III
白髪頭が佐藤結城が住む家に訪れたのはその日の夜だった。父は最初彼が誰だかわからず、夜分に失礼だなと思っていたらしいが、白髪頭の名刺を見た後仰天したらしい。そう結城の母が後で僕に話してくれた。
その時僕はシャワーを浴びている所で、腰に巻いたタオル以外裸で靴を脱ぐ白髪頭に鉢合わせた。
「ゆうちゃん、ちょっと」と母は言った。
「ああ、あんたか」僕は軽く白髪頭に挨拶すると、あちらは固い言葉を返した。それは僕への挨拶だが、同時に彼は、私はちゃんとした社会人ですよ、と結城の両親に見せつけているのだ。
「お偉いさんがいるんだから、もう着替えてきなさい」
「いや、これでいいよ、僕は」タオルの端を握ったまま僕は居間へといった。「夕食がまだだから速くしてね」
あっ、と母は声を上げてキッチンで鍋をチェクした後、白髪頭に夕食は食べて行かないかと尋ねた。
「いえいえ、それには及びません」と白髪頭は低調に断り、母はほっとしたように見えた。白髪頭と父の収入は各が違うから、二人が食べるものも各が違う。母が作る食事では白髪頭が満足しないと思ったのだろう。
「私はウニー株式会社の取締役員を努めさせていただいている鵜来政基と申します」
白髪頭は両手で名刺を父に渡した。同じ格好で受け取る父。少なくともこのポーズは収入は全く違っても同じだった。
「本日はあなたのお子さんのことについて話にきました」
僕は冷蔵庫から缶コーラを取ってきて、白髪頭の隣に座った。まだ服を着ようとしない僕を父と母は睨んだが、白髪頭を遮って僕を叱る勇気はないようだった。二人の困惑した表情を楽しみながら僕はチュウチュウとストローを通して黒い液体を吸い続けた。
「私は長年の経験から人を見る目を持っているつもりです。そしてあなたのお子さんの才能は素晴らしい。ぜひ、ウニーと日本のために役立ててください」
白髪頭は頭を下げて喋るのを止めた。
父と母はしばらく無言で見つめ合っていた。
「ゆうちゃんは……ゆうちゃんはどうしたいの」
「まあ、いいんじゃない。年収が悪くなければ」
それでも両親は簡単には頷こうとしなかったので、僕は仕方なくいくつかの根拠を上げ、彼らの決断を速めた。
「わかりました。結城がやりたいと言うのなら、私たちが反対する筋合いはありません。その契約書をサインしましょう」
数分後、僕はウニーの社員となっていた。成人していないので、僕はアルバイト扱いだったが、そこらのアルバイトが稼ぐより五六倍は高い時給だった。
「悪い、これ以上今出すことはできない。君の才能がもっと知れたらヘッドハンティングを恐れて、君の給料も上がるさ」と白髪頭は申し訳そうに言った。
「僕は満足だよ」
「よかった。明日から私のオフィスに出勤してくれ。一応君は私のアシスタントだからな」
「コーヒー僕は嫌いだから。アールグレイを淹れておいて」
「わかったそうする」
白髪頭はニヤリとオッサンには合わない若々しい笑いを見せ、僕が住むマンションの薄い扉を閉めた。
「ゆうちゃんにこんな才能があったんなんて、思ってもみなかった」
僕がリビングに戻ってくると母は感嘆した声で言った。
父でさえ「俺の息子だもんな」と鼻を高くして言う。
少しいい気になって僕はニコニコして椅子に座った。そしてすぐに「ああ!」と叫んで立ち上がる。
「どうしたのゆうちゃん?」
「大事なノートを学校に忘れてきた。今ならまだ開いてるかも。とってくる」
自分の部屋に飛び込みアディダスのティシャツとランニング用のトランクスに着替え、スニーカーを引っ掛けて僕は家から飛び出した。
もちろんノートを取りに行くためじゃない。白髪頭を追いかけるためだ。




