第三十話
新しい鎧を装備してから一か月が経過しました。
何度か外にモンスターを狩りに出ては、その素材で日銭を稼ぐ日々を過ごしていたのですが、モンスターの数自体は少なかったです。さすがに、あれだけのモンンスターが纏まって襲いかかって来た後ですしね。しかし、やってる事、冒険者というより狩人って気がしますよね。やっぱり冒険者たるもの遺跡の方にも行ってみたいものです。
もっとも、二人だけじゃ、遺跡捜索なんて厳しいのも理解しているのですよ。でも、仲間にしたいと思う人とは出会えてないですし、入りたいと思うグループもないですしね。焦って変なのと組むなんて危険すぎます。
町に戻ってから少ない素材をお金に変えた後、近くの酒場で晩御飯。他の冒険者とも何人かは顔見知りになったので、軽く挨拶しながら開いている席テーブル席に適当に座るとヘルムを外します。
同じように帽子を脱いだエルヴィーラと向かい合うように座ると、近くに居た大柄の女将さんに声を掛けて食べ物とエールを注文。何度か経験しているですが冒険者っぽいので、なかなか楽しいのです。
「よぉ、ヴァイデにエルヴィーラ。帰ってたのか?」
大きな声で遠慮なく挨拶してきたのは、ボニファーツと言う冒険者です。20代後半の巨漢で、その装備はトロールの素材で作られた重鎧に包まれています。今はフルフェイスのヘルムを脱いでいるので、傷だらけの顔に笑みを浮かべているのが分かるですが、迫力が凄いですよ。正直、トロールみたいで怖い。
この町でもトップクラスの実力者で、前のモンスターの侵攻では前線で大活躍。彼と、その仲間がトロールを一体倒したので、その素材で鎧を新調したらしいです。
料理を待っている間、軽く世間話をしていたのですが、彼の仲間に呼ばれて去った頃には料理も届いていたので、本格的に食事を開始しました。
「そっか、護衛の仕事が本格的に始まるんだ」
食事をしながら、さっきのボニファーツとの会話を思い出し、つい小さく零してしまいまた。
どうも、侵攻で倒したモンスターの素材の処理や売買が一段落したので、それを南部都市の商人達に卸し、そのお金で町に必要な食料や雑貨を買いこむ商人達が行動を開始するのだそうですよ。経済活動ってやつですね。
まっとうな商人は町の北側で、まっとうじゃない商人は南側で商売しているのですが、どっちも時期的には同じように動くので、かなり大型の商隊の移動が予想できます。
そうなると、モンスターだけでなく襲って来る馬鹿が増えるので、それを護衛するのに冒険者だけでなく、捜索者も動くと……まぁ、お互い生活もあるので、仲良くは無理だけど、無視し合えるぐらいはできるらしいですよ。
「私たちも、参加するつもりなの?」
僕の呟きを、その小さく動いていた長い耳で拾ったのか、エルヴィーラが聞いてきたので、分からないと小さく笑って答えました。
正直、本当に考えてないですしね。食事を終えると、エールを飲みながら二人で雑談しつつ食休みしていると、なんだか酒場が妙な方向に騒がしくなってきました。
ギルド支部近くの冒険者がたむろする酒場なので、粗っぽい事も日常茶飯事なので、あまり気にする事もないのですよね。火の粉が飛んで来ないかだけに注意するので十分なのですけどね。
「だから!俺が、もう少しこの町に来るのが早ければ、トロールだろうがワイバーンだろうが、仲間と倒してやったんだ!」
「無理だろ?」
聞こえてきた若物の血気盛んな言葉も、ベテラン冒険者が冷静な一言で切り捨てていました。若い冒険が起こす、よくあるトラブルですよね。って、僕も若いのですけどね。
そのまま売り言葉に買い言葉と言うより、若い方が一方的に熱くなって手も出したようです。聞こえる音や声で判断すると、若い方が一方的に負けているみたいですけどね。そんな、良くある喧騒を聞きながら、僕はヘルムを装備。それに合わせてエルヴィーラも帽子を被っています。食事も終わったし、巻き込まれたくないですよ。
野次馬冒険者たちは娯楽の一種を楽しむように賭けなんか始めていますが、興味ないです。ちらっと見たら胴元はボニファーツでした。ちゃっかりしています。
「お前らは乗らないのか?」
二人で席を立つと、そのボニファーツからお気楽な声が飛んできたので、軽く手を振って断りを入れておきますよ。フルフェイスのヘルムだから表情は見えないですしね。慣れたように賭け金の一部を場所代として受け取っていた逞しい女将さんに、食事の代金を支払って出ていこうと思ったのですが、『気配察知』に反応があったので足を止めてしまいました。
どうやら殴り飛ばされて吹き飛ばされたみたいです。そこまで勢いもないですし、片手で背中を受け止めてあげました。いや、女将さんも近くに居たので、巻き込まれたら大変ですしね。
「クソッ!まだ、まだ……」
口では強がっていますが、足に来ているみたいですし決着は付いていますよ。年の頃は十代後半、20には達していないと思う赤い髪の青年は、ふらつく足で前に出ようとしていました。
「坊主、終わりだ」
その肩をボニファーツの逞しい手が抑え止めます。面倒見がいいから、任せて大丈夫でしょう。
「お前が、お前らが、上位の冒険者だな!今に見てろ…直ぐに超えてやる!」
その青年、ボニファーツと一緒に僕たちを睨みつけて、大きな声で宣言されちゃったのですよ。エルヴィーラと一緒に酒場を後にしようと思っただけなのに、なぜ、そんな台詞を……あっ!装備で判断されたのかもですね。エルヴィーラを見ると、軽く肩を竦めて苦笑を浮かべていました。まぁ、勘違いは誰にでもありますし仕方ないですよね。気にせず帰るとしましょう。
僕たちが帰ろうと動き出すと、ボニファーツから解放されたのか、目の周りに青たんを作った青年は、数人の同世代と思われる人たちと一緒に、酒場を後に……あれ?これって……やっぱり。扉の前で合流する形になって気まずい空気を味わってしまいました。ここは先を譲っておきます。なんだか赤髪の青年に警戒されているみたいですしね。
何人かは、エルヴィーラに見惚れていたみたいですが、いつものこと。気にしても仕方ないので、僕たちは、泊っている宿に帰るだけです。
この時は、彼らとはもう会う事もないだろうと思っていたのですけどね。人生、なにが起こるか分からないものですよ。
感想、ありがとうございます。これからも、がんばります。




