第二十六話
「数が多すぎて……これじゃ……っ!」
ついつい、愚痴を零しちゃいますよ。夕暮れで綺麗に赤く染まった平原を、モンスターや人間の血で汚していく戦いが続いています。
開始当初は予定通りに、前衛だけで受け止められそうだったのですが、モンスター後方から出現したストーントロールの集団に前衛は手を取られ、その合間を縫って中衛にホブゴブリンやグレーウルフの集団が襲いかかって来たのですよ。
トロール種って確かクリスタルリザードに匹敵するモンスターで、ジャイアント族に連なるんだよね。3m近くある灰色の巨体は、ストーンって名前が示すように石のように硬く、おまけに再生能力まである危険なモンスター。首を切り飛ばす、心臓を潰す、傷口を火で焼くなりすると再生はしないそうですが、1匹でも抜けられた中衛の被害甚大が確定です。僕はエルヴィーラの援護込みでなんとかなるかもですが、他までカバーするとかは無理ですよ。
今も抜けてきた小型モンスターを白水晶の大剣で迎撃するので手一杯ですしね。大型の武器を使用しているので周囲の冒険者の事も考えて右翼の中でも、一番右端に陣取っていました。
エルヴィーラから援護の矢も随時飛んできているので、今のところ抜かれてはないないです。右翼は中衛で耐えていますが、左翼は辛いのか、後方の陣も左の方に展開し援護に入っています。これは余計に抜かせる訳にはいかないのですよね。
他の冒険者も奮戦しているのですが、数の暴力から既に少なくない被害者が出ていて、死体に食らいつくモンスターを別の冒険者が攻撃するシーンも視界の端で捉えています。
全体で最初は300人はいたであろう冒険者たちですが、10%の30人は死亡、もしくは重症で戦闘不能になっていると思います。感覚的なので詳しい数字は分からないのですけどね。でも、軍って30%の被害を出すと負けって聞いたことありますし、ここからが踏ん張りどころですよね。
200匹近くいたと思うモンスターの方は、半数は撃退されたと思うのですが、それは小型モンスターに関しての話。大物のトロールは、まだ健在なので油断はできないのですよ。一匹でも抜けたら、僕たちで押さえるのがベストでしょうし。伊達に大型モンスター用に作った武器は使ってないのですよ。エルヴィーラの操る黒水晶の長弓と火の精霊魔法の援護があれば、勝率も高いですよね。
さすがに疲労もありますが、このレベルの複数の敵と戦うのには慣れていますし、全部がこちらに来ている訳ではないですしね。夕日が沈み、周囲が闇に包まれそうになっているころ、ついに前衛がトロールを倒し始めました。根気良くダメージを蓄積した結果ですよね。何人かの精霊魔法の使い手もいたようですし。
更に後衛から放たれた光の精霊たちが周囲を照らし、戦場が暗闇に閉ざれるのを防いでくれています。周囲のモンスターの数が減り、一息つけそうだったので少し動きを止めて休憩していると、後ろからエルヴィーラも近づいてきました。
「なんとか勝てそうね」
声に疲労を感じたので、肩越しに振り返り確認しましたが、怪我はしてなさそうです。魔法と弓を併用して使っていたので疲れるのは仕方ないですよね。笑みを浮かべて小さく頷いた時のことです。
不意に大きな気配が高速で接近していることに気が付きました。それも……低空から!
慌てて前方の闇に覆われた上空に視線を向けると、冒険者と捜索者の陣の中央を低空で進入してくる巨体が目に飛び込んできましたよ。
巨大な蝙蝠の羽を連想させる翼を持つ大きな蜥蜴。首と尻尾は長く全体的にシャープなシルエットをしたモンスター、ブラックワイバーンです。
暗くなった周囲の為、発見が遅れたのでしょう。前衛は対応に遅れが見えますし、これは抜かれますね。目的は町。侵入経路は川の合流地点だと予測できました。下位とはいえドラゴン族に連なり、強さはクリスタルリザードやトロールを超えるとも言われるモンスターが、防衛できる人間の少ない町に侵入すれば被害は……想像したくもありません。
「エルヴィーラ!」
その一言だけ叫ぶと、右方向に走り出しました。確認はしてないですが、後方から追いかけて来てくれる気配は感じているので心強いですよ、本当に。
距離的には、一足早く気が付いた僕が、ぎりぎり間に合うか、どうかの際どいタイミングですが、抜かせる訳にはいきません。倒せなくても部隊で対応できる時間を稼がないとですよね。
そして二つの陣の中央前衛を抜け、中衛も抜ける前に、その進路に割り込む事に成功しました。7m近くある巨体で地面から2mほどの低空で突撃してくる姿は脅威ですが、負ける訳にはいきません。剣を大きく振りかぶると、一気に振り下ろしました。
予想した場所は頭、不意打ちで一気に決めるつもりでしたが、手応えはなく、変わりに突風を叩きつけられます。数歩、大きく後方によろめきましたが何とか転倒を免れました。体勢を整えていると、正面の地面に何かが降り立つ巨大な気配。予想していたより音は小さかったです。
正面に目を向けると、僕を睨みつけてくるブラックワイバーンと視線が重なりました。
あの速度を一気に殺して、僕の攻撃を避けながら地面に降りたったのだと理解できちゃったので、緊張感も高まります。どうやら、ここからが本当の死闘になりそうですよ。




