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 湊は、秋津大和と共にポビヂーチェリのいる場所へ向かっていた。

 八の座席に座りながら湊は窓の外を覗いた。

 丁度これから山道に入る所であった。

 車内に視線を戻した湊は、その息苦しい空気に思わずため息が漏れた。

 重装備といえるほどの装備で身を固め、顔すら見えないイブキは、ただ黙って姿勢よく八の座席に座り揺られていた。

 雑談などをするようなタイプには見えないうえ、話しかけたら怒られそうな雰囲気があったので、湊はしょうがなくポケットから取り出したSエミールを手元で撫でて時間を潰していた。

「その銃」

 意外にもイブキの方から話しかけてきたので湊は驚いてSエミールを落としそうになった。

「……何ですか?」

「いや、俺に突きつけた銃はそれかなって思ってな」

 イブキの顔はこちらを向いていたが目を覆うゴーグルのせいで視線は分からなかった。だが、なんとなくSエミールを見ているのだろうということだけは伝わってきた。

「そうですね」

「あれから、撃てるようになったのか?」

「ええ。人に向かって撃ったことはないですけど」

 イブキは腕を組んだ。

「人に向けて銃を撃つ機会なんてない方がいいさ。それより、銃を撃てるなら戦力としてカウントして良さそうだな」

「俺を戦力に?」

 イブキは頷いた。

「今は一人でも多くの戦力が必要だ。不定に会うまでどれだけの戦闘が起こるか分からないからな。戦える人間は多い方がいい。銃を撃てるなら少なくとも自分の身は守れるということだろう。なら、戦力に数えるさ」

「そうですか……」

 足手まといといわれた自分が戦力にカウントされるなんて大丈夫だろうかと湊は不安を感じた。

「ところで」

 イブキはそう次の話を始めた。イブキは意外とお喋りが好きなのかも知れなかった。

「その銃、Sエミールだろ?」

「知っているんですか」

「ああ。ノーヴィ製三十八口径、七連発リボルバー。千葉県でドンパチ始めた奴らがサイドアームとして持っていた物だ」

 そういうイブキの口調はどこか得意げであった。

「詳しいんですね」

「ああ、マニアってほどではないが銃が好きでね。で、そのSエミールは拾ったのか?」

 フィフスウェル内には戦争時代に使われていた実銃が落ちていることが多々ある。しかし、湊の持つSエミールは違った。

「私の座席下に保管していた物を湊さんにあげたのです」

 湊が説明する前に八がそういった。

「ほう、八が保管していた物か……」

 イブキは八のフロントガラスを見つめた。

「そういえばこの装甲車は、後ろから外が見えていいな」

 湊は首を傾げた。

「普通は違うんですか?」

「ああ、普通は分厚い箱みたいになっているから窓なんてついていない。チョバムガラスか、高いもん使ってらっしゃる」

「チョバムガラス…?」

 湊が復唱すると、イブキは頷いた。

「装甲車の装甲とほぼ同じ硬さを持ったガラスだ。すごい高価なもので、開発されたのはいいもののコストが高すぎて今はあまり使われていない。後部ドアにも使われているのか、時代だな……」

 イブキはしみじみとしていた。

「話は変わるが、湊君が不定を追いかける目的はなんだ?」

 湊は答えるかどうか悩んで頭を掻いた。

「写真を撮ろうと思って」

「写真、何故?」

「俺、フィフスウェル内の情報を集める情報屋みたいな仕事をしてますから……」

「はん、なるほど。不定の写真は高く売れるかもしれないと思った訳か」

 そうではなくて、純粋な好奇心だったのだが、別に否定するほどのことではなかったので湊は曖昧に頷いた。

「じゃあ、ここにいない君の相棒は?」

「不定を完全に停止させることだっていってました」

「ふむ、彼女は我々とほぼ同じ目的だったのか。ということはもしかして今、彼女は?」

 そういってイブキは背もたれに寄りかかった。

「……ピャートゥイは先に不定の所に向かいました」

 イブキはふうんといった。

「俺、彼女に足手まといだっていわれたんです。それに何も言い返せずにただ見送った。いくら俺が足手まといだからって、危険な場所に一人で行かせるなんて最低ですよね」

 いつの間にか湊は考えていたことが口に出ていた。

 イブキのお喋り好きが移ったのかもしれなかった。

「最低だな」

 イブキの言葉を聞いて湊は俯いた。

「湊君は、俺にそういって欲しいのか?」

「いえ、別に……」

 イブキは軽くため息をついた。

「あのな、起きてしまった事を悩んでいてもしょうがない。その時は最終的に彼女なら大丈夫だとどこかで思ったから送り出したんだろう。……ちょうど今から同じ場所に行くんだ。いいタイミングで助けてやって足手まといだっていったことを後悔させてやればいいさ」

