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「俺さ、友達とか恋人とかができたらやりたかったことが沢山あるんだ。例えば……」
湊が寝転がって天井を見ながら話していると八のクラクションの音が聞こえてきた。
それに反応したピャートゥイはKSV八十の手入れを途中で止めて、軽く部品を拭いてから専用のケースにしまった。
「想像以上に早いわね。秋津大和がポビヂーチェリを発見したのかしら……」
八がポビヂーチェリの場所を特定した時、または秋津大和の無線でポビヂーチェリの場所を特定した旨の知らせが入った時に八はクラクションを鳴らすといっていた。
「いってみよう」
湊の言葉に頷いたピャートゥイはKSV八十の入ったケースを持ってコンビニを出た。
湊もそれに続いた。
そして、廃駅の階段を下りて、ロータリー跡に止まる八に二人は乗り込んだ。
「八、見つかったの?」
「いえ、そうではないのです」
「じゃあ一体……」
ピャートゥイは不思議そうにしながらKSV八十の入ったケースを座席の下にしまった。
「無人機がこちらに近づいてきています」
「無人機が。何機?」
「四機以上は確実に」
ピャートゥイは座席に座り足を組んだ。
「たまたまじゃなくて明確に近づいてきてる?」
「はい、真っすぐにこちらに近づいています」
ピャートゥイは顎に手を添えた。
「どうして……大きな音を出したこともないし探知されたまま逃げて来たこともない、そもそもここら辺に無人機はいなかったはずなのに……」
「そして、まだ問題があります」
「何」
「仮に逃げるとして、どの方向に逃げようにも必ず無人機に遭遇します」
ピャートゥイは首を傾げた。
「囲まれてるってこと?」
「はい」
難しい顔を浮かべて少し悩んだ後、ピャートゥイは息を吐いた。
「一番無人機のいない方から逃げましょう。遭遇した場合は私が何とかする。それでいいわね、湊」
「う、うん」
突然の話にまだ脳が追い付いていない湊は曖昧に頷いた。
「もしかしてここにはもう戻ってこれない?」
「そう、ね……」
ピャートゥイは八の窓から廃駅を覗いた。
無言で廃駅を見つめるピャートゥイ。その心はここにあらずといった感じであった。
コンビニ内に集めていた物が気になっているのだろうか。
「もし、コンビニの中の物が気になっているのなら、何個か持ってくればいいんじゃない?」
「いえ、いいわ……。もういいの」
どこか惜しむような顔をした後、ピャートゥイは座席から立ち上がった。
「すぐ使うことになるならしまう必要なかったわね……」
そしてKSV八十の入ったケースをまた座席から取り出すのだった。
「仮拠点を作るなら、なるべく安全なところがいいわね」
走る八の車内でピャートゥイはKSV八十のリロードをしながらそういった。
「安全なところって無人機がいない所?」
「ええ、そして逃げ道が複数ある所」
KSV八十を八の床に置いてピャートゥイはそういった。
「比較的安全な場所の目星はついているので、これからそこに移動します」
八はそういってからスピードを落とした。
「ですが、その前に無人機です。前方に二機。視界に入るまで約三十秒と予測」
「了解」
湊はイヤーマフを取り出して装着しようとした。
「おや、待ってください。無人機以外の足音が……これは人じゃない……四足歩行のような足音が近づいてます。それも大量に」
「大空洞内にいたロボット?」
「かもしれないわね」
ピャートゥイは頷いた。
「湊、あなたも戦う準備をしておいて」
「わかった」
湊は座席からSエミールを取り出してリロードをした。
そして上部ハッチから身を乗り出すピャートゥイを見送ってからイヤーマフを取り付けた。
今更ながらピャートゥイはイヤーマフを着けなくて平気なのか湊は気になった。
しかし、今はそんな話をしている場合ではなかった。
湊はフロントガラスを覗いた。
二機の無人機がこちらに向けて歩いてきていた。
「スピードを上げてぎりぎりで曲がって!」
薄っすらとピャートゥイの声が聞こえた。
そして、すぐに発射音。
弾丸は一機の無人機の頭部センサーを破壊し上半身を燃やした。
