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ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
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第四十五話

 春になりました。


 マウスが、南部帝国の南方に位置する町だと言っても、冬には雪が降り、冒険どころではないと言うのが現実なのですよね。それなりに金銭には余裕があったのですが、この冬を無為に超えた心算もありません。


 前から予定していたように、エルヴィーラからエルフ語を教えて貰ったりする以外にも、数少ない骨と呼ばれていた頃の知識で大事だと感じた早朝のランニングと筋トレを行ったり……雪が積もった早朝に走るのって大変だって経験できましたよ。最初は一人だったのですが、気がつけばリコとサラ、それに、もう一人も勝手に参加するようになっていました。


 もう一人って、前にサラと酒場で喧嘩した青年なのですけどね。


 名前は、サッシュ。灰色の髪を短く刈りそろえた長身の男性で、なかなかに引き締まったいい身体をしています。前に酒場で騒いでいたグループのリーダーだったのですよね。帰る時に扉で遭遇して、気まずい思いをしたはずなのですが、正直、エルヴィーラに教えられるまで忘れていましたよ。


 仲間が自分以外全滅して時間を持て余まし気味だったので、リコやサラに聞いた僕の、軍隊式トレーニングと適当に言った早朝ランニングに参加するようになっていました。この三人、いつの間にか仲良くなっていたのですよね。


 エルヴィーラとリコは、ゾルタンに魔法知識と言うか、召喚魔法の時の精霊の効率的な使い方や、今は失われた使用法なんかも学習していますね。僕も参加して、一緒にゾルタンから古代魔法文明時の言語を習いました。


 生憎、僕には魔法の才能はないそうで、魔法は覚えることは出来なかったですが知識って大事なのですよね。


 ゾルタン、古代の魔術師と言っても研究者タイプで、実戦経験は生前から少ないそうです。教えるのは上手だったので、教師っぽいことをした経験もあったのかもです。


 もちろん、僕も教えることは教えていますよ。エルヴィーラには数学や精霊魔法の発想の相談、リコとサラ、それにサッシュには、模擬戦っぽいことを行って、お金に余裕のある冬の間に現状維持や底上げに勤めました。


 サラとリコの新装備も完成しているので、魔法を付与されました。あまり複数の魔法を付与すると干渉し性能が低下する可能性もあるとかで、複数付与はじっくり調べてからの方が確実らしいです。だからサラの鎧には『盗賊』、リコの鎧には『盾術』だけを付与することになりました。素材の関係もあるそうで、素材が高級な僕とエルヴィーラの鎧には『物理防御強化』を付与して貰えました。もちろん、問題ないか調べた後になのですよ。


 冬の間で、攻撃力より防御力が増した気がしますね。


 さすがに付与の事はサッシュには教えてないですし、そもそも彼の装備、無事だったのは自前の長剣(ロングソード)だけで、防具は親切な先輩冒険者のお下がりをサイズ調整して使用している硬皮鎧(ハードレザー)なので出来るか分からないですしね。


 前のパーティが全滅した時に防具は破損し、新調する資金もなかったそうで、今は我慢しているって愚痴を零しているのを何度か聞いたのですが、個人的には運は良かい方だと思いましたよ。


 冬を越える金銭的余裕もなかったみたいですが、同じく装備を一新し余裕がなかったリコ達と、冬の間、細々とモンスターを狩って凌いでいましたね。僕とエルヴィーラは参加してないで詳しい稼ぎは不明ですが、冬を越しているので大丈夫だったのでしょう。


 五人で冒険者ギルド支部に来ると、春先はどんな依頼があるか調べてみます。どうもモンスター討伐の依頼が増えた気がしますね。春先だからモンスターも活性化しているのでしょう。


「おっ、ヴァイデ。まだ子守り続けてるのか?」


 後ろからサッシャが覗きながら、リコとサラが物色を続けていたので、エルヴィーラと一緒に壁際に立ち雑談していると大男が声を掛けてきました。顔中傷だらけのボニファーツの笑顔って、何度見ても怖いとしか思えないのですよね。


 どうも、他の冒険者たちからは、僕とエルヴィーラって、新人冒険者のサラやリコ、最近ではサッシュの面倒を見ているって思われているのですよ。年齢的には、僕も同世代ですし、そこまで先輩って訳でもないのですけどね。


 そもそも、サッシュに関しては冬の間だけって認識なのですが……。


 リコとサラも自然に受け入れていますが、ゾルタンの事は秘密って理解しているのでしょうか?まだ話していないみたいですが、このままでは時間の問題かもしれませんね。暫くは簡単なモンスター討伐で問題もないのですが、きちんと話し合う場を設けた方がよさそうです。


 ボニファーツのパーティメンバーもこっちに来ていたので、依頼が決まるまで雑談をしていた時、勢い良くギルド支部の扉が開き、一人の男が慌てた様子で駆け込んできました。受付のイェフがカウンターを華麗に飛び越え、倒れそうになる冒険者っぽい男から何かを受け取ると、猫耳を小さく動かした後、その男に肩を貸し、奥の扉に消えていきます。


 それを眺めた後、エルヴィーラと視線を交わし、小さく頷き合いましたよ。考えている事は同じみたいですね。ボニファーツも自分のメンバーに声を掛けていますし、リコ達も、こっちに集まって来ましたね。


 どうやら、穏やかな春の始まりって訳には行かないみたいです。

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