17
「では、どうします?」
「うーん。ある程度場所を絞り込めたから、これからはそこに張り込んだ方がいいと思うわ」
「大空洞とショッピングモール以外の所もやっぱり?」
「基本的にポビヂーチェリを見た場所の周りは無人機だらけよ」
一夜明けて湊達は、廃駅のロータリー跡に駐車した八の中で次の作戦を練っていた。
具体的にはポビヂーチェリをどうやって追いかけるかという話であった。
「張り込むのに安全なところは無いのか。もし張り込みに失敗して秋津大和に先を越されたら?」
「確かに目的の分からない奴らに先を越されたくはないけど、それはどう動いても同じことね。先を越される可能性はいつだってあるわ。今この瞬間にもね」
それはそうか、と湊は頷いた。
「そういえば、秋津大和も大空洞とショッピングモールに現れたよね」
「そうね」
「秋津大和もなにか有力な情報を持って動いているのかもしれない。だったら秋津大和を尾行すればいいんじゃないかな」
ピャートゥイは腕を組んで背もたれに寄りかかった。
「確かにそれをすれば先を越されるのを物理的に阻止できるかも知れない。でも少なくとも二部隊あるのよ。どっちを追いかければいいか分からない。そもそも八で尾行は難しいと思うわ」
「大きくて申し訳ございません」
「別に攻めてるわけじゃないわ。誰だって出来ること出来ないことがあるもの」
そのピャートゥイの言葉を最後に少しの間、沈黙が八の車内を包んだ。
その沈黙を破るように最初に口を開いたのもピャートゥイだった。
「やっぱり最善策は張り込みだと思うわ。湊はさっき張り込むのに安全な場所は無いといったけれど一つだけ今なら危険度が低い場所がある」
「それって?」
「大空洞よ。あそこは秋津大和がBGを持ち込んでいたでしょ。ということは周りの無人機を倒してくれている可能性が高いわ」
そういわれて湊は思い出した。
大空洞に入る前に秋津大和が無人機と戦闘していたところを見たことを。
湊はそれをピャートゥイに伝えた。
「やっぱり、じゃあ決まりね。八、もう一度大空洞へ行きましょう」
「分かりました。……話は変わるのですが」
神妙に八がそう話始め、ピャートゥイと湊は顔を合わせた。
「今日はなんだか調子がいい気がするんです」
湊は首を傾げた。
「AIにも調子がいい日とかあるんですか?」
「いえ、普通は無いのですが今日だけはそう感じるんです。センサーが冴えているような感覚といいますか」
ピャートゥイは八の言葉に頷いていた。
「実は私もなのよ。妙に体が軽いというか」
「ピャートゥイまで?」
ピャートゥイは手を軽く握った後、湊を見た。
「湊は?」
「別に普通かな……」
湊は軽く腕を回してみた。
変わったところは何もない。
強いていうならまだ少し眠いというくらいだろうか。
「変なことをいってすみません。移動します」
八はそういって廃駅のロータリー跡から発車した。
移動する八の車内から外を眺めていると、大空洞がある施設は湖に囲まれているということに気がついた。
湊は、フィフスウェルがまだ千葉県だった頃に思いを馳せてみた。
湖があるのならここら辺はちょっとした観光地になっていたのだろうか。
BSECC。房総宇宙エレベーター管制センターがあるのなら、そこの見学ツアーなんかもあったりしたかもしれない。
もしタイムスリップでも出来るのなら、当時のこの辺りを探索してみたいと湊はそう思った。
「着きましたよ」
「湊、行きましょ」
想像を膨らませていた湊は、八が停止した揺れとピャートゥイの言葉で現実に引き戻された。
ピャートゥイが八の後部ドアを開けて降りるのに続いて湊も八を降りた。
前と同じくポケットにはSエミールと懐中電灯を入れて。
顔を上げるとそこは施設跡の入り口であった。
前はピャートゥイを見送った入り口だ。
「湊?」
今、こうしてピャートゥイの横に並んで大空洞に向かえることに湊は喜びを覚えていた。
「ごめん、なんでもない。行こう」
