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湊達は、BSECCの施設跡の前に着いた。
無人機はここに近づくにつれて不自然なほど少なくなっていき、センサーは不気味なほど何も映さなかった。
メインモニターに倒壊した建物が映る。
「崩れてる……」
「そうだね」
倒壊した建物は大空洞の前にあった建物だった。
前に来たときにはその建物はまだ倒れていなかったので、倒壊したのはつい最近のことだろう。
「第一小隊はこないか……。皆、大空洞の前までいくよ!」
ナミハナはスピーカーでそういって八咫烏を走らせた。
そして、湊達は大空洞へ降りる穴の前まで行った。
湊はうるさい心臓を落ち着かせるように深呼吸をした。
「最終決戦って感じで燃えるね」
ナミハナは少しわくわくしているようにそういった。
湊達はゆっくりと明かりが灯ったままの大空洞に繋がる穴を下っていた。
「湊、作戦をちゃんと覚えてるかな。まぁ作戦ってほど、ちゃんとした作戦じゃないけど。ポビヂーチェリが見えたら先手必勝、攻撃される前に全力で近づいて湊がプリミリーチェリだっけ、を撃つ」
「もし、その前に攻撃されたら?」
「隠れて、次の手を考える。っていいたいところだけど大空洞内に八咫烏が隠れられるほど高い遮蔽物はないね。だから、攻撃されても突っ込むよ。あたしの腕を信じて祈ってて」
湊は少し不安を覚えたがナミハナを信頼して自分の出番を待つことにした。
そして、もう少しで大空洞内に入るという所まで来るとナミハナは足元のペダルを踏み込み八咫烏一号機を走らせた。
「第二小隊、援護お願い。二号機はもしもに備えて第二小隊の援護!」
無線機にそう叫ぶと、ナミハナはその勢いのまま八咫烏一号機を走らせて、大空洞に突入した。
メインモニターに大きな黒い影、ポビヂーチェリが映り込む。
「湊、準備!」
「うん!」
コンテナの影から大量のロボットが現れ、八咫烏一号機に飛びかかってきたが後方から飛んできた重機関銃の弾によって全て撃ち落とされていた。
第二小隊の装甲車からの援護射撃だった。
「うおりゃあ!」
ナミハナは八咫烏一号機でポビヂーチェリに突撃した。そして、ポビヂーチェリに組み付こうとした時、コックピットが激しく揺れ、アラートが鳴り響いた。
「何!」
「もう。先に掴まれた!」
ナミハナはペダルや左右にある操縦桿をやたらめったら動かして八咫烏一号機を暴れさせた。
メインモニターを見るとポビヂーチェリの手が大きく映っていた。
どうやら八咫烏一号機は頭部を掴まれているらしい。
「秋津大和のBG……乗っているのは誰かしら?」
ポビヂーチェリから声が聞こえた。
その話し方で湊はピャートゥイが話したのだと分かった。
ナミハナはスピーカーのスイッチを入れた。
「あら、その声は変な名前のピャートゥイちゃんですね?」
ナミハナが煽るとコックピットがさらに激しく揺れた。
「その声、ナミハナね。湊はどこ?」
八咫烏一号機は頭部を掴まれたまま持ち上げられているようだ。
「チャンス。湊、今しかない!」
ナミハナはスピーカーを切るとそういって、ベルトを外した。
「すぐにコックピットを開ける。構えたらいって!」
湊は急いでポケットからプリミリーチェリを取り出して構えた。
「いいよ!」
「よし!」
ナミハナはコックピットの開閉ボタンを押し込んだ。
「ねぇ、もしかして湊は死んだの……?」
何も返事をしないナミハナに痺れを切らしたのかピャートゥイはそういった。
なので、湊は返事をすることにした。
「俺はここだ!」
コックピットが開いた瞬間そういって、プリミリーチェリの狙いをつける。
持ち上げられている八咫烏一号機のコックピットとポビヂーチェリの胸部はちょうど同じ高さにあり、ほとんど狙いをつける必要が無かった。
ポビヂーチェリは一瞬怯んだように見えた。
「食らえ!」
湊は冷静にプリミリーチェリのEMP弾をポビヂーチェリの胸部に撃った。
目に見えるほどの激しい電撃が走る。
そして、煙を上げてポビヂーチェリのコックピットは開いた。
続いて八咫烏一号機のコックピット内は暗くなった。
「やば、掴まれてたこっちまでシステムダウンしてる!」
ナミハナのそんな言葉が聞こえたが、湊は今の位置からならポビヂーチェリのコックピットに飛び込めそうだと思い、プリミリーチェリをポケットにしまって思い切り飛んだ。
「うおおお、ピャートゥイ!」
湊の体が空を飛び、ポビヂーチェリのコックピットに迫る。しかし、足が届かず、開いたコックピットの扉の縁にぎりぎり手が届いた。
「湊!」
ナミハナとピャートゥイの呼ぶ声が同時に聞こえた。
そして、後ろから何かが落ちる音。湊がちらりと後ろを見ると八咫烏一号機がポビヂーチェリの手から抜け出した音だった。
湊は全力で、掴んだ扉の縁を上りポビヂーチェリのコックピット内に入った。
「湊、生きていたのね」
