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ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
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第四十八話

 小高い丘の上から都市の外観が見えても、大きく蛇行するように下る街道を進むので、どうしても行軍には時間が必要です。一直線に進めれば、もっと短時間で到着できるのですが、物資があるので仕方ないのですよね。


 全体的に逸る雰囲気を感じるのですが、慌てたところで事態が好転する訳でもないと思うのですが……。


「くっ……もっと早く進めないのか……」


「住んでる人達……無事よね、大丈夫よね……」


「……だ、大丈夫だよ、きっと……」


 そんな囁きが近くから聞こえてきます。あの都市に知り合いでも居るのでしょうか?まだ始まってもないのですけどね。


 雑音は無視して考える事は、襲撃の少なさの事でした。冒険者の町マウスを出た数日間はモンスターの襲撃もあったのですが、都市が近づくにつれて襲撃が減って来ていたのですよね。盗賊なんかは、逃げた都市の人間を狙った方が、被害なく稼ぎになるという知恵があるのが理解できるのですが、モンスターにも頭が切れる統括者でもいるのか、もしくは、もっと別の理由があるのか……後者だとすると、その理由は都市の異変と無関係ではないですよね。


 逃げる事も視野に入れ、色々なパターンで対応を考え続ける中、ついに野営地に指定した平野部分に到着しました。さっそくキャンプが張られていきます。その間に冒険者とギルド職員が数グループに分かれ馬を使い、都市周辺の偵察や生存者キャンプがないかを調べに出ましたね。


 陣取った場所は、都市東部の平原、外周部の城門まで約500mといった所でしょうか。今日も曇っていますが、幸運にも雨は降ってないので、地面に足を取られる事は今のところないですね。


 簡易陣の設置が終わるころ、北側の街道を進んだ少し先に、避難民のキャンプがある事が偵察の結果分かりました。そちらは帝国の正規軍もいて、今のところは被害は最小限らしいです。


 色々と進めている間に、すっかり夕暮れに染まった平野部で、それは起こりました。


 羽音が聞こえなかったのですが、都市の城門から1メートルはありそうな大きなトンボタイプのモンスターが飛来してきました。こちらの準備が終わるのを待ってくれないのが、モンスター戦闘の嫌なところですよ、まったく。


 数は10匹と言ったところでしょう。敵の規模から考えると敵の偵察かもしれませんね。全体か一部かは不明ですが、ある程度の群れを指揮できるモンスターがいる可能性も出来てきましね。


 厚い雲を赤く染める夕日を背に、不規則な飛行パターンで飛来した大型のトンボ、ジャイアント・ドラゴンフライの外見は、黄色と黒の縞模様で大きな目は真っ赤です。これで目が緑だったら、大きなオニヤンマでしたね。


 冒険者たちも、只待っている訳ではありません。接近に気がついた捜索系に秀でた冒険者が警戒を発すると、足ダに反応するベテラン冒険者たちから行動を開始しました。各々が武器を持ち、周囲や新人冒険者に声を掛けて迎撃の準備。もちろん僕も只、待っている訳ではないのですよ。大剣を鞘から抜くと両手で構え、一歩前に出ます。


 僕の背後には、弓を構えたエルヴィーラが、少しだけ反応に遅れながら、リコ、サラ、それにサッシャも獲物を構えて、僕の横に並びましたね。


 冒険者のパーティ5グループ、30人程が即時対応できる状況でモンスター達も本格的に対峙しました。ジャイアント・ドラゴンフライは低空と高空を何度も行き来するような不規則な動きに翻弄されそうで、パターンで考えてはダメですね。


 後、五歩ほどの距離まで、僕たちの前に二匹のジャイアント・ドラゴンフライが接近した直後、エルヴィーラとサラが、其々、矢を放ちました。矢の接近に気がついた大きなトンボは目が良いようで、素早く上空に浮かび回避します。空を切る矢はリコの一本でしたけどね。エルヴィーラの矢は、途中で後方部分が小さく爆発し加速、予想外の速度で、高速で動いていた薄く半透明な右の翅の一枚を貫いていました。


 その攻撃でバランスを崩したジャイアント・ドラゴンフライに思いっきり踏み込むと、その大きな眼と眼の間に大剣を叩きつけます。


 ゾルタンの付与魔法で手甲(ガントレット)に『筋力増加』されてから剣を更に素早く振れるようになりましたね。回避される前に、予想よりも硬い抵抗を感じましたが、それでも刃を振り抜くと頭を叩き割ります。その勢いでジャイアント・ドラゴンフライは体を地面に叩きつけ、土煙を上げながら数度バウンドし滑り込むよう地面に倒れ込むと、小さな痙攣はしていますが再度、飛ぶ気配は見せませんでした。


 交差するよう攻撃し、周囲に別の個体の反応がいないのを『気配察知』で確認した後、残り一匹の方を振り返ります。


 サラが後方でまだ短弓(ショートボウ)を構えたまま、その後方には行かせないと、中型の丸盾(ラウンドシールド)を構えたリコがジャイアント・ドラゴンフライを牽制しています。その横ではサッシャが長剣(ロングソード)を構え、隙が出来れば斬り掛かっていますが、それは回避されていますね。敵もさすがトンボ、目は凄く良いようです。


 三対一でも、あの三人の実力なら長期戦になってしまいますよね。もちろん装備の違いも大きいですけど……でも、今は、ゆっくりとしている暇もないのです。いつ、敵の増援があるかも分からない状態ですし、これは前哨戦もいいところですしね。


 リコの鎚矛(メイス)を、サッシャの剣(ソード)を、サラの矢(アロー)を器用に回避し、尻尾や前足、強靭な顎で攻撃するジャイアント・ドラゴンフライ。敵の攻撃も三人は何とか防いでいますが、不意に、その独特の構造をした顎を左右に広がり、小さな火球が生まれました。その瞬間、僕は地面を蹴り、一気に残りの距離を詰めると、横合いから首を水晶の刃で叩き落とします。


 危なく火のブレスを吐き出されるところでしたね。ドラゴンフライとは良く言ったものですよ。しかし、愛剣(クリスタルソード)の切れ味が増している気もするのですが、もしかしたらゾルタンのせいかもです。水晶(クリスタル)部分が壊れたら消滅しちゃうかもって話ですし、強化ぐらいは黙ってするでしょう。


 このまま、のんびり終わるのを待っても被害が増えるだけ。リコ達に声を掛けて、攻撃の手数を増やすために、他の冒険者グループの援護に向かいましょう。こんな序盤で被害が拡大しちゃうと後が続かないですしね。


 さぁ、残りのジャイアント・ドラゴンフライの掃討ですよ。

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