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 八咫烏一号機はミサイルの雨をかいくぐり、時には無人機を相手にしながらも、ポビヂーチェリの正面に向かって足を進めていた。

 左右が林になった道を八咫烏一号機が走り抜けていると、徐々にポビヂーチェリの正面が見えてきた。

「このまま行ければ、もうすぐ正面……!」

 ナミハナがそういうと同時にコックピットはすさまじい衝撃に揺られた。

 メインモニターとサブモニターは土煙によって視界が遮られて何も見えなくなっていた。

「な、なに?」

 ミサイルが飛んでくる時とは違い、ロックオンアラートは鳴らなかったため、何が起こったのか湊もナミハナも分かっていなかった。

 土煙が晴れると、まず最初に八咫烏一号機の目の前の地面が抉れているのが見えた。

 そして遠くに見えるポビヂーチェリは紫色の淡い光を放っていた。

「ミサイルじゃない?」

 次の瞬間、ポビヂーチェリから眩い光が地面に向かって放たれた。

 そして、それは地面を抉りながら八咫烏一号機に迫った。

「ナミハナ!」

「分かってる!」

 ナミハナは八咫烏一号機を走らせ、抉れた地面を飛び越えた。

 振り返るとポビヂーチェリから放たれた光は八咫烏一号機がいた場所を地面ごと切り裂いていた。

「ポビヂーチェリってレーザー兵器まで積んでるの!」

「そういえば、前にナミハナがショッピングモールの跡でポビヂーチェリに攻撃された時に撃っていたのは、対人用のエナジー速射砲だったはず。対人用があるなら対BG用のエナジー砲もあるのか……?」

