第十四話
外周区をギルド支部のある区画から反時計回りに進んだ南門と東門の中間地点近くに、鍛冶屋が多い一角があります。周囲には物理的な熱気に、何かを加工する音が響き渡り、正直うるさいのですが、僕よりも耳が良さそうなエルヴィーラが大変そうでした。それでも装備を充実させるために我慢なのです。
妙に入り組んだ細い道に入ると一軒の鍛冶屋に到着したので、看板で間違っていないか確認してから扉を潜ります。入口をはいるとすぐにカウンター、カウンターの向こうには何に使うか予想できない道具の数々が乱雑に置かれており無人でした。薄暗い室内を良く見ると、奥にも扉が一つあり、その奥からは絶え間なく何かを加工する音が響いてきます。
「すいませーん!冒険者ギルドの紹介できましたー!」
怪訝そうな表情をしていたエルヴィーラと一瞬だけ顔を見合わせた後、立っていても仕方ないので受付の前に並んで立ち、大きな声を奥の扉に向けて掛けます。何度か大声を出した後、奥から聞こえていた音が止み、扉から体躯の確りしている皮のエプロンを装備した男性が現れました。身長は低く150センチほどですが、立派な髭を顎のラインにそって整えたその人物を見てドワーフという単語が頭に浮かびましたのですよ。
「なんじゃ?」
そのドワーフさんはカウンターに来ると、僕たちを見て短くそう聞いて来たので、持ってきた紹介状と素材の入った背負い袋をカウンターの上に置きます。エルヴィーラを同じように置いたのを確認してから、水晶大蜥蜴の素材を加工できるとギルドで聞いて来た事、これで武器を作って欲しい事などを告げます。
ドワーフさんは表情を変えずに断りの言葉を口にしてから、素材の確認をカウンターの上に基準は分からないのですが並べていきました。どうやら品質を確認してくれているようです。暫く、並べ終わった素材を眺めていたのですが一つ大きく頷くと、僕たちを見てきます。
「……で、武器の種類は?」
怒鳴ってないのですが、妙に腹に響く声で聞かれたので、エルヴィーラは今使っている弓を見せながら、これと同じ長弓と矢を頼んでいる間、僕は少し迷っていました。
正直、水晶大蜥蜴との戦いで攻撃力が足りないと実感したのですが、それはブラックウルフ製の長剣だったからなのか、種別が斧や槍でなかったからなのか……素材なのか、種類なのか、判断できなかったからです。
僕が答えに詰まっているとエルヴィーラの少し心配そうな視線を感じて、分からないなら専門家に聞く事にしました。
「……少し剣を振って見せろ」
ドワーフは、僕の話が話を終えた後、確認するためだと思うのですが、そう言ってきました。言われるままに、カウンターから離れ、出入り口付近で長剣を両手で持つと数度、全力の素振りして見せます。
「……分かった。両手剣を作ってやろう」
数回の素振りを見ただけで分かるのかと思ったのですが、考えてみたらスキルがあるのかも。それに両手剣は考えてなかったので目から鱗なのです。その後、何に使う理解できなかった道具を何種類か使用して、僕は剣の大きさや重さ、エルヴィーラは弓の大きさと弦の強さ、それに矢の長さなんかも最適な物ができるよう測定してもらえました。
エルヴィーラは少し面倒そうでしたが、僕は結構楽しかったのですよ。これは男女の違いかもですね。ドワーフさん、僕が見た目より力が強かったので、少し驚いていたと思います。いや、表情じゃなく気配で感じたんですけどね。
後、今ある素材じゃ、武器までしか作れないので、余った素材はそのままドワーフさんに売る事になりました。製作費に回してもらいましたが、何と二人で金貨2枚も支払う事になりましたよ。これでも素材は持ち込みだったから完全オーダーメイド品としては安いほうなのだそうですけどね。
一通りの説明を終えると、一週間後に、また来るように言われ、ドワーフさんに見送られて鍛冶屋を後にしたころには、すっかり夕方になっていました。
夕暮れに染まる外周区画の大きな通りに出て並んで歩いていると、不意にエルヴィーラが僕の左腕を抱え込むよう体を密着させてきて驚きましたです。腕の痛みは既に引いているので問題ないのですけどね。
ちょっとびっくりする僕の体の回復力なのですが、もしや『状態異常耐性』の影響なのでしょう。考えたら、怪我も状態異常の一種ですよね……考えすぎ?
痛みがないのでいいのですけれども、そもそも、どうしてエルヴィーラが僕の腕に抱きついてくるのか?なのです。
疑問に思ったので素直に聞いてみたところ、なんとなく、だと妙な色気を感じる笑みと共に答が返ってきたので、何も言えなくなりました。僕の頬が熱くなり真っ赤になっているのは理解できます。このままじゃ歩き難い状況になってしまいそうなのですが、何かの罰なのでしょうか?さすがに心当たりないのですけど。
エルヴィーラから甘くバラのような香りと、柔らかく暖かな体温を感じながら歩いていると、不意に腕を引っ張られ一軒の宿に。
え?と混乱している間にエルヴィーラが部屋を取って二人で……俗に連れ込み宿と言われる部類の宿で、今晩は過ごすことになりそうです。




