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湊はナミハナに、ピャートゥイがポビヂーチェリを停止させ、無人機に停戦信号を送ったことを伝えた。
「てことはフィフスウェルは、もう安全な場所になったってこと?」
「そうね。もう動いている無人機はいない。ロボットも大丈夫なはずよ」
ピャートゥイのその言葉を聞いてナミハナは少し涙を流した後にそれを拭って、嬉々としてイブキ達に無線機で報告していた。
動かなくなったポビヂーチェリの前で湊はピャートゥイを見つめた。
「これでやっとゆっくり話せるね」
「湊……ごめんなさい。私、酷いことたくさんいった。それだけじゃない。あなたを撃ったこと、あなたの両親のことも……」
湊はピャートゥイを制止するように首を横に振った。
「俺の両親については、実感が湧かないから今は別にいいよ。撃ったことについても、きっと致命傷にならないようにしてくれたんでしょ。なら、気にしなくていい。そんなことより、今なら本音を話してくれるよね」
ピャートゥイは頷いた。
湊は腕を組んで何から聞こうか悩んだ。
「ピャートゥイはさ」
最初に思い浮かんだのは。
「俺のこと好き?」
そんなことだった。
「好き、好きよ。……ごめんなさい、信じられないわよね」
ピャートゥイは泣きそうな顔になった。
「いや、信じるよ。信じたからこそ、ここにいる。こうして話をしているんだから」
湊はピャートゥイを抱きしめた。
「俺もピャートゥイが好きだよ」
「うん、ありがとう……」
ピャートゥイは抵抗しなかった。
「それでさ、やっぱり敢えて殺されようとしてた?」
「ええ、まあね」
湊はピャートゥイをはなして、顔を見た。
「どうして?」
「理由はいくつかあるけど、一番の理由は私やポビヂーチェリには罪があるから。大量に人を殺した罪が。それを償わないといけないと思ったの……」
ピャートゥイは俯いてそういった。
「安直だ。死ぬことで償うだなんて」
「そうはいうけど、戦うために作られたものは償いの為と、同じことを繰り返さない為に破壊されるべきじゃない?」
湊は疑問に思った。
ピャートゥイは確かに戦闘技能があるが、戦うために作られたようには思えなかったからだ。
「ピャートゥイはそうなのかい?」
「実は……違う。私は戦う為に作られた訳じゃない。本当はとある人間を再現するために作られていたアンドロイドの試作機なの」
湊は驚いた。
「それが、どうしてポビヂーチェリのパイロットに?」
「ポビヂーチェリは有人で動かす想定で作られていた。でも、実際にポビヂーチェリを操れるような技量を持った人はノーヴィには存在しなかった。装備や装置が多すぎたの。だから、アンドロイドに操作を学習させてパイロットにした」
そういってピャートゥイは動かなくなったポビヂーチェリを見つめた。
「そうなんだ……」
「操作を学習する際に私は記憶を封じられて戦闘マシーンに頭を作り替えられた。でも、ここで妨害電波を浴びた時に、記憶がよみがえった。私にインプットされていた私の元となった人間の道徳心とか母性とかそういうものが。でも、私が気づいた時には、この地には一人の赤ん坊しか残っていなかった」
「それが、俺?」
ピャートゥイは頷いた。
「妨害電波を浴びたポビヂーチェリも攻撃性を潜めて湊を育てるのに協力的だった。私たちは比較的清潔に保たれていたあの駅のコンビニで、四苦八苦しながら湊を育てていた。そんな経験無かったのだから当然なんだけど、いろんな苦労をした。そして、この場所と私たちでは湊を育てられないと理解した」
ピャートゥイは昔を見ているように湊に視線を向けていた。
「それで?」
「私たちは、偶然にも外からこの地にやってきている人間を見つけた。その人間が湊を拾うように仕向けた。今思えばちょっと怪しい男だったわね」
「それが博士か……」
湊は、帰ったら当時の話を博士から聞いてみたくなった。
「それで、敢えて殺されようとした他の理由は?」