一機の無人機は膝をついたがもう一機の無人機はこちらを踏み潰そうと八を追いかけてきた。
踏み潰されるぎりぎりで八はドリフトし、道を曲がった。
湊は咄嗟に目をつぶりながら車内のベルトに捕まり、急なカーブに耐えた。
そして、目を開けて窓から周囲を確認すると、後方から無人機が走って追いかけてきていた。
ふとピャートゥイが目に入った。
上部ハッチから身を乗り出していた筈のピャートゥイは八の中に戻り頭を抱えていた。
湊はイヤーマフを外しピャートゥイに近づいた。
「ピャートゥイ、頭が痛むのかい」
「うう。違う、といいたいところだけどそうね……大丈夫すぐ治ると思うから……」
そういうピャートゥイの顔は真っ青に見えた。
「お嬢、無理をなさらず。無人機は少し引き離しましたのですぐに対処する必要はないでしょう。少し休んでいてください」
ピャートゥイは頭を抱えて座席に横たわった。
「その代わり湊さん。迎撃をお願いします」
「俺が?」
「ええ、無人機ではないものを。左右から来ます。およそ十秒後。急いで」
湊はSエミールの弾薬箱を上部ハッチの近くに持っていきすぐにリロードできるように備えて上部ハッチから身を乗り出した。
八の上にはKSV八十が固定されていた。
後方に目を向けると、依然として無人機がこちらを追いかけてきている。
八はかなりスピードを出して無人機に追い付かれないようにしている為、道を曲がる際に凄い遠心力が体を襲った。
それに耐えるように上部ハッチにしがみついていると、左右に八を猛追する影が現れた。
影は左右に二機ずつ、計四機。
大空洞内で見たロボットと同じ見た目だ。
ロボットが装甲車と同じ速度で走れるという事実に湊は驚いていた。
「湊さんお願いします」
「よし、やってみる」
湊はピャートゥイの教え通りにSエミールを構え、まずは八の左側のロボットに向けて丁寧に照準を合わせようとした。
「くっ、照準が……」
動いている八の上で走っているロボットに照準を合わせるのは一苦労なんてものではなかった。
これが出来る人間はそうそういないだろう。
それでも湊は必死に照準を合わせた。
「……っ」
息を止めて、Sエミールの引き金を引く。
一発目は走るロボットの上を通過した。
慌てず二発目を発射。
今度は地面に当たった。
止めていた息を吐いて深呼吸する。
その瞬間、八が大きく揺れた。
「湊さん、反対です!」
湊が振り向くと、八の右側を走っていたロボットが八に飛びついていた。
「クソ!」
至近距離に来たロボットにSエミールを四発撃ちこむ。
銃弾はすべてロボットの胴体にあたり、ようやく一機無力化したが、右側を走っていたもう一機も八に飛びついてきた。
湊はSエミールの引き金を連続で引いた。
しかし弾は一発しか出なかった。
そしてその一発の弾丸ではロボットの動きは止まらなかった。
「やばい!」
湊は八から乗り出した上半身をロボットに掴まれた。
「離せ!」
ロボットに抵抗している間に、次々に八から衝撃が伝わってきた。
背面にいた二機のロボットが八に飛びついたのだ。
「お嬢、湊さんが!」
湊は体が浮く感覚がして、自らがロボットに持ち上げられたことに気づいた。
咄嗟に上部ハッチに右足を引掛けてどうにか八から引き剥がされないように踏ん張った。
「湊……!」
その瞬間、上部ハッチから顔を出したピャートゥイがフョードルを湊を掴んでいるロボットに向かって二発撃った。
フョードルの弾を食らったロボットは無力化し湊をはなして八から落ちた。
持ち上げられていた湊の体は八の上部から滑り落ちそうになったが、足を上部ハッチに引掛けていたため、ぎりぎりで落ちずに済んだ。
そして、ピャートゥイも湊の足を掴んでいた。
四発の銃声。
ピャートゥイが残ったロボットを片付ける音だった。
そうしてすぐに湊はピャートゥイに引っ張られて八の中に戻った。
「……はあ。ありがとう、ピャートゥイ」
「ぐ。ええ……」
ピャートゥイは頭を抱えて苦しそうに呻いた。
「すみません湊さん、お嬢。これ以上逃げられません」
湊はその言葉で咄嗟に八の前方を確認した。
前方は道が大きく陥没していた。