 湊はSエミールを強く握った。

「もし手遅れだったら……」

「その時は八が気付くはずだ。高性能な集音センサーを持っているんだからな。死ぬときの声くらい簡単に拾えるだろう。それをいってこないうちはまだ彼女は無事だということだ。そうだろう、八」

 八はええといって同意した。

「お二方、これよりポビヂーチェリを囲んでいるであろう無人機達のセンサー探知範囲内に入ります」

「了解した」

 八の言葉にイブキは頷いた。

 すると、イブキは無線機を手に取り送信ボタンを押し込んだ。

「各員、戦闘準備。ここからはいつ戦闘になってもおかしくはない。気を引き締めろ。以上」

 イブキが無線機でそう小隊員たちに伝えた時、無線機から声が聞こえてきた。

「こちら八咫烏一号機。無人機発見、前方に二機!」

 八がその場に停車し、イブキは上部ハッチから身を乗り出した。

 湊はフロントガラスから八の正面を覗いた。

 丁度、山の斜面に寝そべっていた無人機が二機起き上がるところが見えた。

「集音センサーに引っかからないように、停止して隠れていた?」

 八が珍しく疑問の声を上げていた。

「一号機、ヒートナイフで奴が起き上がる前に無力化しろ。二号機は後方からハンドカノンで援護」

 イブキの指示通りに八咫烏一号機は起き上がろうとする無人機に向かって走り、ヒートナイフと呼ばれる短剣の形をした近接武器を胴体に差し込み無力化した。

 その横で起き上がったもう一機の無人機は雷が轟くような音が響いた後、頭部と胴体に風穴を開けて倒れた。

「今の戦闘で、山向こうにいると思われるロボットや無人機が一斉にこちらに向かって動き出しました」

「了解」

 そして、イブキは八から聞いたことを無線機で共有した。

 その後、無線機からナミハナの声が聞こえてきた。

「こちらナミハナ、雑魚雑魚イブキに提案です。長引くほどこちらが不利になるんなら一点突破、即離脱でいくしかないと思いまーす。どうぞ」

「ああ、同感だ。皆、これから我々は一気に敵陣に突っ込む。進むのに邪魔な敵だけを的確に排除し、不定の懐に飛び込み奴を無力化させるぞ。一号機は後に不定を相手にすることを想定し、なるべくハンドカノンを温存しろ、その代わり二号機はハンドカノンで出来る限り一号機を援護、不定と接敵した際は試作BG用ガトリング砲をトラックから取り出し撃て。装甲車に乗る各員は基本的には四足歩行のロボットを狙え。ロボットを八咫烏に近づかせるな。では一号機、道路上に転がった無人機をどけ次第、道なりに走れ。我々も後ろに続く。以上!」

 イブキが無線機から手を離すのと同時に、八の前にいた八咫烏一号機は無力化し、転がっていた無人機を道路の横に投げ飛ばし全速力で走り出した。

 八や後方にいる装甲車、大型トラック、八咫烏二号機はそれに続いた。


 銃弾が飛び交う音と巨大な足が地面を踏みしめる音がひっきりなしに聞こえる。

「湊、マガジン切れだ。弾を装填する。一瞬交代してくれ」

 上部ハッチから身を乗り出して自動小銃を撃っていたイブキがそういって車内に戻ってきた。

「分かりました」

「走るロボットはこちらに引きつけて撃てば当たる。焦るなよ」

「はい」

 湊は急いで上部ハッチから身を乗り出した。

 目の前には凄まじい光景が広がっていた。

 山肌を滑るかのように下って来る四足歩行のロボットの大群に装甲車の重機関銃が火を噴きそれを無力化、撃ち漏らしたロボットは各小隊員が自動小銃で無力化する。

 前方を走る八咫烏一号機は、体当たりやヒートナイフを駆使し立ちふさがる無人機をなぎ倒していた。

 重装備をした無人機が現れればすぐに八咫烏二号機がハンドカノンでそれを無力化した。

 まさに、銃弾飛び交う戦場のど真ん中にいるという光景だった。

 湊は山の斜面から八に迫るロボットがいることに気がついた。

 湊はSエミールを構える。

 イブキの助言通りに、それをすぐには撃たずに照準を合わせたままじっと我慢した。

 そして、飛びかかってきたタイミングで湊はSエミールの弾を三発撃ち込んだ。

 空中で撃ち落とされたロボットはそのまま後ろを走る装甲車に踏み潰された。

 湊がそれを見送っていると、足を叩かれる感覚がして車内に視線を移した。

 イブキがこちらを見ていた。

「よくやった。交代してくれ」

 湊は頷き、イブキと場所を変わり八の車内に戻る。

 そして、次に備えて湊はSエミールをリロードした。

 戦闘は激しさを増している。しかし、湊達は一切速度を落とさず一直線に不定、ポビヂーチェリの居る場所へと向かっていた。


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