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ピャートゥイは八の上に固定されていたままだったKSV八十を車内に戻しリロードしていた。
その後、KSV八十の変えのマガジンに対無人機用の弾を詰めていた。
湊はというと、走る八の車内で揺られ、リロードし終えたSエミールをそわそわしながら指で撫でていることしか出来なかった。
視線をピャートゥイに移しても話す言葉が思い浮かばず、湊はまた手元に視線を落とした。
湊の脳裏に思い浮かぶのはやはり先ほどのこと、ピャートゥイに足手まといだといわれたことだ。
あの時、湊は俯くことしか出来なかった。今、思い返してもとても悔しいと思った。何も言い返せなかったことではなく、ピャートゥイの足手まといになっている自分自身の弱さが。
湊はもっと強くなってピャートゥイの役に立ちたかった、と思った。
最初から何でもできてピャートゥイを助けられるような人間だったならどれほど良かっただろうか。
湊は弱くても力になりたい、そういった過去の自分をその考えの甘さと一緒に殴り倒してやりたくなった。
「湊、その無線機。あなたが持っていなさい」
湊が手元を見て俯いていると、ピャートゥイはそういって湊の近くに置かれている無線機に指を指した。
「そうだね…」
無線機を手に取りリュックに入れようとしたその時、湊はあることを思いついた。
そもそも、何故今まで思いつかなかったのか不思議なことだった。
「そういえば、秋津大和に報告しなくていいのかい。ポビヂーチェリ……向こうのいう不定の場所を特定したって」
湊が顔を上げるとピャートゥイは再びマガジンに弾を込める作業に戻っていた。ピャートゥイの手にあったのはKSV八十の大きなマガジンではなかった。恐らくフョードルのマガジンだろう。
「協力を申し出たのは向こうで、実際協力してもらうことになったけど、私たちが秋津大和に協力するとは一言もいっていないわ。それに向こうの目的はポビヂーチェリの装備やデータを回収する事でしょ。そんな戦争の匂いがするようなきな臭い目的に付き合っていられないわ」
そうピャートゥイがいった後、湊が口を開く前に八が声を発した。
「ですが、お嬢。ポビヂーチェリに辿り着く前に大量の無人機や四足歩行のロボットを相手にすることになると思います。それを私たちだけで相手にするのは無謀ではないでしょうか」
ピャートゥイは手を止めた。
「私だけなら……私だけなら出来る」
「え?」
見るとピャートゥイは何かを決心したかのような顔をしていた。
「八、湊。ポビヂーチェリに近づくのは私だけで十分だわ」
全く理解できなかった。
言葉の意味ではなく、何故自分だけならできると断言できるのかが。
それが、人の助けなんて必要のない強い人間の考え方なのだろうか。
自分が弱いからその考えに至ることが出来ないのか、そう湊は頭を悩ませた。
「俺や八は……邪魔かい」
自然と湊の口からそんな言葉が漏れていた。
ピャートゥイは俯いて黙っていた。
少しして。
「ええ、そうね」
といった。
「八は、車体が大きくてそこまで小回りが利かないから無人機に囲まれても対応できないだろうし、湊はそもそも戦力にならない……だから私一人で十分……」
俯いたピャートゥイはどんな表情でそれをいっているのだろうか。
自分は怒るべきなのか、何かを言い返すべきなのか。湊は何も分からずに俯くピャートゥイを見ていることしかできなかった。
「ではお嬢、私たちはここまでですね」
八はそういって停車した。
湊が窓の外を見るとそこは山道であった。
「ここから先はポビヂーチェリの集めた無人機やロボットたちのセンサーの範囲内に入ると思われます。ご武運を」
八の態度はすごく冷たく感じた。八がAIだからだろうか。
しかし、冷たいのは何も言い返せず止めようともしない今の自分も同じだ。湊はそう思った。
ピャートゥイはKSV八十のケースを片手で持ち、座席から立ち上がった。
「途中まで一緒に行こうか……なんて……」
