第三十四話
剣を大きく振って血脂を飛ばした後、鞘に戻すとエルヴィーラが近くに来ていたので、小さく頷くとモンスターの解体に入りました。そもそも悪意がある相手でもないですし、ここは黙ってクールに去ろうかなと、思っていた時が僕にもありました。
「ちょっと、なんなのよ、あんた達」
もう、空気読んでスルーして欲しかったのですが、少女に声を掛けられると対応するしかないですよね。二人でモンスターを囲むようにしゃがみ、後ろ腰に差した短剣を抜いて解体を始めていたのですが、苦笑が浮かんでしまいます。フルフェイスの兜なので表情が見られてないのがせめてもの救いだったのかもしれません。
「盗賊に襲われている所を、ありがとう」
一応は助けてくれようとしたので、先に礼を言うのが儀ってものでしょう。結果論ですが、僕たちは怪我もしていませんし、モンスターの素材も手に入れていますしね。
「それより、先に怪我の治療をした方がいいよ。なんなら、薬草を分けるしね」
僕の言葉に毒気を抜かれたのか、あっけにとられた顔をしていた二人に続けて言葉を掛けると、エルヴィーラも苦笑していました。でも、さっきの戦闘で少女の方が怪我をしていたのも事実ですしね。怪我人を放置ってのも気分的にいいものではないのですよ。
僕の言葉に素直に従ってくれるに気になったのか、その場で少女がしゃがみ込むと、少年が手当てを開始しました。
こっそり観察していると傷の確認の後、少年が集中すると手から水が。なるほど精霊魔法の使い手だったのですね。手足に軽い切り傷口があるくらいのようですが、破傷風対策に洗い直すのは大事……だけかと思ったら、傷も塞がっていっているようで驚きです。どうやら回復魔法の一種のようですね。一通り傷の手当てが終わると、最後にコップに出した水を飲んで完了のようです。
その間に、解体は一通り終了しました。動物系はウルフの解体を数こなし慣れて慣れてきているので早いのです。人間体系のモンスターはゴブリンで練習していますし、ギルドや他の冒険者からも方法を聞き出していますしね。解体は冒険者にとっては大事だと思うのですよ。
ボア系はお肉も美味しそうですし、後で食べるとして問題は少年と少女の方ですよね。
見たところ、二人とも僕と同年代。年少年の方は癖のない明るい金髪を肩口で切りそろえているので、おかっぱみたいにも見えます。小柄で線が細い、女顔の美形なので、一部の女性には人気がありそうです。気も弱そうに見えますが、それでも少女を守ろうとしていたので、芯は確りしているのかもですね。後、回復魔法を使えるのもポイント高いです。
少女の方は、癖の強そうな赤茶色の髪を、動きやすさ重視か短く切っていて、勝気な性格を表すような顔つきをしています。可愛いと言えなくもないでしょうが、まぁ、十人中五人が認めてくれれば儲けもの。村では可愛いほうだったけど、町じゃって感じですね。僕も目が肥えたものです。軽皮鎧にズボンと動きやすそうな格好をしている体つきもスレンダーですね。絶壁ですね。可哀想ですが、きっと将来がありますよ。
そんな、ある意味では似合いの二人ですが、手当が終わるとまた物言いたげにこっちを見てきます。内心で溜息をつくと、気分を入れ替え立ち上がります。
「僕はヴァイデ。彼女はエルヴィーラ。見ての通りの冒険者です」
最初は自己紹介が大事だと名前を告げたら、相手は一瞬驚いた顔をした後、名乗り返してくれました。
「私はサラ。こいつはリコよ。今は探索者だけど、金を貯めて冒険者になる予定。世界で一番の冒険者に私はなる!」
そこまで聞いてないですし、最後、ない胸張るように宣言されても反応に困ってしまいます。でも、性格は掴かめた気がしますね。これが僕達を騙す芝居だったら大したものなのですけどね。
「なるほど……なら、盗賊達の冒険者証明は僕が回収して、金にするから、報酬は山分け。モンスターも一体はそっちで問題ない?」
まぁ、これで文句を言うようならその時はその時。なんて覚悟もしてのですが、あっさりと了承されて、自分が馬鹿みたいに思えちゃいました。その後、解体を手伝ったり、冒険者証明を回収したりして町に帰ろうと思ったのですが、案の定、二人が付いてきました。まぁ、回復手がいるので、邪険にもしなかったのですけどね。夜営の時に焼いたボア肉は癖がありましたが美味しかったです。
数日の旅の間にサラ達の話を聞くと、どうも冒険者になるために村から出てきたばかりで、装備を買ったら資金がなくなり探索者をしていたらしいのですよ。冒険者を目指してのも、リコが人間の両親から生まれた取り替えっ子だからで……正直、興味はなかったです。興味があったのは、サラは盗賊系の技術を持っていることと、リコが回復系の技術を持っていることですね。遺跡探索にはどちらも必要な技術だと思うのですよ。
この際、性格に目をつぶって仲間にどうだろうと、エルヴィーラにこっそり相談されました。考えることは一緒のようです。でも、慌てる必要はありません。今回の報酬でサラたちも冒険者登録できそうですね。
「ねぇ、私たちの仲間にならない?」
帰り道、もうすぐ町って時にサラから声が掛かりました。リコとも相談して決めたようですが、まぁ、数日の旅の間、話していたりもしたので考えて決めたようです。ちゃんとリコにも確認し、相談して決めたみたいなので、予想よりは迂闊ではないのかもですね。
「いいけど……僕たちは遺跡を探しているし、危険な事も多いよ」
直ぐに食いつく気はないので、一応は牽制の台詞を言ったつもりなのですが、サラが嬉しそうな顔をしたので、内心小首を傾げてしまいました。
「ちょうどいいわ!私たちも遺跡を攻略するつもりだし……実は、遺跡の場所、一つ知ってるのよ」
それは美味しい情報ですが、それ暴露するのは迂闊だと……信用し過ぎだと思うのですけどね。まぁ、襲うつもりもないですし、それを確認した上でカードを切ったのかもですしね。ここは乗ってみますか。
「なるほど。なら、仲間になろうかな。報酬は山分けでお願いするけどね」
詳しくは、これから相談して決めるとして、サラ達が冒険者登録を終わらせた後、パーティとして冒険する事になりそうです。エルヴィーラにも反対されてないですし、問題あれば、離れればいいだけですよね。こうして新しい仲間が増え、遺跡調査が本格的に開始することになりました。




