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湊とナミハナを乗せた八咫烏一号機は、ひび割れた道路を走る。
湊は走る衝撃に揺られながら八咫烏一号機のコックピット内を見渡した。
体の正面にメインカメラの映像を取り込んだメインモニターがあり、左右にはサブカメラからの映像を取り込んだサブモニターがあった。
メインモニターの下には味方機の反応が青色で表示されているセンサーがある。赤く表示されるのは識別情報が登録されておらず八咫烏に搭載されたAIが敵だと判断したものらしい。
ナミハナの肩越しにセンサーを覗くと、大量の赤い表示が一気に現れるところだった。
「第一小隊、これより敵を引きつける」
八咫烏一号機のかなり前を走っていた第一小隊の装甲車は現れた大量のロボットや無人機に対して重機関銃を乱射して注意を引いていた。
しかし、湊がセンサーを覗くと第一小隊の陽動に釣られなかったロボットや無人機がいることが分かった。
左右のサブモニターにロボットの群れが映る。
「ナミハナ……」
「大丈夫、ロボットなら後ろについてる第二小隊だけでも何とかできる。問題は……」
センサー上で大きな赤い表示が近づきコックピット内にアラームが鳴り響いた。
「無人機!」
ナミハナは右のサブモニターに映る無人機に対して、走行中で速度のついた八咫烏一号機の右拳をお見舞いした。
無人機はそのまま後方に吹き飛ばされて、瓦礫の山に倒れ込んだ。
そして、すぐさまナミハナは進行方向に向き直り八咫烏一号機を走らせる。
なるべく足を止めないように、進み続けるのが今回の作戦の一つであったからだ。
「今更だけど、八咫烏って近接武装なかったっけ?」
湊は前に見た八咫烏の近接武装であるヒートナイフを思い出して、ナミハナを後ろから抱きしめながら聞いた。
ふと、現状を客観視した湊は、抱きしめているのはそう指示されたからであって、抱きしめたくてそうしている訳ではないと自分にいい訳をした。
「八咫烏は素手での近接戦闘が出来るように設計されているからこれでも大丈夫。そこらの雑魚雑魚BGとは訳が違うの。まぁ、ヒートナイフが壊れちゃってるってのもあるけど」
ナミハナの言葉を聞いて、さすが秋津大和の最新試験機だと湊は感心した。
普通のBGは工業用、軍用問わず素手で何かを殴ってしまうと、手で物を掴むという動作が出来なくなるという問題があった。
比較的脆い関節が集まっているBGの手は物を軽く殴っただけでもすぐに壊れてしまうのだ。
「詳しいことを説明すると、八咫烏は既存のBGとは違う手の構造をしている。それとハンドガードっていう特殊装甲を採用しているから素手での近接戦闘が出来るの」
ナミハナはふふん、と自慢げに鼻を鳴らした。
すると、アラームが再度コックピット内に鳴り響いた。
「二機……!」
左右のサブモニターに無人機が映り込む。
右から現れた無人機の体当たりをナミハナは八咫烏を上手く操作し躱してから、お返しとばかりに体当たりをかました。
コックピットが激しく揺れる。
だが、湊とナミハナは座席にベルトで固定されているので体を打つようなことは無かった。
八咫烏一号機の体当たりを食らった無人機は姿勢を崩し、よろけていた。
「この!」
突然、湊は体が回転する感覚に襲われた。
ナミハナが八咫烏一号機で回し蹴りを放ったのだ。
「そんな動きまで出来るのか……」
「まぁね。二号機、お願い!」
湊に返事をしながらスピーカーのスイッチを押したナミハナは、一号機が相手にしていない方の無人機を相手にするように二号機に指示を出した。
指示を受けた八咫烏二号機は、すぐさまもう一機の無人機を蹴り飛ばして無力化した。
「実は八咫烏って足も丈夫なのよ」
そういってナミハナは無人機が起き上がる前に再度、八咫烏を走らせた。
すると、いつの間にかメインモニターに第二小隊の装甲車が映っていた。
どうやら、あっという間に無人機を一時無力化したように見えていたが、第二小隊に追い抜かれるほど時間を掛けてしまっていたようだ。
「こちら第二小隊、このまま先行します。ロボットは引き続きお任せを。どうぞ」