「必要ないわ……」
今の湊にピャートゥイを引き止める力はなかった。
それでも、湊は思っていることを伝えようと思った。
「まるで、一人で死にに行くようなものじゃないか。秋津大和も呼んでみんなで協力すれば……」
「必要ないといったわ」
湊はピャートゥイの腕を掴んだ。
「一人でいったら死ぬかもしれない。俺は、ピャートゥイに死んで欲しくないよ……」
「今の私の目的は死ぬことじゃない、ポビヂーチェリを停止させること。湊はただ待っているだけでいい」
ピャートゥイは湊の顔を見ずにそういった。
「どうしてそんなに急ぐのさ」
「湊、あなたが思っている以上に時間が無いの……手をはなして」
ピャートゥイは最後まで湊の手を振りほどくことは無かった。だが、湊はピャートゥイの言葉通りに手を離した。
「それじゃあ、二人とも。安全な場所で全てが終わるのを待っていることね。それが今、私に協力する唯一の方法だから」
ピャートゥイは後部ドアを開けて外に降りていった。
湊はピャートゥイに手を伸ばそうとしたがやめた。
一度掴んだ手を離したのだ。
手を伸ばす資格なんてないと思った。
湊は前に訪れた総合スーパー跡に向けて走る八の車内の座席に仰向けに寝転んでいた。
「前にも似たようなことがありましたね」
突然、八はそう話した。
「そうですね。あの時は俺がピャートゥイともっと一緒にいたいって、うじうじ悩んでいた時だった……」
湊は目をつぶってその時のことを思い返した。
悩んでいる時に八に諭された湊は、再びピャートゥイと話をして共に行動することにした。
まだその時は、湊はピャートゥイと友達になりたいとしか思っていなかった。
いや、友達になりたいとも思っていなかったかもしれなかった。その時はただ話がしたかったのだ。
それから一緒に住みたいだとか、恋人がどうとか、湊がそういう気持ちに気づくのはもっと後だった。
「俺、弱いままだ……」
呟きは八が道路を走る音に飲み込まれて消えた。
「湊さん。秋津大和に連絡しましょう」
「え?」
「私は特に何もありませんが、湊さんと秋津大和にはここにいてポビヂーチェリと会う必要のある目的があるんでしょう?」
「それは……」
「目的を果たして家に帰る。今はそれくらいシンプルに考えればいいと思います。思い悩んで何もできなくなるよりよっぽどましだと、私は思います」
湊は体を起こして座席に座った。
「……そうですね。ピャートゥイがどうこうの前に、俺も元々ポビヂーチェリの写真を撮ろうと思っていたんだ。秋津大和も巻き込んで目的を果たしてやろう。それでたまたまピャートゥイと合流して、手助けをして、きっと怒るだろうな」
そう呟きながらリュックから無線機を取り出して湊は誰も喋っていないことを確認した後、送信ボタンを押し込んだ。
「こちら湊、秋津大和の皆さん聞こえますか。どうぞ……」
送信ボタンから指をはなす。
無言の時間が続いた。
何か返事ができないタイミングだったのだろうかと湊が思いはじめた頃、ようやく返事がきた。
「こちら、第一小隊オキツイブキ。湊君、前は世話になったね。君の相棒にいいパンチをありがとうと伝えてくれ。それで、何の用か、なるべく簡潔に頼む。どうぞ」
湊は深呼吸して送信ボタンを押し込んだ。
「ポ……、不定の場所を特定しました。大量の無人機やロボットも同じ場所にいると思われます。詳しい話をしたいので合流したいです。どうぞ」
送信ボタンをはなして返事を待つ。
今度はすぐに返事が来た。
「了解。そちらの現在の座標は分かるかな。分からない場合は目立つ物でもいいから報告してくれ。どうぞ」
すると、八の窓に様々な情報が表示された。
「湊さん、今向かっている総合スーパー跡の座標を窓に表示しますのでそこを提示してください」
「うん。八、ありがとう」
湊は無線機の送信ボタンを押し込む。
「今から座標を伝えます。そこで合流したいです。座標は北緯三五・四五〇二七、東経一三九・九九七六六です。どうぞ」
湊は八の窓に表示された座標を読み上げた。