「とにかく走って躱さないと、あんなのミサイルより厄介。きっと、無人機を盾にしても無人機ごと切り裂かれてしまう」

 ナミハナが八咫烏一号機を走らせると、無人機がレーダーに映った。

 前後に一機ずつ道を塞ぐように無人機が現れる。

「いってるそばから!」

 メインモニターに正面の無人機を捉えると、サブモニターではポビヂーチェリが光っているのが見えた。

「ナミハナ、エナジー砲が来る。こっちが避けようとしなければ向こうも外しようがない。避けて!」

「っていっても囲まれてるのよ。ええい、どうにかなれ!」

 ナミハナはペダルを踏み込み、正面の無人機に体当たりした。

 ポビヂーチェリが放った光は一直線に八咫烏一号機に迫ってきていた。

 コックピットが揺れた。

「この、こいつ。掴まれた!」

 正面の無人機は動きを止めたが、八咫烏一号機は後ろから無人機に羽交い絞めにされていた。

「このお!」

 どうにか無人機を振り払おうとナミハナは操縦桿を動かすが無人機は振り払えなかった。

 光はもう目の前まで迫っていた。

「避けれない……!」

 その時、無人機の力が突然弱まったのか八咫烏一号機が無人機を振り払った。

「うああ!」

 ナミハナが反射的にペダルを強く踏み込み八咫烏一号機が素早く前に移動すると、光は背後すれすれのところを通過し、無人機を引き裂いた。

「あ、危なかった……」

 ナミハナが胸に手を当て深呼吸をすると無線機から声が聞こえてきた。

「こちらイブキ、今のがKSV八十の最後の一発だ。我々は大空洞前に向かう。次は無いぞ、気を付けろ。通信終了」

 どうやらイブキの遠距離からの援護射撃により、八咫烏一号機は無人機を振り払えたようであった。

「ありがとう、イブキ」

 ナミハナはそう呟いて八咫烏一号機を走らせた。


 ポビヂーチェリの正面にくると、木々が剥げて丘になっている場所に辿り着いた。

 ポビヂーチェリはその丘の上に浮いていた。

 ゆっくりと八咫烏一号機は丘の上に向かう。

「こちらが正面に入ってから何もしてこなくなったね……」

「うん、ピャートゥイは待っているんだと思う。ここからならもう狙えるんじゃない?」

 丘を少し上って、ポビヂーチェリが近くなってきた頃に八咫烏一号機はハンドカノンを構えた。

「湊、信じていいのよね」

「うん、俺は信じてる」

「なら、あたしはそれに賭けてみる。発射!」

 八咫烏一号機のハンドカノンが火を噴いた。

 一発二発と弾をポビヂーチェリの頭部に撃ち込んでいく。

 予想通りポビヂーチェリは攻撃を躱そうとはしなかった。

 だが、少し動いた。

「避けようとしてる?」

「違う。このまま同じ位置に撃って!」

 そして、八咫烏一号機がハンドカノンを撃ち切ったとき、ポビヂーチェリの頭部から煙が上がった。

「壊れた……!」

 湊が喜ぶのと同時にナミハナは深呼吸した。

 ナミハナは冷静に、八咫烏一号機の今持っているハンドカノンを投げ捨てて背部にマウントされていたもう一つのハンドカノンを装備した。

「さあ、湊。準備して。向こうがコックピットを開けたらこっちもいくよ」

「分かった」

 メインモニターを覗いていると、ポビヂーチェリのコックピットは開いた。

「やるわね、ポビヂーチェリの装甲の弱い場所を撃ち抜くなんて。しかも、よりによって頭部を」

 そういうピャートゥイの声が聞こえた。

「ほら、いった通り!」

「分かったから、コックピット開けるよ!」

 ナミハナは八咫烏一号機の腕をコックピット前に持ってきて、体を固定するベルトを外し、コックピットを開けて身を乗り出した。

「ピャートゥイちゃん。決着を着けましょう!」

「望むところだわ!」

 湊は身を乗り出したナミハナの横をすり抜けて八咫烏一号機の手に乗った。

「み、湊?」

 ピャートゥイの困惑した声が聞こえてきた。

 湊はナミハナに合図を送る。

 ナミハナは頷き、コックピット内に戻り操縦桿を握った。

「行くぞ、ピャートゥイ」

「何を!」

 湊は八咫烏一号機の手に掴まった。

 そして、八咫烏一号機は大きく振りかぶって、腕を振った。

 湊はタイミングを合わせて手を放し、空を飛んだ。

「うおおお、ピャートゥイ!」

 体が飛ぶ感覚はあれど、空中で回転しているせいでどこに向かって飛んでいるのか、湊は分からなかった。

 そして、何か硬い物が優しく受け止める衝撃で、自分が何処に着地したか湊は把握した。

 いつの間にかポビヂーチェリは人型になっており、ポビヂーチェリのコックピットの前でポビヂーチェリの手に受け止められていた。

 目が回っていたが、事態がややこしくなる前に湊はポビヂーチェリの手から開いたコックピットに飛び込んだ。

「ピャートゥイ!」

「湊って無茶するのね。そこまでして決着を……な、なに」

 湊は銃を構えようとしたピャートゥイに近づいて腕を掴んだ。

「話はあとだ、出よう!」

「そんなことが通じるとでも……いたた!」

 湊はピャートゥイの腕を引っ張ったがびくともしなかった。

 ピャートゥイの体を見ても特にベルトをしている様子は無かったので抵抗されただけだと思い、湊はピャートゥイの両腕を掴み全力で引っ張った。