無線機から声が聞こえてくると、すぐにナミハナは無線機を手に取った。
「了解、八咫烏はすぐ後ろに続く。無人機に囲まれたり、ヤバそうになったら下がっていいからね。どうぞ」
「了解、通信終了」
ナミハナは無線機を置いた。
「後ろからさっきの奴らが追いかけてきてる……そりゃそうか」
ナミハナの言葉を聞いて、湊がセンサーを覗くと、八咫烏の後方に大きな赤い表示が三個ほど映っていた。
「どうするんだい?」
「どうするもなにもない。雑魚は無視よ、無視」
会話をしながら湊がセンサーを覗いていると突然、小さな赤い表示が大量に現れた。
それと同時にメインモニターに映る第二小隊の装甲車についた重機関銃が火を噴いた。
「さっき、ロボットだけなら第二小隊だけで大丈夫って話したじゃん?」
「うん」
メインモニターを見つめながらナミハナは小さくため息をついた。
「あれは嘘じゃない。けど、第二小隊だけでロボットの対応するのにはもう一つ理由があるの」
「それって?」
湊は後ろからナミハナの顔を覗こうとしたが体勢的に無理だった。
「八咫烏じゃあ大きすぎて四足のロボットの相手が出来ないのよ。いや、正確にいえば出来ない訳じゃない。だけど効率が悪すぎる。理由は雑魚雑魚湊でも分かるでしょ?」
八咫烏ではロボットの相手をするのに効率が悪い理由。
考えられるのは、やはり重火器の存在だろうか、と湊は思った。
現在、八咫烏は一号機、二号機共に無人機との接敵時には近接戦闘を行い背部にマウントされたハンドカノンを温存している。
ハンドカノンは威力こそあるものの一つのマガジンの装弾数はたしか十二発程度だったはず。
それに、湊の記憶が正しければハンドカノンに装填されている弾は一撃の火力に特化した徹甲弾だ。
面制圧を期待できる榴弾などではない。
まさに対BGや対無人機用BGとして開発・試験運用されているのが八咫烏なのではないだろうか。
湊は考えたことをそのままナミハナに伝えた。
「そう。八咫烏は同じサイズかそれ以上のサイズの敵を想定して開発されている。だから小さい敵とは相性が悪いの。本当は試作ガトリング砲とかがあったから、それを使えたら面制圧力もあるんだけど、前の作戦で運搬用のトラックが大破したし、試作ガトリング砲も壊れちゃったのよね」
ナミハナは残念そうに肩をすくめて湊に体重を預けてきた。
「う……」
ナミハナが操縦に集中している際、ナミハナは重心を前に倒している為、それほど気にならないが、体重を掛けられるとどうしてもその体の重みや柔らかさ、優しい匂いが湊の頭を支配しそうになった。
湊はそれをどうにか首を振って耐えた。
ずっと自分の上に女性が座っている状況というのは思春期の少年には辛いものだった。
「ごめん、つい。重かった?」
ナミハナは湊の頭の中のことに気がついていないようにそう聞いてきた。
「うん、平気平気……」
「そう、じゃあいいか」
そういってナミハナは容赦なく体重を掛けてきた。
やっぱりナミハナは頭の中の状況を分かっててやっているのではないか、と湊は思った。
「こちら、第一小隊。想定以上のロボットと無人機を引きつけることに成功した。作戦通り一時離脱する。大空洞までには合流できるようにするつもりだが、もし間に合わなかった際はナミハナ、頼むぞ。どうぞ」
ナミハナは無線機を素早く手に取った。
その時、浅く座ってくれたので湊は助かった気分だった。
「了解。イブキ、気を付けてね。どうぞ」
「ああ、そちらも。通信終了」
湊がナミハナの後ろからメインモニターを覗くと第二小隊の戦闘がいつの間にか終了していた。
「イブキもなかなかやるじゃんね」
「うん?」
「いやさ、もう大空洞まで半分切ってるから。そこまで粘ったのが普通にすごいなって」
「へぇ」
「何、へぇって」
「いや、普通に褒めることあるんだと思って」
湊がそういうと肘打ちが飛んできた。
「ちょ、ちょっと、こっちは一応怪我人なんですけど……?」
「怒らせるこというほうが悪い」
湊はごめんと謝った。
そして、ナミハナに聞こえないように小さく息を吐く。
湊は緊張していた。
そして、その緊張は大空洞が近づくほど強くなっていた。




