↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/40

32

「そもそも、湊をなぜ助けたかっていう話だけど」

 ナミハナは、地面に座ったまま手ごろなサイズの箱に寄りかかり話を始めた。

 湊はその隣に腰を下ろした。

「簡単な話、目の前で死にそうだったからでしょ」

「え、それだけ?」

 湊は正面に置かれた秋津大和のロゴがついた箱を何となく眺めていたが、驚いてナミハナに顔を向けた。

「それだけっていうけど結構な理由だと思う。雑魚雑魚湊だって目の前で人が倒れたら救急車呼ぶでしょ?」

「そりゃあ。でも俺は直前で秋津大和を、イブキを裏切ったし……」

 ナミハナは湊を見た。

 互いに目があった。

 湊は少し恥ずかしくなって視線を逸らした。

「今更何照れてんの、本当に雑魚雑魚だね」

「それはいいから」

「裏切ったとか関係ないよ。道徳の話。死にそうな人がいたら助ける。人間の基本でしょ」

 湊は膝を抱えた。

「……イブキはどう思ってるかな」

「そりゃなにか思うことはあるだろうけど、それで死にそうな人を見捨てていい理由がうまれるわけじゃないから」

 何か思うことがあるということは、イブキは本心では裏切り者を見捨てたかったのではないだろうか。湊はそう考えた。

 すると湊はナミハナに脇腹をつつかれた。

 痛みはあまり無かったが、湊が体を跳ねさせるとナミハナは笑った。

「な、何」

 咄嗟に湊はナミハナから少し距離を取った。

「深刻に考えすぎ。あ、ごめん痛かった?」

「いや別に。……でも深刻に考えるくらい重大なことをあの場でしたつもりだし」

 ナミハナは小さくため息をついた。

「あたしはその場にいた訳じゃないから詳しいことは分かんないけど、それってしょうがないことだったんじゃないの?」

「え?」

 しょうがないこと、裏切ったことが。

 いい切るナミハナを見て、思った以上にさっぱりとした性格をしているのかも知れないと湊は思った。

「さっきいったじゃん、人間の基本。死にそうな人がいたら助ける。結局、イブキも湊も本質的には同じことを選択した。命を助けるっていう選択。アンドロイドに命があるかどうかは置いといてね」

 ナミハナは近くに置いてあったタオルを床に敷いてその場で横になった。

「大丈夫だよ、湊の裏切りで全てが終わった訳じゃない。何だったらこれから始まる。元々、不定……ポビヂーチェリを破壊する予定だったんだから、何も変わっちゃいない。裏切ったことが気になるなら次頑張ればいい」

「うん」

 ナミハナに励まされてしまった。

 自分が情けなくなった湊は頭を掻いた。

「それで俺が気絶した後、どうやってあの場所から離脱したかだけど」

「そりゃあもう大変だった」

 ナミハナはその時を思い出したのか声色に疲れがあった。

「イブキから連絡があって、ポビヂーチェリがピャートゥイを連れ去ったとか、湊が撃たれて気絶してるとか色々いわれて頭こんがらがっている時に、無人機がわらわらと出てきたんだから」

 ナミハナは腕を伸ばして湊の足をつつきはじめた。

 作戦会議の時もそうだったが、ナミハナはただ話しているだけだとつまらないと思っているのかもしれなかった。

「それで?」

「うん、ちょうどあたしが二号機のコックピット周りの応急処置をしていた時だったから、そのままあたしが二号機で戦うことになってね」

 湊は、ナミハナがコックピット周りの応急処置ができるほどBGに対する専門の知識を持っていたことに驚いた。

 その様子を見ていたナミハナは、眉を顰めた。

「ちょっと、失礼じゃない。あたしだって秋津大和の社員なんですけど。隊長やってるのだってイブキの次に知識があるからなんですけど?」

 湊はナミハナを見る。

 どこからどう見ても今時の若い女性だ。

 しかし、若い女性にBGの専門知識があるイメージはない。

 不思議な感覚だった。

「いや、ごめん。ナミハナくらいの女性がBGの専門知識を持っているのがなんだか不思議で……」

 ナミハナは唇を尖らせた。

「BGが好きだから専門知識を持ってるし、秋津大和に就職したんです~」

 ナミハナはそれで、と話を戻した。

「あたしがトラックに積まれてた色々な武装で、次々と現れる無人機をなぎ倒していたら、第一小隊が帰ってきて離脱するっていうもんだからさ。そのままこの総合スーパーまであたしが二号機を操縦してたんだ。パイロットの子は別にいるのにね」