「ちょ、ちょっとまって、湊。いたたた!」

 ピャートゥイが抵抗するのを無視して湊は全力でピャートゥイを引っ張った。すると、何かが千切れる音が何回かした後、ピャートゥイを座席から引き剥がすことが出来た。

「いたた、馬鹿湊。痛いっていったわ!」

 座席から引き剥がした勢いで抱きかかえたピャートゥイに、湊は殴られた。

「うご……ご、ごめん。でも、俺だってこう見えてピャートゥイに撃たれた腹部の痛みに耐えながら動いてるんだよ。いや、今はそれどころじゃない!」

 ピャートゥイを抱きかかえたまま、湊はポビヂーチェリのコックピットから飛び降りた。

「ナミハナ!」

 湊はピャートゥイを抱えたまま、構えられていた八咫烏一号機の手に着地した。

「湊。ピャートゥイを、私を返して」

 ポビヂーチェリはそう話始めた。

「遠慮しとくよ」

 湊がそういった次の瞬間、八咫烏一号機はハンドカノンをポビヂーチェリの開いたコックピットに突っ込んだ。

「終わりよ!」

 ナミハナの叫びが聞こえたあと、凄まじい発射音が耳を貫いた。

 ハンドカノンが火を噴くごとにポビヂーチェリはその体のあちこちから黒煙を上げていく。

 ハンドカノンの弾が尽きる頃、ポビヂーチェリは両膝をついた。

「ああ、死んでしまう。いやだ、生きていたい。湊……私を返して……」

 ピャートゥイは湊の肩を叩いて手を放すように伝えてきた。

 湊はゆっくりと抱えていたピャートゥイから手を離した。

「ポビヂーチェリ、湊は私のものでもあなたのものでもない。そして、私もあなたのものではないわ」

 煙を上げて膝をつくポビヂーチェリにピャートゥイはそう語りかけた。

 そして、ピャートゥイは湊を抱えた。

「な、何何」

「湊、ここまで来たら最後まで付き合ってくれる?」

 そういってピャートゥイは湊を抱えたまま、八咫烏一号機の手から飛んだ。

「おわわ!」

「ちょっと、じっとしててよ」

 ピャートゥイはそういいながら軽々とポビヂーチェリのコックピットの縁に着地した。

「私が消える……わたしがきえ……る」

 ポビヂーチェリはうわ言のようにそう繰り返している。

「コックピットに戻ってきてどうするつもりだい?」

 湊はピャートゥイに抱えられたままコックピットを覗く。

 中はハンドカノンの弾によってぐしゃぐしゃになっていた。

 だが、それでも少し形が残っていることにその強度の高さを感じた。

「やっぱり見えた」

 ピャートゥイはコックピットの上を覗き込んだ。

 湊も覗くとそこには淡く光る装置が見えた。

「これは?」

「ポビヂーチェリのAI。簡単な話、脳みそね」

 ピャートゥイはゆっくりと湊を降ろすと、銃を構えた。

「わた……し……が」

 ポビヂーチェリは同じ言葉を繰り返しているが徐々に言葉が少なくなってきていた。

「とどめを刺す。湊、彼女が罪を償う瞬間を見ていて」

 ピャートゥイのいう罪とはきっと、生きたいと願った大量の命を殺したことだろう。そう湊は思った。

 湊は、ピャートゥイの手に自分の手を重ねた。

「生きたいと願っているものを殺すことが罪になると思っているのなら、ピャートゥイの罪はまた一つ増えてしまう。なら、せめて一つくらい俺も一緒に罪を背負うよ」

 ピャートゥイは驚いた顔をした後、頷いた。

「ありがとう、湊」

 ピャートゥイは引き金に指を掛けた。

「さようならポビヂーチェリ、あなただけに罪を償わせることはないから、安心して眠ってね……」

 弾丸が放たれる。

 放たれた弾丸は淡く光る装置を貫いた。

「み……な……と」

 最期にそういってポビヂーチェリは完全に沈黙した。

 少しの間、風の吹く音だけがこの場を包んだ。

「さて、もう一仕事しないと」

 そういってピャートゥイは、ぐしゃぐしゃになったポビヂーチェリのコックピットに入っていった。

「なにかあるのかい?」

「ポビヂーチェリのAIが止まったからってポビヂーチェリ自体が止まった訳じゃない。残ったポビヂーチェリの力で無人機達に停戦信号を送るわ。これで、この地は無人機から解放される」

 ピャートゥイはコックピット内の配線を引っ張ってきてそれを握り込んだ。

「これでいけるかな」

 その時、ナミハナの声が聞こえてきた。

「湊、無人機が集まってきてる。何してるの、早く離脱するよ!」

「ちょっと待って!」

 湊はナミハナにそう叫んだ。

「あ、いけるわ」

 ピャートゥイがそういった後、微かに歌のような優しいメロディーが聞こえた。

「無人機が止まった……湊、何かした?」

 ナミハナがそういっているということはピャートゥイは無事に停戦信号を送れたのだろう。

「さぁ、湊。行きましょう」

 ピャートゥイが立ち上がるとポビヂーチェリの微かに灯っていた光も消えた。

「電源を落としたわ。もう動かない」

 ピャートゥイはそういって湊を抱えるとコックピットから飛び降りた。

 今日はすごい浮遊感を感じる日だなと湊は思った。


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