上がる口角を何とか押し込めて湊はそういった。
不思議がるピャートゥイの背中を押すように湊は施設跡を先に進んだ。
倒壊寸前の建物の前には動かなくなった無人機が三機倒れていた。
一機はガトリング砲のような武装が付いていた。
「すごいな、秋津大和のBGは武装した無人機をハンドカノンで倒したのか……」
湊は大空洞を脱出した時の事を思い出す。
確か秋津大和のBGは、ほとんど無傷であったはずだ。
つまりダメージはゼロに抑えつつ、武装した無人機をハンドカノンで倒していたということらしい。
「感心するわ。日本のBGがそこまで強くなっていたなんて」
湊とピャートゥイは倒壊寸前の建物を無視し敷地の隅から裏手に回り込んだ。
すると、目の前に大空洞の入り口である大きな穴が現れる。
大きな穴は前と変わらず闇を湛えていた。
湊が懐中電灯を取り出して光で照らしても奥までは見えない。
湊は深呼吸をしてから一歩踏み出した。
「よし、行こう」
「ええ」
闇の中に足を踏み入れると嫌な汗が湊の背中を流れた。
大空洞へつながる穴を下る間、湊とピャートゥイは一言も発さなかった。
湊は足元を懐中電灯で照らしながらゆっくりと歩いた。
ピャートゥイは湊に足並みを合わせてくれていた。
前は明かりだけが頼りだったが、今はピャートゥイが居てくれることに湊は感謝した。
一人で闇の中を歩くのは苦痛以外のなにものでもないからだ。
やがて地面が平らになる場所に二人は辿りついた。
大空洞内だ。
湊は軽く大空洞内を照らすように懐中電灯を眼前の闇に向けた。
薄っすらと大型のコンテナが光を反射するだけで何か新しい物がある訳ではなかった。
「……いないわね」
突然のピャートゥイの声に少し驚いたのは秘密にしておきたかったが、湊のライトを持った手が震えたことでそれはバレたかも知れなかった。
「一応、奥の方まで確認しようか」
「そうね」
二人は再び歩き出した。
水の滴る音と二人の足音、それ以外に音は無かった。
注意深く明かりを様々な方向に向けても目新しいものはなく、ポビヂーチェリも見当たらない。
そして、そのまま大空洞の奥の壁まで辿り着いてしまった。
「ねえ」
「何」
「これからここで待つのかい?」
湊の疑問にピャートゥイは頷いた。
「そうね」
「それじゃあさ、大空洞内を詳しく探索してみない?」
「どうして」
ピャートゥイは首を傾げた。
「役に立つものがあるかもしれないし……待っているだけだと暇だし」
そういいながら湊は頭を掻いた。
「待っているだけだと暇っていう部分が本音ね」
「……うん、そう」
ピャートゥイはため息をついた後、優しく微笑んだ。
「分かったわ。私もここが元々何の施設だったか気になっていたし、探索してみましょう」
「うん」
湊は心の中でガッツポーズをした。
暗闇の中でじっとしているなんていくらピャートゥイが一緒に居ても耐えられないと思っていたからだ。
「それじゃあ、前にピャートゥイが囮になった方向を探索してみよう」
「分かったわ。あの時は私も周りを気にしている余裕は無かったしね」
二人は暗闇の中、壁に左手をついて歩き出した。
懐中電灯で暗闇を照らすと大型のコンテナが沢山転がっているのが見える。
そういえば、中身を確認してなかった、と湊は思った。
「動かない小さめの四足歩行ロボットがあるだけよ。前に確かめたことがあるの」
湊が大型のコンテナに目を向けていると後ろからピャートゥイがそういった。
「こんな暗闇の中で四足歩行ロボットなんて見たら叫ぶ自信しかないよ……」
湊がそういってため息をついた時、水が滴る音と二人の足音以外に別の足音のような音が聞こえた気がした。
「ねぇ」
「ええ、何か音がしたわね」
「もしかして」
湊が振り向くとピャートゥイは呆れた顔を浮かべていた。
「幽霊ではないわね」
そういってピャートゥイは湊の肩を軽く叩いた。
「探索を続けましょう。きっとたまたま何かが崩れただけよ」




