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「はぁ、ふぅ。ここって……」
長い廊下の終着点である鉄扉の向こう側には、建物のエントランスのような場所が広がっていた。
ガラス張りになっていたであろう正面の入り口らしきところからは陽の光が建物内に入り込んできており、外には倒れて動かなくなった無人機が三機見えた。
「大空洞に向かう時に無視した建物の中に出たのね」
注意深くフョードルを構えながらロボットがいないか確認したピャートゥイは、二人が出てきた鉄扉を閉めた。
「こうなった以上、ここには居られないわね。湊、八の所へ戻りましょう」
湊はそう話しかけられたタイミングでようやく息が整ってきた。
「……よし、分かった。もう少しなら走れる」
「その調子よ、あと少し頑張って。それと……」
「何」
「さっきは助けてくれてありがとう」
湊がピャートゥイを組み敷いたロボットを蹴り上げた時のことだろう。湊はそれを思い出して照れを隠すように右足を手で擦った。
「俺も役に立つようになったでしょ?」
「まったく、そう調子に乗らないの」
「はい……」
そういって二人は少し笑いあった。
その時、背後の鉄扉から何かが物凄い勢いでぶつかった音がした。
「行きましょう」
「うん」
二人は建物を出て八の停車している施設の入り口まで走った。
「お帰りなさい」
ピャートゥイが八の後部ドアを開けて、二人は八に乗り込む。
「八、今すぐここを離れて」
「分かりました。では一度廃駅に戻ります」
八は急速発進し施設跡から離れた。
「ロボットに襲われていたんですか」
走る八の車内でピャートゥイは八に現状を報告していた。
「私の知らないロボットだったわ。いえ、止まっている姿は見たことあったのだけれどそういう意味ではなくって」
「大丈夫です、理解しています」
「そう、ならよかった」
座席に座ったピャートゥイは足を組んで背もたれに寄りかかった。
「あのロボットたち、どうして急に動き出したんだろう」
「少なくとも、湊が大空洞内の照明をつけたことは関係ないと思うわ」
湊は思い当たる原因について話そうとしたが、ピャートゥイに先にいわれてしまった。
「なんで関係ないって思うんだい?」
「だって明かりがついていない廊下からもロボットがやってきたじゃない。……まぁ、これだけじゃ弱いのは分かるけど、でももっと別の何かでロボットたちは一斉に起動して、たまたまそれが湊が照明をつけたタイミングに被ったんだと思うのよ」
なるほどと呟きながら湊は頷いた。
「八、確認したいんだけど」
「なんですか」
「あなた、また調子が良くなっていたりしない?」
少し時間を置いてから八は返事をした。
「ええ、集音センサーの感度などがまるで全盛期のようになっていますね」
ピャートゥイは体の前で腕を組んだ。
「ねぇ、今の八なら……」
「お嬢、先にお話したいことが」
「……何」
「秋津大和の装甲車です」
おもむろにピャートゥイは立ち上がり、座席を開けてKSV八十を組み立て始めた。
「リベンジマッチね。もう後ろにいる?」
「いえ、遠くの別の道です」
ピャートゥイはため息をついてKSV八十を組み立てる手を止めた。
「なんだ。じゃあ、見つからないように一旦どこかに止まりましょう」
「お嬢、お話ししたいことはただ秋津大和の装甲車が走っているということだけではありません」
「じゃあ何」
「恐らく秋津大和の装甲車は無人機に襲われています。無人機の数は二機以上、無人機はマイクロミサイルを装備している可能性があります」
ピャートゥイはそう、と興味無さそうに呟いた。
「八、秋津大和の装甲車は逃げ切れそうなんですか?」
湊がそう聞くと少し間をおいて八は答える。
「音を聞いている限り、そう遠くないうちに踏み潰されるかと思われます。そうでなくともミサイルの餌食になるかと」
湊はピャートゥイを見た。
「メリットが無いわ」
いつの間にか湊を見ていたピャートゥイは、湊がいおうとしていることを先読みしてそういった。
それでも湊はピャートゥイをしっかりと見つめて考えを口にした。
「それでも助けに行こう。知ってしまった以上、見過ごせないよ」
「湊、優しすぎるわ。秋津大和は私たちに銃を向けてくる敵なのよ。助けてもその場で攻撃してくるかもしれない」
湊は首を横に振った。
「それでもだよ。もしこのまま俺達が見て見ぬふりをして向こうの人たちが死んでしまったら俺、絶対後悔する」
ピャートゥイは頭を片手で押さえてため息をついた。
「……頼み方が違う」
「え?」
「秋津大和を助ける時、湊は別に何も出来ないでしょ。なら私になんていうべきなの」
「お、お願いします?」
首を傾げながらそういう湊に対してピャートゥイは肩をすくめた。
「それだけじゃ弱い」
湊は、全力で頭を下げた。
「ピャートゥイ様、お願いします。秋津大和を助けてあげてください。後でなんでもいうこと聞きますから、なにとぞ。後生ですから!」
頭を下げたまま湊は思いつく言葉も全部いった。
「八」
「録音しました」
「え」
