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 ミサイルを撃ち込んだポビヂーチェリは変形し、大空洞から出ていった。

「ポビヂーチェリが……いや、先にみんなが無事か確かめなきゃ」

 ナミハナは、急いで無線機を手に取った。

「第二小隊、二号機、生きてる?」

 ナミハナの声に誰も答えなかった。

 再度ナミハナが喋り出そうとした時に、ようやく無線機から声が聞こえてきた。

「第二小隊、奇跡的に全員無傷です。ですが装甲車が大破。どうぞ」

「はあ、よかった。二号機は……自分で確認した方が早いか」

 ナミハナは八咫烏一号機を操縦し、こちらに覆いかぶさり倒れていた八咫烏二号機を少し持ち上げた。

 頭部が破壊され、開きっぱなしにしていた八咫烏二号機のコックピットに力なくベルトに体を押さえられているパイロットが見えた。

 するとナミハナは、急いで八咫烏一号機のコックピットを開けて外に飛び出して、八咫烏二号機のコックピットに飛び込んだ。

 少しして無線機から声が聞こえてくる。

「こちら、ナミハナ。二号機のパイロットの無事を確認。でも、気絶しているみたいだから第二小隊で面倒を見て欲しい。どうぞ」

「了解。どうぞ」

「一旦二号機を地面に寝かせるから、その後お願い。二号機はもうダメみたい。完全に壊れてる……。はぁ、通信終了」

 ナミハナはすぐに八咫烏一号機のコックピットに戻ってきた。

「湊……。泣いてるの?」

 湊はナミハナに情けない顔を見られてしまった。

「そんな場合じゃないのは分かってるよ。でも、でもさ……信じてたんだ……なのに……」

「いいよ、泣いていて。大人だったらそんなことしている場合じゃないって殴ってたかもしれないけど……」

 そういってナミハナはコックピットを閉めた。

 湊はいつの間にか流れていた涙を止めることが出来ずにいた。できることは、ナミハナの邪魔をしないように静かに泣くことだけだった。

 ナミハナは湊の上に座り、操縦桿を握った。

 そして、八咫烏二号機をゆっくりと地面に仰向けに寝かせた。

 するとすぐに第二小隊が八咫烏二号機のコックピットからパイロットを救出していた。

「湊、泣いていていいから聞いて。作戦はまだ終わっていない。あたしたちと一号機はまだ生きている。今からあたしは外に出たポビヂーチェリを追う。そして、何としてでもポビヂーチェリを破壊する」