ピャートゥイが一瞬嬉しそうな顔をした後に無表情に戻したのを湊は見逃さなかった。
ピャートゥイは小さく息を吐き、銃を向けてきた。
それは湊を撃ったピャートゥイの愛銃フョードルだった。
「湊、死にたくなかったら銃を構えなさい。私たちは戦うしかない。相手を殺すまで」
湊はピャートゥイの目を見た。
「ピャートゥイ、もう嘘をつくのはやめよう。君は俺に嘘をついている。きっと、君自身の心にも」
湊の言葉に一瞬ピャートゥイは視線を逸らそうとした。
「こっちを見て話すんだ。本当のことを。俺が嫌いだったなんて嘘なんだろう。秋津大和や俺を殺すっていうのも嘘。その嘘はきっと全部自分をポビヂーチェリごと殺させるための嘘だ。でも、なぜそんなことをさせようとしているのか分からない。俺に本当のことを教えてくれないかい……」
湊は必死に話した。
ピャートゥイの閉ざされているであろう心を開く為に。
「前に聞いたでしょう、私はアンドロイドよ。心なんてない。あるのは抱えきれない量の罪だけ……。湊が嫌いなことも、あなた達を殺すことも本心だわ!」
「嘘をつくな!」
湊は出来る限りの力で叫んだ。
ピャートゥイは驚き、体をすくめていた。
「俺が嫌いならどうして秋津大和のBGを掴んだ時に俺の確認をした。どうして俺のことを見て一瞬嬉しそうな顔をしたんだ」
「そんな、ことは……」
ピャートゥイが否定できる隙を与えないように湊はまくし立てた。
「秋津大和の連中や俺を殺そうとする話だって同じだ。そう思うならなぜ牧場で殺さなかった。なぜ、今まで自分から殺しに来なかったんだ。それは、全部嘘だからだよ!」
いいきって湊は肩で息をした。
ピャートゥイはいつの間にか俯いていた、銃を構えたまま。
「湊、湊、湊……私は……」
湊はピャートゥイの言葉を待った。
コックピットが、ポビヂーチェリが激しく揺れ動き出した。
ピャートゥイはハッと驚いたように顔を上げた。
「クソ、もう時間切れか。ピャートゥイ!」
湊は揺れるコックピットの中でピャートゥイを見つめた。
「湊、私はあなたの敵よ。無駄なご高説どうも!」
苦し気な表情のピャートゥイは湊を蹴り飛ばした。
「ぐっ!」
突然のことで湊は対処しきれず、そのままポビヂーチェリのコックピットから落ちた。
「おっとぉ!」
すると、すぐにナミハナが落ちる湊の服を掴み八咫烏一号機のコックピットに引きずり込んだ。
「危なかったね、そんでフラれた?」
「……」
「そう、でもごめん湊。もう待てない。そういう作戦だから」
ナミハナはそういって湊を座席に投げ飛ばして座らせると、その上に座り、操縦桿を握った。
八咫烏一号機のコックピットが閉まった。
八咫烏一号機もシステムダウンから復旧していたようだった。
「これでも食らえ!」
そういってナミハナが操縦桿を操作すると八咫烏一号機は手に持っていたハンドカノンをポビヂーチェリの開かれたままのコックピットに突っ込んだ。
「待って、ナミハナ。ピャートゥイはまだ心を開けてないだけなんだ。次こそ絶対説得して見せるから!」
湊は咄嗟にナミハナを後ろから羽交い絞めにした。
「こら、はなせぇ。もともとこういう作戦だったでしょうにぃ!」
湊がナミハナを押さえていると、一瞬の浮遊感のあと凄まじい衝撃が体を襲った。
「なんだ、何が起きたんだ……?」
湊とナミハナは、座席に張り付いていた体を起こし状況を確認するために、メインモニターを覗いた。
すると、遠くに見えたポビヂーチェリがコックピットに刺さったハンドカノンを投げ捨てているところであった。
八咫烏一号機はポビヂーチェリに投げられたらしい。
「湊が邪魔するから、絶好のタイミングを逃したじゃない!」
湊は顔面にそこそこ鋭い裏拳を食らった。
「ぐぉ……ごめん……。でも、しょうがないだろう……」
「しょうがなくない。湊、あなたは失敗したの。そして、彼女は間違いなくあたしたちの敵だったってことを証明したのよ!」
湊は信じたくない言葉を口にされてしまった。
「でもさ!」
次の瞬間、大空洞内にピャートゥイの言葉が響いた。
「全員死ね!」
湊がコックピット内のメインモニターを覗くと、ピャートゥイの言葉に呼応するようにポビヂーチェリが全身からミサイルを発射したところだった。
「隊長!」
放たれたミサイル群が四方八方の壁に当たり、八咫烏一号機にも直撃する寸前で八咫烏二号機が間に割って入った。
「二号機!」
ナミハナが叫んだ後、コックピットに衝撃が伝わって湊とナミハナはそれに揺られた。
全てのモニターは煙に包まれて何も見えなくなったが、ミサイルが着弾する爆発音だけが響いて聞こえてくる。
やがて煙が晴れると、八咫烏一号機に覆いかぶさるように八咫烏二号機が煙を吹いて倒れていた。
サブモニターには大破した装甲車が映った。
「結果がこれでもまだ信じられないの!」
湊は唇をかんだ。
「くそ、ピャートゥイは本当に俺達を……。俺は一体何をしていたんだ……!」




