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「横をすり抜けたり出来ないんですか?」
「無理ですね。私、体が大きいので」
湊が焦りながら、八に質問してもそう返ってきて余計に焦りが増した。
背後には無人機が迫りつつあった。
こういう時だからだろうか、八の冷静な声が嫌に癪に障った。
その時、ピャートゥイが後部ドアを開けて外に出ようとした。
「ピャートゥイ?」
「私が止める……」
「でも、体は大丈夫なのかい?」
湊が近寄るとピャートゥイは掌を向けて制止した。
「最悪だけど、やるしかない……」
ピャートゥイは頭を押さえて蹲った。
「私、は……」
ピャートゥイは聞き取れないほど小さな声で何かを呟いた。
「ピャートゥイ、例のフラッシュグレネードだったらやり方を教えてくれれば俺が代わりにやるよ」
例のフラッシュグレネードとは、大空洞内などでピャートゥイが使った無人機を止めるものだ。現物を見たことは無いが激しい電撃の音がする。
ピャートゥイは首を横に振った。
「無理よ……あなたじゃ」
「教えてくれれば俺だって」
「できないのよ」
「でも」
ピャートゥイは食い下がる湊を睨みつけた。
「あなたじゃできないっていってるでしょ。あなたは何もできないの。ハッキリいって足手まといなの。さっきだって私が助けなければあなたは死んでいたかもしれない。何もできないならせめて邪魔にならないように黙って隠れてなさい!」
見たことのないほどの剣幕であった。
湊は何も言い返せなかった。
自分が特に何の役に立っていないことなんて湊自身が一番よく分かっていたからだ。
俯くことしか出来なかった。
「いいすぎたわ……。でも本当に八の中で目をつぶって待ってて。私なら大丈夫だから……」
ピャートゥイは八から降りていった。
湊は顔を上げて見送ることも出来なかった。
無力な自分に涙が浮かんできた。
そうして、湊が八の座席に座りSエミールをリロードしていると、だんだんと無人機の足音が響いてきた。
そして、音が近くまで来た時、激しい電撃の音がした。
ピャートゥイの仕業だろう。
「湊さん、お嬢が……」
「え……?」
湊がSエミールを手元でいじっていると八の要領を得ない言葉が聞こえてきた。
湊は後部ドアを開けて外を見た。
ピャートゥイは、膝をついて煙を出す無人機の前で倒れていた。
「ピャートゥイ!」
湊は駆け出してピャートゥイに近寄った。
「湊、大丈夫……」
「大丈夫なもんか。今、八の所まで運ぶから」
湊はピャートゥイを背負った。
その時、ふと違和感があった。
それがなにかは分からないが、小さな違和感。自分に伝わってくる感触に何かが足りない。
しかし、湊は首を振った。
そんなことを考えている場合ではないと。
そして、八まで戻ると八の座席にピャートゥイを寝かせた。
「お嬢、大丈夫ですか?」
「ええ、今だけよ……」
「ピャートゥイ、もしかして何か持病があるのかい……?」
何がおかしいのかピャートゥイは笑った。
「私が持病……ある訳ないわ」
「そう、なんだ。ならよかった……」
ピャートゥイの現状を見て何もよいことなんて無かったが自分を安心させるかのように湊はそう呟いた。
「移動します。湊さん、戦闘の準備はしておいてください」
「分かりました」
湊が上部ハッチ近くに座ると八は比較的安全な場所に向けて出発した。
奇妙な音を聞いた。
まるで砂嵐の中の音のような。
「湊さん、秋津大和が無線機で重要なことを話しているようです」
八にそういわれ、ずっと耳に届いていた音が無線機からの音だということに湊は気がついた。
湊は運転席に置かれていた秋津大和の無線機を拾い、音量を調整するつまみを回して無線機の音量を上げた。
「……こちら、第一小隊イブキ。やはり妨害電波の弱体化により無人機の探知や運動の性能が格段に上がっている様子。ナミハナ、現状を報告しろ。どうぞ」
聞いたことのある声だった。
湊は記憶を探り思い出す。それは初めて大空洞に入った時、指揮を執っていた男の声だった。