「……うん」

 湊は嗚咽交じりに頷いた。

「湊は第二小隊と一緒にいて。後はあたしに任せて、一号機から降りて」

 湊は、一瞬迷ったが頷いた。

 ナミハナはコックピットを開いた。

「さあ」

 湊はナミハナに促されるまま八咫烏一号機から降りて第二小隊が集まっている場所まで歩いた。

 湊が第二小隊の目の前まで来ると、第二小隊の持つ無線機からナミハナの声が聞こえた。

「湊をお願い。あたしはどうにかして決着をつけてくる」

 言葉の後、八咫烏一号機は立ち上がりポビヂーチェリを追って大空洞を出ていった。

 その時、地面が揺れて天井からは砂埃が降ってきた。

「さっきのミサイルで大空洞が崩れようとしてるんじゃないか?」

 第二小隊の誰かがそういった。

 俯いて涙を流す湊には大空洞内がどうなっているか分からなかった。

「湊さん。ここは危険です。我々も外に出ましょう」

 聞き覚えのある声がした。

 湊が顔を上げると保田がこちらを優しく見ていた。


 大空洞から脱出する為に出口を走る第二小隊に続いて、湊も走っていた。

 涙は止まったが心の中ではまだ泣いたままであった。

 度々見せてくれたピャートゥイの笑顔が湊の頭に浮かんでくる。

 最初に会った時は、まったく相手にしてくれずに笑顔も見せてくれなかったピャートゥイは、徐々に心を開いてくれていたように思えた。

 湊が一緒に行きたいと頼んだ時は、投げやりな感じではあったものの同行を許可してくれた。

 何を話せばいいか分からなかった時は、ピャートゥイが色々なことを質問してくれた。

 その後、湊の身に危険が迫った時にはピャートゥイは何度も助けてくれたうえ、怒ってもくれた。

 銃の手入れを教えてくれた。

 いざという時、自分で身を守るためにピャートゥイと一緒に射撃訓練もした。

 その時には、ピャートゥイが射撃の腕が落ちたことを悔しがっている様子も見た。

 ピャートゥイの楽し気な表情を、悔し気な表情を見た。

 ピャートゥイは湊に色々な表情を見せてくれた。

 湊もピャートゥイに色々な表情を見せた。

 ポビヂーチェリに乗ってからのピャートゥイの言葉をそのまま鵜呑みにするなら、いままでのすべてのやり取りが、湊の独りよがりだったことになる。

 ピャートゥイは嫌っていた相手と笑いあっていたことになる。

 湊はそんなことは認めたくなかった。

 だが、湊がポビヂーチェリのコックピットに乗り込んだ時、ピャートゥイは自らを敵だといった。

 いつから心が離れてしまったのだろうか、ピャートゥイをポビヂーチェリに乗せた時、もしくはそれより前からすでに。

 そもそも、心が近づく感覚は自分だけが持っていたものだったのかも知れない、と湊は思い、また瞳に涙がたまってきた。

「湊さん……大丈夫ですか?」

 湊の様子を見かねた保田が声を掛けてきた。

「ええ、平気です……ちょっとしたら泣き止むんで……」

 湊が顔を上げて保田に今できる精一杯の普通の表情を浮かべた。

 その時、第二小隊のメンバー全員が視界に映った。

 第二小隊のメンバーは八咫烏二号機のパイロットを一人背負っていた。

 皆、力強く走っていた。

 そう力強く。

 誰も何も怪我をせずに。

 八咫烏二号機のパイロットも気絶しているだけで目立った傷はない。

 湊もだった。

 今回、ピャートゥイは構えていた銃を撃つことなく蹴りでコックピットから湊を追い出していた。

 その結果、湊はナミハナに助けられて無傷だ。

 そのナミハナも、何も怪我をしていない。

 あれだけのミサイルを撃ち込まれて。

 ピャートゥイは全員死ね、といっていたのに。

 全員無傷。

「まだ……」

「え?」

 湊を気にして隣を走ってくれていた保田が不思議そうな声を上げた。

「まだ終わってないんですよね……」

「ええ、そうですね。まだ決着がついたという連絡は来ていません」

 湊は自分の言葉を振り返る。

 ピャートゥイが湊の心配をしていたこと、牧場で自分たちを殺さなかったこと、ピャートゥイが自ら殺しに来なかったこと。

 まだ終わっていない。

 ピャートゥイは、この戦いが始まってから誰も殺していない。

 何故なのか、それは簡単な話だ。

 湊はピャートゥイが誰も殺したくないといっていたことを思い出す。

 あれは、ピャートゥイが自分を敵だと主張する今も続いている。

 湊が嫌いでも、敵であったとしても、殺したくないという願いがまだ残っている。なら、まだ信用できる。もう一度ピャートゥイの本心を信じられる。

 そもそもピャートゥイは湊に蹴りをいれる前に何かをいおうとしていた。そして、ポビヂーチェリが復旧するタイミングで嘘をついたように見えた。

 ピャートゥイはポビヂーチェリに聞かれている時に本音を話せないのではないだろうか。もう飛躍した思考でもなんでもいい。

「もう一度、もう一度だけ信じてみよう……」

 湊がそう呟くのと同時に湊達は外に出た。

 そして、ほぼ同時に大空洞へ繋がる道は崩れた。

「間一髪だったな……」

 第二小隊のメンバーがそういった。

 湊は呼吸を整えるために空を見て深呼吸をした。

 空は青く澄み渡っていた。雲は一つも見当たらない。だが、少し遠くにポビヂーチェリが見えた。

「皆さん」

 湊は第二小隊に声を掛けた。

 保田達、第二小隊は皆、湊を見た。

「俺に最後のチャンスをください。必ず決着をつけてみせます」

 第二小隊は顔を見合わせた。

 そして、保田が無線機を持ってきた。

「隊長を説得出来たらいいですよ。どうせ私たちはもう何も出来ませんから」

 湊は頭を下げた。

「ありがとうございます」

 湊は保田から無線機を受け取った。

 ふと、前にも保田から無線機を受けったことを思い出した。

 まだ、ピャートゥイと一緒にいた頃だ。

 湊は無線機の送信ボタンを押し込んだ。

「こちら湊、第二小隊の皆さんに無線機を借りています。ナミハナ。俺にもう一度チャンスをくれないかい。今度こそ必ず決着をつける。約束する。どうぞ」

 湊は空を見上げて、ゆっくりと瞼を閉じて返事を待った。

「こちらナミハナ、勝算はあるのね?」

 ナミハナは少し焦ったような声をしていた。

「うん、勝算はある。ピャートゥイを、信じているから」


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