18
暗闇の中を進む湊とピャートゥイは、大空洞の壁際に上に続く階段を見つけた。
階段は大型のコンテナに上り口を隠されるかのようにそこにあった。
「前に来たときは気付かなかったわ」
湊とピャートゥイはコンテナと壁の間をすり抜けて階段の真下に向かった。
「かなり長そうだね……」
その階段は螺旋状になっており、湊が上の方を照らしても終わりが見えなかった。
「上ってみましょうか」
ピャートゥイの言葉に湊は頷き、階段の一段目に足を掛けた。
階段は長い間放置されていたにもかかわらずしっかりとしていて、足元が抜ける心配はなさそうだった。
手すりもあったが、そっちは錆まみれだったので湊はなるべく触らないようにした。
明かりで次の段を照らしながら階段を上る。
上っている間、二人は一言も喋らなかった。
ピャートゥイは分からないが、湊は喋る余裕が無かった。
階段の上下の暗闇が迫ってきているような感覚がしていたうえ、長い階段を上るのに疲れていたからだ。
いつの間にか、下に明かりを向けても微かにコンテナが反射する光が見えるだけになるほどの高さまで二人は上っていた。
湊がそろそろ上るのを諦めて降りることを提案しようとした時だった。
階段はその役目を果たし、湊達は大空洞内を見下ろせるようになっている足場まで辿り着いた。
足場はコンクリートのような素材で作られており、足場が面した壁にはどこかへ続く鉄扉があった。
「この扉、開くわ」
軽く鉄扉に触れて取っ手を動かしたピャートゥイはそういった。
「この足場を調べてからそっちも調べよう」
そういって、湊は足場を慎重に照らしながら歩き出した。
程なくしてピャートゥイも後ろについて来た。
足場はそこまで長くなく、端から端まですぐに歩き切れるほどだった。
そして、湊は足場の端の壁に気になるものを発見した。
「ピャートゥイ、ボタンがある」
「本当ね」
湊の目の前には上下に並んだ二つのボタンがあった。
「押してみていいかな」
「どうぞ」
湊は深呼吸してから上のボタンを押した。
すると電撃が走るような音が響いた後、一気に大空洞内は明るくなった。
「うわ、まぶし」
「すごい……ここはこうなっていたのね……」
突然の明かりに目が慣れてきた頃、湊はピャートゥイの隣に並んで足場から大空洞内を見下ろした。
大空洞内を照らすほどの明かりが天井や地面から出ていた。
「電気やライトはまだ生きていたのか……」
といっても、一部は故障しているようで大空洞の隅の方にはまだ暗闇が残っていた。
上から大空洞を眺めて、ここはBGや無人機が大量に入りそうなほどの広さがあるということを湊は改めて実感した。
ポビヂーチェリだって簡単に入れるだろう。
「う……ん?」
湊が大空洞の全貌に見惚れていると、ピャートゥイは片手で頭を押さえていた。
「頭が痛いのかい?」
「いえ、逆……というか」
「逆?」
ハッキリとしないピャートゥイの答えに湊は頭を掻いた。
「今朝話した調子がいいっていう話、覚えてる?」
「うん」
「あれがもっとよくなったという感じがするの」
「それは、いいこと……だよね。多分」
ピャートゥイは少し悩んだ後、頷いた。
「そうね、きっと」
ピャートゥイは息を吐いた。
「とりあえず次は壁の扉の先に……」
そうピャートゥイが鉄扉の方に移動しながら話始めた時、大空洞内が騒がしくなった。
無数の足音や駆動音がひしめき始めたのだ。
「なんだ?」
湊は大空洞内を見下ろした。
そして、その光景に息を吞んだ。
大空洞内に置かれた大型のコンテナの中から四足歩行のロボットが大量に出てきていたのだ。
「急に動き出した……?」
ピャートゥイはいつの間にか湊の横で下を覗き込んでいた。
四足歩行のロボットたちは大空洞内の地面をひしめき合った後、壁を上り始めた。
「壁を上ってきてる。逃げないとまずそうじゃない?」
