26
激しい戦闘が続く中、一行は何かのゲート跡を通り過ぎ、山道から開けた道に出た。
「牧場の跡か……。八、本当に不定はここにいるのか?」
自動小銃で八に迫るロボットを的確に無力化しながらイブキは叫んだ。
「ええ、この敷地内を進んだ先にいます」
その時、無線から声が聞こえてきた。
「こちら八咫烏一号機、正面に無人機が大量にいます。その数、目視出来るだけでも二十機以上!」
湊が八の車内から正面を見ると、無人機がまるで壁のように並んで立っていた。
イブキは上部ハッチから車内に戻ってきて、無線機を手に取った。
「一号機、正面の三機を無力化しろ。一気に突破するぞ!」
イブキの指示に従って、八咫烏一号機は壁のように並ぶ無人機の中の正面の三機をヒートナイフで素早く無力化した。
八咫烏一号機の操縦者の腕は素晴らしいものであった。
なんども無人機と近接戦闘を繰り広げているが、無人機の全ての攻撃を受け流し、的確にヒートナイフを急所に突き立てていた。
まさに、エースパイロットであった。
そして、八咫烏二号機の動きもまた熟練の動きであった。
八咫烏一号機がヒートナイフを突き立てている間に、ハンドカノンで無防備な八咫烏一号機に迫る無人機を無駄弾を撃つことなく、一発または二発で確実に仕留めていた。
そのおかげで大量の無人機の並ぶ壁に穴が開いた。
そこに飛び込むように八はスピードを上げた。
その時、後方から激しい音が聞こえてきた。
湊は八の後部ドアについた窓から後方を確認した。
後方では追走していた大型トラックが横倒しになっており、十機以上の無人機に囲まれていた。そして八咫烏二号機と第二小隊の装甲車は大型トラックを守るように戦っている。
「こちら、八咫烏二号機。イブキ隊長、試作ガトリング砲の使用許可を!」
「仕方ない、試作ガトリング砲の使用を許可する。二号機と第二小隊はそのまま退路の確保を頼む。我々第一小隊と一号機は不定を止めに行く。死ぬなよ。以上」
スピードを上げた八咫烏一号機と八、第一小隊の装甲車は無人機に囲まれた第二小隊たちを置いて牧場跡を進んでいく。
そうして、すぐに第二小隊たちは見えなくなった。
「今はナミハナ達を信じるしかない……」
イブキのその呟きは、湊の耳まで届いた。
その時一瞬、外が暗くなった。
「お二方、掴まってください!」
何事かと湊が思った瞬間、凄まじい衝撃で湊は体のあちこちを打ちつけた。
湊は自分が吹っ飛ばされただけだと思っていたが、すぐに八が横転していたことに気がついた。後部ドアを開けて外に這い出ると、八咫烏一号機が地面に仰向けに倒れていた。
どうやら八は八咫烏一号機が倒れる衝撃に巻き込まれたようだ。
八咫烏一号機の前には見たことのない、高さ十六メートルほどの重装甲の無人機がいた。
八咫烏一号機が立ち上がろうとすると、その無人機は八咫烏一号機に馬乗りになり地面に押さえつけた。
今、八咫烏一号機を失うのはまずいと思った湊は何か八咫烏一号機を助ける手はないか周りを見渡した。
周囲には八から投げ出されたイブキが倒れているのと、第一小隊の装甲車も横転していたのが見えた。
八咫烏一号機を助けるいい手が何も見つからなかった湊は、Sエミールを手に無謀にも無人機に突撃しようとした。
「頭部センサーを破壊すれば助けられるか?」
その時だった。
耳をつんざく音と共に八咫烏一号機を押さえつけていた無人機の頭部センサーが何者かによって撃ち抜かれた。
弾が飛んできた方向を確認するとバイクの駆動する音が響いてきた。
そのままバイクが走ってくるのが見え、バイクは湊の前で止まった。
「湊、無謀なことはやめなさい。ここは私に任せて」
「ピャートゥイ!」
バイクに乗っていたのはピャートゥイであった。
バイクから素早く降りたピャートゥイはしゃがんでKSV八十を構えた。