 そっか、と湊は相槌を打った。

「でも、それじゃあ大変だったんじゃ?」

 というのもBGというものは基本的にAIによって個人向けのチューニングが施される為、突然違う人が乗っても思い通りに動かせないことが多い。

「ああ、八咫烏は試験機だからね。変なチューニングしないようにしてあるから。BGを操作できる人なら大体は操作できるよ」

 湊の足をつつきながらナミハナはそういった。

「離脱は本当に大変だったけど言葉を尽くしてもきっと伝わらないから、話はここまで。ちょっと寝かせて……」

 ナミハナは小さく欠伸をしてそのまま目をつぶった。

「分かった。話してくれてありがとう」

 湊は立ち上がって、眠るナミハナから離れた。

 やはり、イブキに直接話が聞きたくなった湊は、イブキを探すことにした。

 携帯ランプを一つ拝借し、簡易キャンプから離れると、湊は総合スーパーの通路の先に階段を発見した。

 どうやら湊が今いる簡易キャンプがある階は二階のようだった。

 湊は一階に降りてみた。

 まったく人気がなかった。

 外に出る為の出入り口を探して、そのまま外に出ると、見張りをしている秋津大和の隊員がいた。

「すみません、イブキさんを探しているんですけど」

「ああ、隊長ならたぶん屋上だよ。怪我は大丈夫かい?」

「ええ、平気です。ありがとうございます」

 イブキの場所を教えつつ怪我を気遣ってくれた隊員にお礼をいって、湊は総合スーパーの中に戻った。

 そして、屋上へ向かった。

 階段を上りきると目の前に扉が現れた。

 その扉を開けて湊は屋上に出た。

 そこにはイブキと一人の隊員がいて、なにか話をしていた。

 邪魔をしたら悪いかと思ったが、今の機会を逃したら話すタイミングがなくなりそうな予感がしたので、湊はイブキに話しかけることにした。

「あの……」

 湊がイブキに声を掛けるとイブキはそこにいた隊員に先に中に戻るように伝えた。

「湊君か、どうした。明日は早いから休息をとっておいたほうがいいぞ」

「ええ、そうですね……でもその前に聞きたいことがあって」

「なぜ助けたか?」

 湊が驚く様子を見てイブキは口角を上げた。

「ナミハナの奴は、あれでいてお節介なんだ」

 そういいながらイブキは無線機を指さした。

「確かに湊君に裏切られた、というかピャートゥイを優先されたときは焦ったさ。戦争がまた始まっちまうってな。でもそうはならなかった。状況は何も変わらなかった。残り二日でポビヂーチェリを何とかする。前と変わらずただそれだけだった。それなのに湊君を見捨てようなどとは思わんさ。あ、状況は少し悪くなっているか、ポビヂーチェリの武装は解除されている訳だしな……」

