、この世界にない木らしいですが、誰かが召喚したのか、別の理由があるのかは不明。流石に情報が少なすぎますよね。それでも植物の一種とはいえ魔界に生息するもの。地上に根を張っている期間が長ければ長いほど、瘴気に犯され異界化し、中心部から魔の領域が広がって行く事は安易に予想できるそうです。


「まったく、迷惑な話ね」


 ゾルタンの説明を一緒に聞いていたエルヴィーラの呟きに同意するよう頷いてしまいました。あの都市に現れて一週間以上は経過している筈ですから、都市の中心部がどうなっているのか、考えたくもないですよ。


 そんな話をしていると、トロール装備に身を固めた巨漢、ボニファーツがやって来ました。何気に僕の隣に立ち、都市に険しい視線を送っています。長年冒険者をしていたので、あの都市にも知り合いが多く居たのかもしれませんね。岩の用なトロールの素材で作られたフルフェイスの兜を装備しているので、表情までは読み取れませんでしたが、身に纏う雰囲気が険しいですよ。


「何か変化は?」


 暫く、春先だけという理由以外にも生温かいのでは感じる風に吹かれ、無言で都市を睨んでいたボニファーツが言葉数も少なく聞いてきました。変化はないと小さく伝えると、ギルド側が集めた情報を教えてくれます。


 城壁都市ストーンヘッドの住民、その八割は避難に成功しているそうです。良い情報ですね。ほとんどが首都部より近い、都市北部の平原に避難キャンプを作っているそうです。かなりの大きさになると思うのですが、帝国からも軍や補給物資が少しずつ送られ、なんとか治安と統制を維持している状態みたいですね。


 中心部からの異変なので、被害に二割の中には、都市を治める領主や貴族関係が多く含んでいたそうで、最初の頃は凄まじい混乱だったと窺えます。それは仕方ないですが、被害の何割かは、人間同士が起こしたものも含まれているのでしょうね。


 更に正規軍の投入も決定しているらしく、帝国軍の本気を窺えますが、さすがに到着には、もう少し時間が必要との事。大きな軍を動かすので仕方ないです。それでも破棄って選択を帝国上層部がしなかったのは、南の中心都市にして、南部守護の要と認識しているからでしょう。これが地方の小さな村で起こった異変なら見捨てられていましたよね。


 冒険者たちは、このまま待機、なんて事はなく、明日の早朝から都市に向かって東部門から攻略を開始しろとの命令が、帝国の使者より告げられたそうです。それは捜索者陣営も同じで、はっきりと正規軍の被害を減らすための捨て駒って意思が見えていますよ。


 その分、帝国からも生き残りには少なくない額の報奨金が用意されるそうです。生き残れたらの話ですが、それは冒険者稼業、全てに共通する事なので問題ないですし、倒したモンスターの素材は、一律ギルドが抑え、生き残りに公平に分担するそうです。これは剥ぎ取り段階で仲間同士の諍いを抑える処置ですね。


 話が終わり、去って行くボニファーツの背中を見送った後、これからはギルドが用意する食事には気をつけた方がいいと考えました。気分を高揚させる薬ぐらいは持ってそうです。もちろん依存性が硬い強力な物ではないでしょうが、臆病風に吹かれて尻ごみする冒険者、特に新人冒険者が多くできると戦力ダウンですし、突っ込んでモンスターと相討ちになる冒険者が増えると報酬の出費額も減らせるでしょうしね。流石に減りすぎたら、今度は冒険者の町マウスを維持できなくなる可能性も出てくるので、そこらの匙加減も大事ですけどね。


 何人までの犠牲を考慮しているのかは不明ですが、その減らされる冒険者の中には入りたくないものです。


 まったく、たまに酒場に来る吟遊詩人の英雄譚(サーガ)のよう、後は突っ込んで、雑魚を蹴散らし、ボスを倒し終了となれば楽なのですが、現実問題、そうそう簡単には行かないのです。世知辛いですね、まったく。


 これで星空でも眺められれば、少しは気分も晴れるのでしょうが、生憎と分厚い雲に隠されているので……まさに気分と同じく、暗雲に覆われているって表現がぴったりな夜空だったですよ。

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