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「ボランティアかぁ。ポート氏、前それで失敗してなかった?」
十回目の友達作り作戦を決行した日の夜二十時頃、湊はインターネット上の友達であるニベたんと自室のパソコンを使って通話をしていた。
今は八幡に紹介してもらったボランティア活動の話をしているが、先ほどまで湊は十回目の友達作り作戦の失敗をニベたんに散々いじられていたのだった。
「うん。だからボランティアは大人向けのものだと思ってたんだよね。けどこのチラシによると今回は高校生向けのボランティア活動らしいから、まぁ大丈夫だと思う」
湊は机の上に置いてある八幡に貰ったチラシを見ながらそういった。
湊は、以前一度だけ自主的にボランティア活動に参加したことがあった。もちろん友達作りのために。家に届いた数々のチラシの中に紛れていた町内のゴミ清掃ボランティア募集の紙を見て、湊はボランティアに参加した。しかし、いざ集合場所に行くと近所に住む老人しかおらず湊は落胆しながらボランティア活動に勤しんだ。
老人の集まりの中に一人だけ若者がいるという事で湊は老人たちに囲まれて「若いのに偉い」だとか「将来有望」だとかいわれてちやほやされ、様々なお爺さんお婆さんと仲良くなったのだが、湊が求めているものは同世代の友達だったのであまり嬉しくはなかった。
そんな苦い思い出のある前回とは違い、今回参加予定のボランティア活動は高校生が対象なので同世代の人間がいることが確定していて湊は安心していた。
「まぁ、お爺さんとお婆さんに囲まれるのは今回も一緒だろうけどね……」
というのも、今回湊が参加しようとしているボランティア活動は、福祉施設にて高齢者の疑似体験や高齢者との交流といった福祉体験であった。
「まったく~、ポート氏は拙者だけで満足すればいいんでござるよ~」
通話越しにくねくねしながらいっていることが伝わってくるような変なしゃべり方をするニベたんの声を聞いて湊は頭を掻いた。
「確かにニベたんは良い友達だとは思うけどね、俺はリアルの友達が欲しいの」
「え~。しょうがないなぁ。オフ会する?」
「前にそういいながら住んでいるところが遠くて無理だっていったのはどこの誰でしたっけね」
「てへ、そうでした。……でも前から気になっていたけどなんでネットの友達だけじゃダメなの?」
ニベたんの指摘に湊は答えに詰まった。
何故ダメなのかという事を言葉にすることは今までほとんど無かったため、湊は自分の中で整理する時間が必要だった。そのため、湊は少し考え込んだ。
ニベたんは湊が話し出すのを無言で待ってくれていた。
「あー、多分まとまった。なんかさ。ネットの友達って究極な話、AIと話してるのとあんまりかわらないじゃん。だって相手が実在しているかなんて確認しようがないし。画面の向こうの存在だし。偽物って感じがするんだよ。それじゃあなんか寂しいんだよ。だから現実の、隣にいてくれるような本物の友達が欲しいなぁって」
そこまでいってから湊はニベたんに嫌な思いをさせたのではないかと思い後悔した。
「およよ、ポート氏は拙者の事をAIと同じだと思っているのか。悲しいぞ」
「まぁ、さして変わらないとは思っているかな……いや、ごめん。一応大事なネットの友達だとは思っているよ」
ニベたんが明るい口調で返答してくるものだから、湊はつい追い打ちをかけるようなことを言ってしまい、急いでフォローする言葉を後ろに付け足した。
「一応なのね……。拙者の実在証明に自撮り写真送ろうか?」
「いやいらない。今はAIのせいで無から美少女の写真を生成できる時代だからね。よほどの信頼性がないとインターネット上でもらう写真に何かを証明するような価値はないよ」
「ポート氏は、AIを偽物だと思っているんだ」
急に少し真面目な口調でニベたんはそういった。
「うん。あれは……偽物だ」
湊は真面目な口調につられるように真面目に答えた。
「でも、会話型AIには感情があるように見えるでござるよ」
「そうプログラムされているだけだよ……」
少しの間、湊とニベたんの間に沈黙の時間が流れた。
「あ、そういえば。中学校とかの友達はどうしたんでござるか?」
「あー、なんとなくずっと友達でいると思っていたんだけどさ。気づいたらいつの間にか皆疎遠になってて、連絡しても素っ気なくてね。もう友達だとは思われて無さそうなんだ……」
湊は頬杖をついた。
「ふーん。ま、頑張りなよ。ボランティア活動。拙者が応援してやるぞ」
「なんで上から目線なんだよ。でもまぁ、ありがとう」
「惨敗報告まっておるぞ!」
「うるせえ。絶対友達作ってやるから楽しみにしとけい」
そういって先ほどの沈黙が嘘かのように二人は笑いあった。
そこからは、いつも通り最近やったゲームの話やら、よくも知らないのに世界情勢の話やら、他愛のない話をして盛り上がった。
次の日、湊は受付予定時間より少し早めにチラシに書いてあった集合場所に行った。
