28
目が覚めると、どこかの廃墟の天井が見えた。
小さなランプが力強く周りを照らしている。
なんだか懐かしい感覚だった。
湊はピャートゥイに初めて助けられた時もこうして目を覚ましたことを思い出した。
あの時と同じように、まず手を動かして体を触る。腹部を触った時、思い出したかのように鈍い痛みが体を襲った。
足も触ってみる。
足は何ともなかった。
湊は上半身を起こそうとするも、腹部の痛みで起きることが出来なかった。
呻きながら体を横にして、腹部に目線を移した。
服が邪魔で腹部がどうなっているか分からなかったので服をずらす。
「これ……」
綺麗な包帯が銃を撃たれたところに巻かれていた。
イブキ達が巻いてくれたのだろうか。
湊はイブキ達を裏切る形でピャートゥイをポビヂーチェリに渡した。
それなのに助けてくれたのだろうか。
分からなかった。
周りに人の気配は無く、誰かにそれについて聞くことが出来なかったからだ。
湊は体を起こさず、あまり腹部を動かさないようにして周りを見渡す。
廃墟は、何かしらの物資が入っているであろう箱が並んでいた。
箱には秋津大和のマークが付いている。
他の場所に視線を移すと、服屋だったものやおもちゃ屋だったであろうものが見えた。
ここはどうやら、総合スーパーの跡に構えられた秋津大和の簡易キャンプのようだ。
痛みを逃すかのように息を吐いて、湊は目をつぶった。
今はいつなのか、あれからどれくらいたったのかそれすらも分からない。
ふと喉が渇いていることに気づき水が飲みたくなった湊は、自分のリュックを探した。
少し離れた箱の上にリュックは置いてあった。
湊は痛みに耐えながら体を起こして立ち上がると箱の前まで歩き、リュックを拾った。
振り返って自分が寝ていた場所を見ると綺麗なタオルが敷かれていたので、湊はそこにもう一度戻り、座り込んだ。
一つ一つの動作で腹部に痛みが走り辛かった。
リュックを開けてペットボトルを取り出し、水を飲む。
飲んだ後に水のパッケージを何となくみてみると、廃駅のコンビニでピャートゥイに貰った長期保存水であった。
長期保存水を貰った時のことを思い出して、湊はリュックを漁った。あの時貰っていた物がもう一つある、缶詰のクラッカーだ。
クラッカーを一つ口に入れると少し湿気っていた。
それが時間の経過を表しているようで嫌だった。
「あの時……」
湊は思い出す。
廃駅のコンビニでピャートゥイを見ながらクラッカーを食べていた時を。
あの時はただ楽しかった。
ピャートゥイと一緒にいられるだけで嬉しかった。
ピャートゥイも銃の手入れをしながら笑っていた筈だ。
ピャートゥイは楽しそうに愛銃のフョードルを紹介してくれた。
そういえば、誘導尋問のように失言をさせられた気もする。
その後、ピャートゥイに銃の手入れの仕方も教えてもらった。
銃に溶剤を塗った後に静かな時間が流れたのを覚えている。
ピャートゥイはあの静かな時間をどう思っていたのだろうか。
楽しかったり嬉しかったりしたのだろうか。
だが、ピャートゥイはポビヂーチェリによるとアンドロイドらしい。
なら、もしあの時になにかしら感情を抱いていたとしてそれは本物の感情なのか。
プログラミングされた偽物の感情ではないのか。
それなら湊を嫌いだといった、ポビヂーチェリに乗ったピャートゥイの言葉も偽物か。
分からない。
ピャートゥイがアンドロイドだと知るまで彼女を本物だと思っていた。
いや、偽物だと疑うことが無かった。
湊は手に持った缶詰を地面に置いた。
誰もいない簡易キャンプに軽い音が響いた。
「本物だとして……」
ピャートゥイがあの静かな時間に感情を抱き、その抱いた感情が仮に本物だとしたら。
自分を嫌いだといったピャートゥイの言葉も本物になってしまうのだろうか。
何を信じればいいのか分からない。
湊は思考を巡らせる。
痛みに耐えながら湊は再び横になり天井を見上げた。
廃駅のコンビニの中と同じく天井は黒ずんでいた。




