VIII
宇陀はいやなやつだった。まず僕を舐め回すように見た後、鼻を鳴らした。
「君が佐藤かい?」
「うん。そうだけど」
タメ口が気に入らなかったのか、彼は嫌な顔をしたが、文句は言わなかった。肩書きはなくても事実的に僕が彼の上司なのだ。少なくとも宇陀は僕の命令に聞けと指図されている。
「じゃあ今回のプロジェクトのことを早速説明してくれるかな? どんなゲームかさえもわからないから」
宇陀は僕を会議室へと連れて行き、ゲームデザイナーを二人呼び、その二人にゲームの目的と特徴を説明させた。
簡単に言うとそれは警察とテロリストのぶつかり合いをシミュレーションしたRTS(Real Time Strategy)とRPG(Roll Playing Game)を合わせたゲームだった。プレイヤーは二手にわかれ、一方は司令官としてRTSらしく大勢の警官隊を動かし、テロリストを追い詰めようとする。司令官のプレイヤーのスクリーンは上から見た光景で、全ての警官の視野が見えるが、テロリストの方は一人称視点(こちらがRPGらしく進む部分だ)で、携帯やトランシーバーでしか他のテロリストとコミュニケーションを取れない。
「面白そうなゲームだね」正直に僕は言った。「でも多分問題はゲーム内のバランスを維持しながらどれだけ楽しいゲーム感を出せるか、だね。ストラテジーとタクティクスのぶつかり合いだから、可能性は多ければ多い方がいい」
メガネをかけたゲームデザイナーはそれぐらいわかっていると言うような顔つきで頷いた。
「でも日本警察をモデルにしたのは良くないなぁ。思い切って設定を未来の世界にしよう」
「すでにグラフィックの大半は完成していますし、今更そんな変更は――」
「君はいいゲームが作りたいんだろ? 誰のアイディアだったか知らないけど、世界に通用したいならもっと視野を広くして考えてみよう。とにかくコンセプトはそのままで、設定を変える。SF作家にも加わってアイディアを出してもらおう。大学のSF研究会なんてもいいアイディアありそうだな」
「しかし予算が……」
「それは僕がなんとかする。明日までに使えると思う作家のリストを制作してくれ」
僕は結城の力を使って三人を説得させた。一時間ほど時間がかかったが、彼らは納得したようだ。僕自身いいアイディアかどうかはわからなかったが、三人とも素晴らしいと言っていた。
しかし宇陀の愛想笑いは二人のゲームデザイナーがいってしまうと突然消えてしまった。
「上手いですね」と彼は言った。
「なにが?」
「佐藤さんの口ですよ。よくそんなに口からでまかせを吐けますね」
僕は少し面食らった。なぜ彼は説得されていない?
「しかしとても不思議だ。どうしてあの二人はこうも簡単に引き下がったんでしょうか? 普通ならあなたが提案していることが金銭的に無理だと知っているのに」
宇陀に僕の話術は効いていなかった。僕はゲームデザイナーの二人の心を掴もうとしていたので、宇陀のことを忘れていた。プロジェクトマネージャーである彼にゲームデザイナーと同じ言葉を言っても説得することはできない。つまり結城の能力は大勢の人間を説得することはできないと言うことだ。
「だけど」
僕は言いかけた途端止めた。ここで彼を説得することはできる。しかしそれは簡単すぎる。このプロジェクトマネージャーを自分のサイドに願えさせるのは直接彼と話さないでもできるはずだ。
「まあ、僕を信じてください。このゲームを成功させてみせますから」
そう言い、僕はコンファレンスルームを出た。