集合場所の正式名称は、竜ケ崎市民活動センター。周りの建物より一回り大きく背の高い建物で、白い壁に青色で名前が大きく貼り付けられていたので場所はすぐに分かった。中に入ると長椅子の置かれた広いロビーがあり、ロビーから続く廊下の先には一般の市民団体などに提供されている会議室やコピー室があった。
ロビー内の壁や廊下には大きな掲示板が掛けてあり、一つの隙間も作らないように様々な社会貢献活動のポスターが重なるように張られていた。
前回参加したボランティアは現地集合だったので、湊はこういった施設に入るのは初めてであった。物珍し気に施設内を見渡していると、ボランティア受付と書かれた紙が貼られたテーブルの後ろに立つスーツ姿の男性スタッフが湊に声を掛けてきた。どうやら、今回湊が参加するボランティアの受付スタッフらしかった。
まだ集合時間になっていないが早めに受付を済ませてもいいと言ってくれたので、受付スタッフのご厚意に甘えて、湊は早めにボランティアの参加受付を済ませた。
その後、受付スタッフに集合時間まで近くで待っているように言われたため、湊はロビー内に置かれた長椅子に座りスマートフォンを触りながら集合時間を待った。
どうやら参加者の中では湊が一番乗りだったようでロビー内は受付スタッフや雑用係であろうスタッフしかおらず、なかなかに静かであった。
それからニ十分ほど待って集合時間が近づくとロビー内に高校生くらいの見た目の私服の青年たちが十人ほど集まった。
そして、集合時間になるとスタッフがボランティア参加者に、近くの会議室に集まるように指示を出した。
ボランティア参加者全員が入るには少し狭い会議室に参加者が集まりきると、スタッフの指示により五人のグループと六人のグループに分かれることになった。
その時発覚したのだが、どうやら今回参加した湊以外の十人のメンバーは五人組の仲良しグループ二組らしく、ほぼ最初からグループ分けがされていた状態だった。問題はそのどちらに湊が入るかであった。湊は二つのグループの押し付け合いの末、スタッフの指示でAとBに分けられたグループのうちのAグループに入れてもらった。
この時点で湊は嫌な予感を感じていた。
それでも、バスで福祉施設へ移動する際に隣に座った青年に湊は声をかけた。
「あの、同じグループなんでよろしく」
「うす……」
にこやかに笑みを浮かべた湊を心底嫌そうな顔で見つめて返事をした青年は、手元のスマートフォンに視線を落とした。
周りの席からは、湊に話かけられた青年を憐れむ視線と罰ゲームだと評して喜んでいる視線を感じた。
そして福祉施設にて、高齢者の疑似体験中では同じグループの青年たちは楽しそうに輪を組んで話していて、湊の入る隙は全く無かった。
「はぁ……」
ボランティアも後半になり福祉施設の広場にて高齢者とのコミュニケーション中、もっと詳しくいうと青堀という名前のお爺さんと会話している時。気づくと湊はため息をついていた。
一応ボランティア活動中は誰にも相手にされていなくてもニコニコと笑顔を崩さないでいたのだが、気が緩んでいたようだった。
「なんじゃ、湊。悩み事か。儂とお前の仲じゃろう。話してみい」
そういって電動車いすに乗った青堀は、会ってから一時間もたっていない目の前の椅子に座った湊の肩を強く叩いた。
どうしてここまで年の離れた青堀と湊が仲良くなれたかというと、共通の話題があったからだった。
二人は人型二足重機BGに対して知識と興味があったのだ。
それが分かってからは、仲良くなるのにさほどの時間はいらなかった。
人型二足重機BGとは、約七十年前に開発され今も新型が発売されている人型で二足歩行のAI搭載重機のことで、工事の現場などはもちろんのこと、先の大戦でも大活躍した重機だ。それはまさに人型ロボット好きのロマンであった。
「いやさぁ、青堀さん。友達ってどうやって作るのかなって」
そういいながら湊は、他の参加者をチラッと見た。
楽しそうにグループで固まって話をしている姿は、とても眩しく見えた。
「なんじゃ、儂と仲良くなった時みたいにすればよかろうよ」
不思議なものを見る目で青堀は湊を見た。
「それがさ、同世代にはダメなんだよ。上手くいかないんだ」
青堀の視線を受けて、湊がついつい愚痴をこぼすと青堀は優しく笑った。
「お前は若いんだ、焦るこたぁない。じっくり仲良くなりたい相手を見定めればよかろう。……でも時に度胸は必要じゃぞ。本当に仲良くなりたい相手には何があっても食らいつくんじゃ。儂がババアを捕まえた時のようにの。ガハハ」
「青堀さん……。分かった。ありがとう」
それからは、もう十年来の友人かのように湊と青堀はお互いの近況や好きなBGについて話し合った。
そう話しているうちにボランティア終了の時間がやってきた。
帰り支度の時間に湊は青堀とまた会う約束をした。その後、湊を含むボランティア参加者は竜ケ崎市民活動センターに戻り、活動を報告し家路についた。
もちろん最後まで湊に同世代の友達は出来なかった。
しかし、その代わりに大事な言葉を青堀に貰った気がすると湊は思うのだった。




