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ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
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第三十二話

 えっと、流石に困った状況です。ちょっと前から『気配察知』で、後方から近づく二つの気配を感じていたのです。最初は敵かと思って剣の柄に手を伸ばして警戒していたのですけが違ったみたいです。


 慌てて駆け込んでくる小柄な人物。短めに切られた赤茶色の髪をした少女は前に立ち、盗賊を威嚇するように睨んでいます。その後を引死で追いかけて、これまた僕たちの前に立つ少女の並ぶ、肩まで掛かる癖のない金髪の少年。髪から覗く耳が少し尖っているので、ハーフエルフなのかもしれませんね。


 二人とも軽皮鎧(ソフトレザー)に身を包み、女の子は短剣(ダガー)を、男の子は棍棒(クラブ)と小型盾(バックラー)を装備していました。


「そうだよ。お前たちだよ!」


「そうそう……最初の獲物だな。危うく、間違えるところだったぜ」


 盗賊たちの中でも、リーダーっぽいのとその隣に立つ男が、その二人を見て納得し、安心したように何度も頷いていました。どうやら、男女の二人組を目印に襲うと思っていたら、僕たちが先に来て間違えてしまったようです。


「なに訳の分からない事言ってるのよ!あんた達、私たちが来たから安心して!守ってあげるからね」


「う、うん。後ろに隠れていて……く、ください」


 少女が叫ぶと、男の子も少し怯えを見せながらも、頑張ると言うように大きく頷きます。どうやら僕たちが襲われそうになっているのを見て、助けに来てくれたみたいですね。


 状況を頭の中で纏めると……盗賊たちは少女と少年を見つけ、待ち伏せて襲おうとしたところ、間違って僕たちに襲いかかってしまった。それを見つけた本当のターゲットの二人組が助けに入って来てくれたと。運命の悪戯って怖いですね。


 肩越しにエルヴィーラを振り向くと、矢を番える準備をしたまま、苦笑を浮かべていました。正直、今ある3つのグループで、一番装備が充実しているのは僕たちですよね。装備だけで勝負が決まるものでもないので、油断はできないのですが、どうも気力と言うか、やる気が削がれてしまったと言うか……微妙な空気に襲われているのは事実です。

 

 少女が盗賊に食ってかかり騒がしい中、さて、どうしたものかと本気で悩んでいると茂みの隠れていた気配たちも、僕たちよりは最初のターゲットに備えるようなので、ゆっくり後ろ足で下がって距離を取る事にしました。このまま逃げても良いのですが、これは盗賊たちの実力や手際も見られるですし、これからの行動の判断基準になりますしね。


 エルヴィーラの方に視線を向けて頷くと、盗賊たちと少女たちの戦いが始まったようです。なかなかの速度で小柄な少女は切り込んでいきますが、盗賊たちも負けていませんね。


 人数と連携で攻撃を回避し、反撃しているのですが、殺す気はないようです。スタミナを奪うように、主に少女の武器を狙っていました。少年の方も少女を庇うように動いていますが、攻撃はあまり得意ではないようです。でも、盾を使った防御は見るものがあります。二人とも筋は悪くないと思うのですが、経験不足に感じました。


「くっ!数で……この不細工のくせしてっ!」


「実力に顔は関係ないだろうよ。この……貧乳」


「ぶっ殺す!」


 盗賊たちも実力で言えば、大差ないですが、そこは経験でカバーしていますね。嫌な経験ですが、その余裕からか、少女が挑発しようと叫んだ言葉に、嫌な笑みを浮かべて馬鹿にした言葉を返して、逆に少女の挑発に成功したようですね。それに、そろそろ茂みの中でも男たちが動きそうな気配がしていますよ。


 なんだか、見ていて微笑ましく感じるのですが、『気配察知』に新しい反応を感じていたので、剣の柄に手を伸ばしたままにしていました。いくら減ったと時期でも、居なくなった訳ではないのですよね。モンスターもテリトリーの移動や繁殖はしているし、確実に安全ではない世界なのです。


 エルヴィーラには手で警戒を促し、方向と数を伝えます。そうしてもう少し距離を取って貰っていると、二人の盗賊が飛び出そうとした瞬間、茂みの更に奥から大きなモンスターが盗賊たちの背後に体当たりし、弾き飛ばして走り抜けます。


 あまりの展開に、前で戦っていた少女や盗賊たちが動きを止めてしまうのも仕方ないですよね。


 茂みから飛び出してきたのは1m以上ある大きな猪タイプのモンスター。ソードボアです。その牙が真っすぐ剣のような形をしているので付けられた名前で、ゴブリン系やウルフ系より少し強いぐらいの脅威度だと思います。


 数は二頭で、一匹ずつに跳ねられた盗賊は、手遅れみたいですね。体当たりだけでなく、背中を刺されたみたいで、起き上がれずに痙攣しながら傷口から大量の血を流しています。そのままの勢いでソードボアは反対の茂みに突進し、反対に隠れていた盗賊に突っ込んだみたいです。


 盗賊も反撃しようとしているみたいですが、予想外の不意打ちに先手を取られたみたいですね。直ぐに勢い良く暴れていた茂みが静かになり、二頭のソードボアが顔を出しました。その剣のように伸びた牙は血で汚れています。


 少女達も盗賊達も、流石に現状についていけないようで、動きを止めていますが……あれ?これってチャンスですよね。そう感じ、気付かれないように剣の留め金を静かに外すと、エルヴィーラもゆっくり矢を準備していました。頼りになる女性ですよ、本当。

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