首を上げて固まった湊をよそに、ピャートゥイはKSV八十を再度組み立て始めた。
「まぁ、リベンジマッチとはいかなくなったけどやりましょうか……」
ピャートゥイがそういうのと同時に八はスピードを上げた。
そして、間もなくして八は道を曲がり秋津大和の装甲車の前に躍り出た。
その後、すぐに車内に激しい衝撃。
「な、なんだ!」
「無人機のマイクロミサイルです。直撃はしておらず、無傷ですのでご安心ください」
ピャートゥイは先ほどの衝撃が無かったかのように組み立て終わったKSV八十をリロードした。
「何機?」
「四機です。先頭の一機の肩にミサイルポッドが装備されております」
「了解。湊」
ピャートゥイは湊にイヤーマフを投げてよこした。
その時、秋津大和の装甲車から声が聞こえてきた。
「そこの雑魚雑魚不法侵入者。今すぐ助けなさーい!」
秋津大和の装甲車に乗っている人物が誰だか一瞬で分かった。
「ナミハナか……」
「やっぱり助けるのやめる?」
ピャートゥイはいたずらっぽく笑った。
ピャートゥイがKSV八十と共に上部ハッチから身を乗り出したのを確認すると、湊はイヤーマフを着けて後部ドアの窓から後方を確認した。
今回はピャートゥイから足を押さえておく必要はないといわれた為、湊は本当に見ていることしか出来なかった。分かってはいたが湊の心には少しの歯がゆさがあった。
秋津大和の装甲車は八に追従するように走っていた。
そして、その後ろには無人機が四機。道の瓦礫を蹴り飛ばして追いかけてきていた。
いつもより無人機はどこか動きが機敏に見えた。
秋津大和の装甲車に一番近い位置にいる無人機は肩にミサイルポッドを載せている。
次の瞬間、空気を切り裂く激しい炸裂音がイヤーマフを貫通して聞こえてきた。
ピャートゥイの一射目だ。
弾丸は無人機のミサイルポッドに当たり、ミサイルポッドが爆発した。
肩にミサイルポッドを載せた無人機はその爆発に巻き込まれ膝をついて止まった。
「ミヌスァジン!」
ピャートゥイの楽しそうな声が薄っすらと聞こえた。
その後すぐに女性の叫び声が聞こえてきた。
「助け方ってものがあるでしょ。馬鹿馬鹿!」
ナミハナはどんな状況でも相手を罵倒する癖があるのかも知れない。
そう考えているとピャートゥイのKSV八十から二発目が発射された。
ピャートゥイは秋津大和の装甲車に一番近い無人機から順番に対処していくようであった。
二発目の弾丸により頭部センサーを破壊された無人機は、それでも止まらずに秋津大和の装甲車を追いかけている。
そこからピャートゥイは三発、速射した。
三発すべてが、頭部センサーを破壊した無人機の頭部と胴体を繋ぐ首部分に当たり、その無人機は頭があらぬ方向に曲がり動きを止めた。
湊は背中に何かが当たる感触で振り向いた。背中に当たったのはピャートゥイの靴だ。
ピャートゥイはいつの間にか全身を車内に戻しており、首を横に振って湊にイヤーマフを外すようジェスチャーをした。
湊はイヤーマフを外した。
「湊、これじゃあ時間と弾を無駄にするだけだわ。赤いパッケージの弾薬箱から弾を取ってくれる?」
湊は座席を開いて弾薬箱を確認した。
すると、他の弾薬箱に隠されるようになっていた赤いパッケージの弾薬箱が出てきた。
「五発分ね」
ピャートゥイはマガジンを外しながら湊を見てそういった。
「分かった」
湊はすぐに弾薬箱から五発、弾を取り出した。
対物ライフルの弾というだけあって、それは重たかった。
「はい、五発」
「ちょっとそのまま持ってて」
そういってピャートゥイは湊の手に乗った弾をマガジンに一つ一つ詰め始めた。
「うん、ありがとう。またイヤーマフを着けといて」
「ふう、分かった」
湊は弾を持っているだけでも腕が疲れたのに対物ライフルを軽々と扱うピャートゥイが信じられなかった。
湊がイヤーマフを着けるのとほぼ同時にピャートゥイは再び上部ハッチから身を乗り出した。
轟音が響く。KSV八十の発射音はイヤーマフをしていても体の奥に響く感覚がした。
湊は再び後部ドアの窓から後方を確認する。
「おお……」
湊の口からは自然とそんな声が漏れていた。
秋津大和の装甲車を踏みつぶそうとしていた無人機の頭に当たったKSV八十の弾丸は、そのまま無人機の上半身を燃やし無力化していた。
「もっと早く助けなさいよ!」
若干涙声のそんな声が、秋津大和の装甲車から聞こえてきた。
その次の瞬間、再度KSV八十から弾丸が放たれる音。
そして、弾丸は秋津大和の装甲車を追いかけていた最後の無人機を無力化した。
湊は一安心してイヤーマフを外した。
「そこの雑魚雑魚不法侵入者。止まりなさーい!」
「っていっているけど?」
車内に戻ってきたピャートゥイは呆れ顔だったがどこかすっきりとした表情であった。
「お願いします、止まってください~」
なんだか秋津大和の装甲車から聴こえてくる声が情けなくなってきた。
「しょうがない、止まってあげようよ」
「はぁ、湊がそういうのなら。八」
「分かりました」
程なくして八はスピードを落として道路の脇に停車した。
秋津大和の装甲車も八の後ろに停車した。