 イブキは体の前で腕を組んだ。

「その、すみません」

 湊が頭を下げて謝るとイブキは首を横に振った。

「いいさ、好きな人が死にそうになってたら誰だって手段を選んではいられないからな……」

 好きな人……ピャートゥイはアンドロイドだったがナミハナのいった人間の基本を満たしているな、と湊は思った。

 ピャートゥイは、湊が最初に気絶したとき、助けてくれたのだから。

 そして、これ以降ピャートゥイがアンドロイドだとか人間だとか考えるのを止めようと湊は思った。

 イブキのいう通り好きな人だということに変わりはないのだから、湊はシンプルに考えることにした。

「そうだ、こいつを返しとく。すっかり忘れていた」

 そういってイブキはSエミールを取り出した。

 それを見て湊はポケットをまさぐった。

 そして今、Sエミールを持っていなかったことに気がついた。

「ありがとうございます」

「どうも」

 イブキからSエミールを受け取った湊はポケットにそれをしまった。


 騒がしい音で目を覚ますと、秋津大和の皆がせわしなく作戦の準備をしているところだった。

 湊が体を起こすと腹部の痛みはほとんど無くなっていた。しかし、硬い床で寝たせいで全身が少し痛かった。

「あ、湊さん。起きましたか」

 そう声を掛けてきたのは第二小隊の保田だった。

「隊長、いえ。ナミハナが起きたらすぐに外の八咫烏一号機の前に来るように、といっていました」

 湊は保田の言葉に頷くと軽く背伸びをした。

 撃たれた腹部に痛みが走り、背伸びの途中で蹲ったが忙しそうに作戦準備に戻っていた保田には見られずに済んだ。

 やはりまだ万全ではないな、と湊は思った。

 その後、湊が八咫烏一号機を探しに外に出ると青色を薄く伸ばしたような晴れ空が広がっていた。

 周りを見渡すと二機ならんで、上半身を上げたまま地面に片ひざをついていた八咫烏が見えたので湊はそちらに歩いた。

「雑魚雑魚湊、こっち」

 湊が声の方を向くと並んだ八咫烏の内、手前の一機の開いた胸部からナミハナが身を乗り出していた。

「梯子でコックピットまで上ってきて」

「うん」

 湊は八咫烏の胸部に引掛けられた梯子を上った。

 すると八咫烏のコックピットが見えた。

「ようこそ~。これが秋津大和の最新試験機、八咫烏のコックピットで~す。わ~お、強そ~う」

 不思議なテンションのナミハナは一旦置いておいて、湊は気になったことを聞くことにした。

「これ、二人乗れる?」

 八咫烏のコックピット内はどう見ても一人用で複座が置けるようなスペースは無かった。

「そうそう、だからちょっと試してみたかったんだよね。座席に座って?」

 湊は身を乗り出していたナミハナの横をすり抜けて、いわれた通りにコックピットの座席に座った。

 すると、ナミハナが湊の上に座ってきた。

「おお、すごいフィット感……」

 ナミハナは感心していたが湊はそれどころじゃなかった。

「ちょ、ちょっと。まさかこれで行くのかい……?」

「重くないでしょ?」

「そんなに重くはないけどさ」

 湊の感情を無視して、ナミハナは無線機に手を伸ばした。

「こちらナミハナ、ちょっと一号機動かすから、周りにいる人は気を付けて」

 するとナミハナは、体を固定するベルトを座席から引っ張り出して湊ごと体をベルトで固定した。

「意外といけそう。ちょっと足閉じてて、そこに足を置かれるとペダルが踏めない。手も邪魔、あたしのこと抱きしめといて」

 渋々、湊はナミハナの体に手を回した。

 湊は精一杯の無心を心がけた。

「動かすから、何かあったらいって」

 湊が返事をする前にナミハナは八咫烏を動かし始めた。

 湊はBGに乗るのは初めてだったため、BGの動きで体が揺られることに少し感動したが、すぐに体にあたる柔らかい感触や髪のいい匂いに思考を持っていかれそうになった。

「どう、大丈夫そ?」

「ちょっとお腹が圧迫されて痛いかも」

 本当にそうだったが、邪な気持ちを誤魔化すという意味も込めて湊は話した。

「我慢できないくらい?」

「いや、これくらいなら平気」

 そういってから平気といわなければ、こんな恥ずかしいことしなくて済んだのではないかと湊は思ったがもう遅かった。

「じゃあ、ポビヂーチェリに接近するまではこれでいこう。胸部を狙えるタイミングと位置に来たらさっきみたいにあたしが身を乗り出すから、隙間からポビヂーチェリを狙って」

「わかった」

 それから湊はナミハナの指示で実際にコックピットから八咫烏の手に移り、開いたポビヂーチェリの胸部に飛び移る練習をした。

「こちらイブキ、作戦開始十分前。皆、準備を済ませておけ」

 ナミハナの持っていた無線機からそう聞こえてきた。

「いよいよか……」

 湊が八咫烏の座席の背もたれに寄りかかると外を覗いていたナミハナが振り向いた。

「緊張してるの。雑魚雑魚」

「最初から気になっていたんだけど、それなんなのさ」

「煽ると気持ちいし、相手の反応が面白いからいってる。最近じゃ相手にされなくなってきたけど」

 湊の質問にナミハナはそういって肩をすくめた。

「あたし、第二小隊のメンバーの装備チェックしてくる。雑魚雑魚湊はここで緊張しながら待っててね」

「はいはい……」

 湊はナミハナがコックピットから出ていくのを見送る。

 そして、一人になるとポケットからSエミールを取り出した。

 もし、ピャートゥイをポビヂーチェリから引き剥がすことに失敗したら。ピャートゥイが本当に自分のことを嫌っていたら。銃を見ているとそんな嫌なことばかりが頭に浮かんできた。

 湊はSエミールに弾が装填されているか確認した。七発全弾装填済みであった。

 湊はため息をついてSエミールをポケットにしまった。

 そして、逆のポケットからプリミリーチェリを取り出した。

 今、重要な銃はこっちだ。

 すべてはこの銃を当てなければ始まらない。

 弾は一発だけ。

 本当の意味での一発勝負。

 プリミリーチェリはその重さ以上に重く感じた。

「やるしかない……必ずピャートゥイを助ける!」

 湊は自分を勇気づける為にそう呟いた。

 それから少ししてナミハナが帰ってくると、すぐに無線機に連絡が入った。

「各員、報告しろ」

「第一小隊準備完了、どうぞ」

「第二小隊準備完了、どうぞ」

「八咫烏一号機ナミハナ、湊、共に準備完了、どうぞ」

「八咫烏二号機準備完了、どうぞ」

「了解、では現時刻を持って最終作戦を開始する!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。