湊はそういいながら足場の周りを確認した。上ってきた階段以外に行ける場所は、壁の鉄扉くらいだった。
「この扉の先が外に繋がっていることを祈りましょう」
ピャートゥイはそういってフョードルを一丁取り出し、扉の前に立った。
「湊もいつでも戦える準備をしておきなさい。あのロボット、きっと扉の奥からも来るわ」
ピャートゥイにいわれた通りに湊はSエミールを取り出した。
「なんで分かるんだい?」
「音がするの。大丈夫、そんなに多くは無いと思うから」
ピャートゥイは明かりをお願い、といってからゆっくりと扉を開けた。
扉の先には暗闇が広がっていたので湊が懐中電灯で照らすと、そこは長い廊下になっていた。
「来る……!」
ピャートゥイがそういった直後、懐中電灯の明かりに照らされた廊下の奥からコンテナから出てきた四足歩行のロボットと同じロボットが二機、二人の元に突っ込んできた。
「ヴィストリェル!」
そうピャートゥイが叫んだ後、ピャートゥイの銃、フョードルが火を噴いた。
合計四発。
二発ずつ胴体に銃弾を食らったロボットは二人の前にその勢いのまま転がった。
「フョードルでも最低二発必要ね……」
そういってピャートゥイはもう一丁のフョードルを取り出し、二丁のフョードルを手に廊下を歩き始めた。
「離れないで」
「う、うん」
湊は廊下の先を照らしながらピャートゥイの後ろについた。
少し進んでロボットと接敵、ピャートゥイが発砲し無力化、それを三回ほど繰り返した時、背後が騒がしくなってきたことで二人は振り向いた。
「壁を上ってきた奴らがもう後ろに!」
二人が入ってきた扉はロボットの大群がひしめくことでほぼ見えなくなっていた。
「時間が無いわね。湊、走るわよ」
ピャートゥイはフョードル二丁を素早くリロードした。
「わかった」
湊の返事を聞くとピャートゥイは走り出し、湊も遅れないように走った。
湊はほぼ全力で走っていたが、ピャートゥイはやはり前と同じように湊の走る速度に合わせてくれていた。
長い廊下の曲がり角に突き当たり、二人は走りながら角を曲がるとロボットが二機、角の影から飛びついてきた。
ピャートゥイは一機のロボットに飛びつかれそのまま地面に組み敷かれてしまった。
「アトヴァリ!」
そう叫びながらピャートゥイはロボットを払いのけようとしたがロボットの力が強いのか簡単には振り払えずにいた。
湊はというと、ピャートゥイより後ろにいたおかげでロボットの飛びつきを回避することに成功していた。
「ピャートゥイ!」
自分を狙ってきた一機のロボットにSエミールに装填された弾を四発撃ちこみ無力化し、湊はピャートゥイを組み敷いているロボットを右足で全力で蹴り上げた。
「いった!」
ピャートゥイの上のロボットは軽く宙を舞って地面に着地した。
ロボットはまるで壁を蹴り上げたかのような硬さと重さがあり湊は右足を抱えて飛び跳ねた。
「スパシーバ、湊!」
そういって立ち上がったピャートゥイはすぐさま自らを組み敷いていたロボットに銃弾を撃ち込み無力化した。
そして、ピャートゥイは背後をちらりと確認した。
「湊、すぐ後ろまでロボットたちが来てる。まだ走れそう?」
「うん、大丈夫……ふう、よし」
右足を軽く動かして大丈夫なことを確認した湊はそういってピャートゥイに頷いた。
そこから二人はノンストップで長い廊下を走り抜けた。
廊下の左右に部屋があり、そこからロボットが飛び出してくることがあったが、ピャートゥイが二丁のフョードルですぐさま無力化したおかげで二人がロボットの為に立ち止まることは無かった。
廊下が上りの傾斜になり、しばらくたったころ、長い廊下の終わりを示す鉄扉が目の前に現れた。
「はぁ、はぁ、開きそう?」
息も絶え絶えになりながら湊は鉄扉を確認するピャートゥイに声を掛けた。
「ええ、一気に開けるわ」
ピャートゥイはそういって体重を掛けて鉄扉を少し開けた後、思い切り鉄扉を蹴って全開にした。