「私は、ポビヂーチェリの座席に乗り込むとポビヂーチェリに対して敵対的な行動をとれなくなる。いくら私がポビヂーチェリを破壊しようと思っても出来ないの。だから、秋津大和の連中を利用して私ごと壊してもらおうと思った。湊を挑発したのも、私を殺す時に少しでも躊躇しないように出来ないか、と考えた結果なのよ」
ピャートゥイの言葉に混ざって一定のリズムで何か金属が跳ねる音がしていた。
音の方を見るとナミハナが拳銃用の空の薬莢を指で弾きながら無線機を使っていた。
湊は咳ばらいをして、意識をピャートゥイとの会話に戻す。
「色々な嘘をついていたのは?」
「ポビヂーチェリに私がわざと破壊されようとしていることがバレないようにするため。……ねぇ、湊。よくよく考えるとあなた、鋭すぎないかしら。私が殺されようとしたこととか、嘘をついていたこと、それに私をポビヂーチェリから引き剥がす時のこともそう。まるで私の頭の中を覗いてから作戦を立てたみたい」
湊はピャートゥイにそういわれて、自分の考え方を少し振り返ってみた。
「自分でも上手くいえないけど、どうなろうともピャートゥイを信じようと思ったから、結果的にそうなった……のかな?」
ピャートゥイは体の前で腕を組んだ。
「それにしても、私が望んだような動きをしてくるものだから、びっくりしたわ。秋津大和のBGがポビヂーチェリの頭を狙い始めた時は夢でも見ているのかと思った」
「どうして?」
「私はポビヂーチェリをどうにかして破壊してもらおうとしていたけど、秋津大和のBGの装備じゃ弱すぎてポビヂーチェリにほとんど傷をつけられない。そして悩んだ結果、弱点がむき出しになるコックピット内を攻撃してもらうことを考えた。でも、私がポビヂーチェリにそのことを悟られないようにコックピットを開けるには、何かしらの理由が必要だったのよ。それで、メインカメラを破壊してもらえば視界を取る為にコックピットを開けるっていう理由が出来るでしょ。だからどうにかしてそれを伝えようと思って、秋津大和のBGにミサイルを撃ち込んで頭部を吹き飛ばしてみたんだけど、絶対伝わってないなって思ってたから……」
八咫烏二号機の頭部がミサイルで吹き飛ばされたことが、ピャートゥイからのヒントだったことにはさすがに気づかない、と湊は苦笑いした。
「でも、結果的にはそうしたじゃない」
「そうだけどさ……」
そう湊とピャートゥイが話しているところに無線通信を終えたナミハナがやってきた。
「お二人さん、ちょっといい?」
「どうぞ」
湊はナミハナの話を促した。
「もうそろそろ第一小隊が来るから、撤収準備があるなら今のうちにしといて欲しいんだけど」
「ポビヂーチェリの装置とかの回収は?」
「それはまた後日になるね。あたしたちボロボロだし、八咫烏は一機しかないし、装甲車も一台しかないから」
湊はピャートゥイを見た。
「ピャートゥイってポビヂーチェリから離れたらどれくらいの時間動けるんだい?」
「大体二週間くらい。機能を止めて眠っていれば一年くらいは大丈夫だけど」
ピャートゥイは首を傾げた。
「ナミハナ?」
「うちの科学者なら一年もあれば楽勝だと思う」
「ねぇ、何の話?」
不思議そうにしていたピャートゥイに湊は、秋津大和がポビヂーチェリの装置や装備を回収したら、ピャートゥイの体や記憶を維持する装置を作ってもらうことを話した。
「でも、私は罪を償わないと」
「それなら、一緒に俺の家に帰ってからゆっくりと償えばいい。死ぬ以外の方法でね」
俯くピャートゥイに湊はそう力強くいった。
「でも……」
「ピャートゥイのことを取り戻す為に、痛みに耐えて死ぬほど頑張った俺に免じてとりあえず納得してよ」
「湊……わかった」
その時、装甲車の走る音が聞こえてきた。
「あ、来たね。こっちこっち!」
ナミハナは嬉しそうに飛び跳ねて装甲車に手を振った。
装甲車は二人ほど中に乗れなかった隊員を乗せて湊達のもとまでやってきた。
「そういえば、俺達も乗せてってくれるの?」
「そりゃあもちろん。だってあたし達、もう仲間じゃん?」