「……こちらナミハナ。第二小隊は現在、大空洞から東側の市街地跡を調査中。何度か無人機と四足歩行のロボットに襲われました。ねぇ、こっちの戦力やっぱり雑魚雑魚で足りてないと思うんだけど……八咫烏を一機こちらにまわして欲しいなぁ……どうぞ」
「……分かった八咫烏を一機そちらに渡そう。合流地点は大空洞。どうぞ」
「大空洞はダメ。四足歩行のロボットがわらわらしているから……もっと安全そうな場所を指定する。座標は……」
湊はため息をついた。
無人機の動きが前より良くなっているのは勘違いではなかったようだ。
フィフスウェルを覆う妨害電波の弱体化。それにより無人機は色々な影響を受けているようだ。主に良い影響を。こちらとしては悪い話だが。
「……このペースで妨害電波の弱体化が進むとタイムリミットは二日後だ。それまでに不定の場所を特定、機能を停止させなければ不定は本来の力を取り戻し、日本は再度戦争状態に突入するだろう。それを肝に銘じて行動しろ。以上、通信おわり」
衝撃的な言葉が最後に耳に入ってきた。
タイムリミットはあと二日、それをすぎると戦争がまた始まる。
湊は自分の耳を疑った。
「私たちも行動しないとね……」
仰向けの体勢で寝たままピャートゥイがそういったことで、湊は今の話が現実だったということを飲み込めた。
湊は音のしなくなった無線機を近くに置いた。
「お嬢、湊さん。朗報が二つ」
「なんですか」
「仮拠点に最適な場所に着きました」
八が停車するのと同時に湊は窓の外を覗いた。
するとそこは、総合スーパーの跡地のようで建物は綺麗に残っていた。
「この総合スーパーの周りでは無人機の音はしません。出入口も四方に複数あるので仮に無人機がやってきても逃げやすいでしょう。また瓦礫の山が周囲を覆っている為、無人機のカメラに探知されにくくなっているはずです。こちらからは探知出来て無人機は探知できない理想の場所といえます。無人機には私ほど正確な集音センサーはついていませんから」
なるほど、と湊は頷く。
「そして、もう一つの朗報ですが……ポビヂーチェリの場所を特定しました」
「なんですって?」
寝ていたピャートゥイはそういって飛び起きた。
「場所は恐らく森の中、ここから近いので特定できました」
「どのくらい」
「五十分もかからないかと」
「そんなに!」
ピャートゥイは先ほどの体調の悪そうな顔が嘘かのように驚いていた。
「今すぐ行きましょう!」
「待ってピャートゥイ、体は大丈夫なの?」
「ええ、問題ないわ。一時的なものだったみたい」
湊の心配の言葉に顔を背けながらピャートゥイはそういった。
「よかった……」
それは、少しだけいつもの調子に戻ったピャートゥイが嬉しくてつい漏れた言葉だった。
湊は座席に深く座った。
「お嬢、悪い知らせもあります」
「何」
「この場所が安全ということに繋がるのですが、ポビヂーチェリの周囲には数えきれないほどの無人機が集まっている可能性があります。それにあの四足歩行のロボットも」
ピャートゥイは顎に手を添えて頷いた。
「そっか、それはそうか……」
湊はなぜピャートゥイが納得したのか分からなかった。
「どうしてそれはそう、なの?」
「ポビヂーチェリには様々な機能が搭載されているんだけど、その中の一つに無人機を指揮する機能があるのよ。今までは妨害電波の影響でその機能は意味をなしてなかったけど、妨害電波が弱体化した今、ポビヂーチェリはその機能を使って無人機を集められるようになったのでしょうね」
「……無人機を集めて何をするつもりなんだろう」
ピャートゥイは肩をすくめた。
「さぁ、何にしてもポビヂーチェリを止めるだけだわ。八、今すぐ向かいましょう。一応座標も共有して」
「分かりました」
八は窓にポビヂーチェリの座標を表示しながら、せっかく来た総合スーパーの跡から出発した。
「湊……いや、なんでもない」
ピャートゥイは窓に表示された座標を確認しながらそういった。
「うん……」
湊は俯いた。ピャートゥイが何をいおうとしたのか分からなかった。ただ湊の脳内にはピャートゥイのあの剣幕が張り付いていた。




