第四十二話
兜を外して、素顔を晒しながら額に浮かんだ汗を拭っていると、気持ちの切り替えが出来たのか、リコがやって来て回復効果のある水の入ったコップを手渡してくれました。サラの方も扉の周辺を調べる自分の仕事にはいったみたいです。
周囲の警戒は、エルヴィーラがしてくれているので、ありがたく回復に専念させてもらいます。
魔法ダメージって怖いですね。正確には純魔法ダメージとでも言えば良いのでしょうか。物理的な攻撃だと鎧で防げるのですが、ゴーレムビームの体の芯を貫く衝撃は地味に痛かったです。精霊魔法はどちらかと言えば物理ダメージの延長に思えるので、古代魔法の凄さって事ですかね。いやぁ、浪漫を感じますよ。
リコが用意してくれた水を飲むと体の奥に残っていた鈍い痛みも消えていったので、礼を言って兜を装備します。その頃にはサラの調査も終わったようなので、皆でその大きな扉の前に集まりました。
近くで見ると木製っぽく見えるのですが、長い年月を劣化もせずに残っているのを考えると、特殊な素材、もしくは保護系の魔法でも使われているのかも。本当、浪漫を感じます。
サラに確認すると罠の類は大丈夫で鍵も問題ない。そもそも施錠されていなかったそうで、そこが逆に心配だとの事でした。罠の時も少し自信なさそうだったのですが、いつまでも引きずられても困りますね。自分で立ち直ってもらうしかないのです。
それならと僕が扉を開けると室内に入ります。室内と言って良いのか分からない広さですけどね。体育館ぐらいの広さとでも表現しそうになります。その広い空間は、天井からの人工的な灯りに照らされており、所狭しと棚が不規則に並び、その多数の棚には本、水晶、何かの液体に満たされた瓶、理解したくない剥製などが多数。数えるのも嫌になりますね。
そんな棚の壁を警戒しながら進んでいくと、中央付近に少し開いた場所があり、その中心には大きな水晶が浮かんでいました。どこかで見たことのあるような水晶なのですが、思い出せませんね。その高さが1メートル以上ある半透明な水晶体を警戒しながら眺めていると、不意に言葉が聞こえてきました。
「ここまで来た、若い蛮族たちよ。何が望みじゃ?」
僕たち以外の老人の言葉と同時に、水晶から人影が浮かび上がって来ます。灰色のローブを装備した白髪白眉の痩せ細った老人。長い髪と髭、間が隠れる長い眉で骨の顔に残した、痩せたと言うか骨の老人でした。手や指なんか完全に骨ですしね。アンデットの一種でしょう。水晶から現れて、今も軽く浮いていますしね。
サラもアンデットだから注意してと叫んで小剣を構えます。僕は敵意を感じないのですが、それでも両手に剣を構えて警戒はしますよ。あっ!目の前の水晶、水晶大蜥蜴の水晶に似ていると、自分の剣の刀身を見て思いだしました。
「アンデットではなく、魔法で精神生命体になったのじゃ!」
アンデット爺さん、大声で訂正して胸を張っています。その後、以下に凄い事か説明してくれましたが、理解できませんでしたよ。なんでも今から2000年以上昔に栄えた古代魔法文明の生き残りで、肉体はとっくに滅びたけど精神体となってこの場所で研究を続けていた引き籠りらしいです。
本当は、一階の上に塔で繋がった空中庭園なんかもあったそうですが、それは魔法文明の崩壊時に落ちたそうで、地下に避難。地下一階が住居区画、地下二階は実験区画、地下三階が研究区画となっているそうです。
本当は、地下二階に侵入者迎撃の装置なんかも沢山あったそうですが、デスワームの巣にされて大半は壊されたそうです。何とか緊急結界で閉じ込めたそうですが、自分も出れなくなったと。元々から出るつもりはなかったので問題ないそうですけどね。
只、研究する事もなくなり水晶で寝ていたら、ワーム対策に起動させたゴーレムが破壊されたのを察知し覚醒したそうです。ちなみに階段トラップは、昔の魔法使いはレビテーションで浮きながら移動するのが多く、段差が面倒だから板状になる仕掛けだとか。スイッチ判りやすかっただろうと言われて、サラが微妙に落ち込んでいます。
「宝を求めてか……気持ちは理解できるが、何もないぞ?」
此方が来た理由を告げても、世界の変化に興味を示していましたが、盗賊行為には怒るでもなく理解の色を示しながら教えてくれました。それでも、研究用に取っておいた魔法防御の護符を4つ棚から取り出してくれました。親切なのです。
もちろん裏があったのですけどね。
「他に……そうじゃな、お主の鎧には隕鉄を使用しておるの。筋力増加が付与できるぞ。ダークエルフの娘には、敏捷増加の付与でどうじゃ?」
何とも親切すぎて疑った目で見ていると、サラが自分たちもと骨爺さんに詰め寄ります。立ち直ったようで安心ですね。それは武具の素材がお粗末過ぎて駄目らしいです。棚にあった素材を媒介にガントレットとロングブーツに永続付与してもらい護符も装備。小さな半透明の水晶玉が埋め込まれている親指くらいの長方形の金属板が付いたネックレスって感じですね。
エルヴィーラの豊満な胸が作る深い谷間に乗ったそれを見て、サラが何とかできないか頑張って、現実の厳しさを思い知ったようです。八つ当たりされたリコが可哀想ですね。
「さて、これだけしたのじゃ……我も連れて行ってくれぬか?」
どうも、研究も終わり無限に近い時間を一人で過ごすなら、時間は有限になるけど外の世界を見て滅びたいとのこと。少しでも長く見るために僕たちの強化だったのですね。それは問題ないのですが、方法を聞くと驚きましたよ。
「何、簡単じゃ。ダークエルフの娘が使っている弓に……憑依するふりして、その帽子にするのじゃ!」
骨爺さん、そう宣言するとエルヴィーラに思いっきり突っ込んで行きました。でも、疑った目で見ていたので、その行動に反応して間に割り込むとつい大剣を振り下ろしてしまいました。すると、あら不思議。斬った爺さんが、剣の水晶に吸いこまれてしまいましたよ。これには驚きで、誰もなにも言えない時間が過ぎてします。
「……な、なんじゃこりゃあ!」
暫くすると爺さんの叫びが、刀身から聞こえてきました。
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