それを見て湊は咄嗟に耳を塞いだ。
KSV八十の凄まじい発射音が辺りに響く。
八咫烏一号機を押さえつけていた無人機はKSV八十の弾丸を食らい、前後不覚に陥ったのか一瞬体を浮かした。
それを見た八咫烏一号機はすぐに無人機を押しのけて立ち上がり、無人機の胸にヒートナイフを突き立てた。
無人機はそれにより無力化され、膝をつき止まった。
「なんとかなったようね」
ピャートゥイはKSV八十を担ぎながら無表情で無力化された無人機を見ていた。
無人機を無力化した八咫烏一号機は横転していた八や第一小隊の装甲車を起こした。
「そうだ、イブキ!」
湊は地面に倒れていたイブキの元に走った。
仰向けで倒れて目をつぶっていたイブキを湊は揺すった。
「大丈夫ですか!」
「うぅん……一体何が……ここは……」
「八が横転して投げ出されたんです」
湊がそう説明すると朦朧とした意識が戻ってきたのかイブキは素早く上半身を起こしてから周囲を見て立ち上がった。
「第一小隊無事か!」
そうイブキが少し離れたところに停まっていた第一小隊の装甲車に声を掛けると、問題ありません、作戦続行可能です、と声が返ってきた。
イブキは一瞬口元が緩んでいたがすぐに表情を戻した。
「湊君も平気そうだな……。ん、君は」
イブキは湊の後ろに目をやった。
湊は、その視線を追いかけるように振り向いた。
そこにはピャートゥイが無表情で立っていた。
「どちらが誘ったの?」
「えっと、何が?」
湊は何のことを聞かれているか分からずに聞き返した。
「この無謀な行為、どちらが誘ったのかって聞いているの」
表情を変えず、声色も変えずに話すピャートゥイは底知れぬ怖さがあった。
その時、八から声が聞こえてきた。
「後方から無人機接近、話は移動しながらを推奨します」
イブキは湊に目配せすると、八に向かって走っていき、開いた後部ドアから八に乗り込んだ。
「ピャートゥイ、説明するから一緒に行こう」
「……そうね」
ピャートゥイは頷いて八の方へ歩き出した。
湊はピャートゥイの横に並んで歩いた。
「あ、バイクどうする?」
「いらないわ、どうせもうすぐ乗り捨てる予定だったから」
「そっか」
話している最中、ピャートゥイは一度も湊を見なかった。
湊はまるで最初に会った頃に戻ったかのような気分だった。
湊達は再び、八咫烏一号機を先頭に牧場跡を先に進んだ。
ピャートゥイはいつも座っていた座席をイブキに取られていたので、出口近くの座席に座っていた。
ピャートゥイが話し出そうとすると、イブキは掌を向けて少し待ってくれ、といった。
そして無線機を取り出し、送信ボタンを押し込んだ。
「こちらイブキ。第一小隊から順に被害報告。どうぞ」
イブキが送信ボタンを話すとすぐに返事がきた。
「こちら第一小隊、負傷者ゼロ。被害は装甲車に傷がついた程度。以上。どうぞ」
静寂の時間が流れた。
イブキは落ち着かないように左手の親指と人差し指をこすり合わせていた。
「……こちらナミハナ、第二小隊、こちらを囲んでいた無人機を全機無力化し全員生きてる。二号機のおかげだけど二号機は中破、現在総員で応急処置中。次、無人機が来たらちょっとやばやばかも……以上。どうぞ」
「現状了解、通信終了」
ナミハナの報告が聞こえてきたことでイブキは安心したのか大きく息を吐いて、背もたれに寄りかかった。
「八、第二小隊の周辺にロボットや無人機がいるか分かるか?」
「はい、第二小隊周辺に無人機は少なくとも二機以上いると思われます」
「そうか……今はナミハナ達、第二小隊がどうにかするのを信じるだけだな……」
イブキが頷くのを見たピャートゥイは、そろそろいいか、と尋ねた。
「ああ、すまない。どちらがこの作戦に誘ったか、という話だったな」
イブキは体の前で腕を組んだ。




