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銃声が住宅地の跡に響く。
周りには無人機がいないので音を気にする必要は無かった。
仮に近づいてくる無人機がいても八がすぐに教えてくれるだろうという安心感がある。
天気もいいのでまさに射撃訓練日和といったところだろうか。
少し前まで秋津大和に銃を撃たれたり、無人機を相手に走って逃げたりして体力が減ってなければ尚更よかったのに、と湊は思った。
「集中して」
湊の頭の中を覗いたかのようにピャートゥイはそういった。
湊は息を吐いた。
そして、そのまま息を止めると空き缶に照準を合わせ引き金を引く。
銃弾は見事に空き缶を貫くことは無く、横に外れた。
「もう少し肩の力を抜いて。リラックスよ」
そんなこといわれても普通の人間は銃を手にして引き金を引く瞬間にリラックスなんてできないと思ったが、湊はまた思考を読まれたら怒られると思い、急いで次の一発を撃った。
もちろん空き缶から弾は外れた。
そして、湊は今のでSエミールに装填された七発の弾をすべて撃ち切った。
「だめだ、緊張して手が震える」
何か言い訳をしないとやってられなかった。
手が震えるのは言い訳でもなんでもなく本当のことだったが。
「まぁ、大きく外れている訳でもなかったし慣れればすぐに当てられるようになるわ。お疲れ様」
ピャートゥイは慰めるかのようにそういって湊の背中を軽く叩いた。
その後すぐにもう一回やるか聞かれたが湊は疲れていたこともあり遠慮することにした。
「じゃあ、私の番ね」
ピャートゥイはそういうと足元に置いた空き缶を、湊が撃ち抜き損ねた空き缶の隣に投げて置いた。
相変わらずの凄いコントロールだと思い湊は感心した。
ピャートゥイはフョードルを体の前に構えた。
構え方は湊に教えた形ではなく、片足を半歩後ろに引く形だった。
「俺に教えたのと違うね」
「ええ、私はこっちの方が何となく狙いやすく感じるのよ。湊に教えたのはこっちより基本的な構えよ」
そう話した次の瞬間、素早く二発の銃声。
二つ並んだ空き缶はどちらも綺麗に撃ち抜かれたようであった。
「ま、止まっている的ならこんなものね」
ピャートゥイは満足げにフョードルを太もものホルスターにしまった。
「本当は動いている的で練習したいけど、無人機を狙っても練習にならないのよね」
ピャートゥイは困った様に笑った。
「今のを見ている限りじゃあ、練習する必要なさそうだけど」
湊が不思議に思ってそういうと、ピャートゥイは軽く息を吐いて空を見た。
空には青空が広がっていたが、今だけは太陽が雲の後ろに隠れていた。
「KSV八十を当てられなかったのが悔しいのよ」
言い方は軽かったが本気で悔しがっているのが分かった。
ピャートゥイが拳を握り締めていたからだ。
秋津大和の装甲車に弾を全て避けられたことがよほどプライドに傷をつけたらしかった。
「はぁ、まあ今はいいわ。帰りましょ」
そういってピャートゥイは八に乗り込んだ。
湊は大きく背伸びをして深呼吸した後、ピャートゥイに続いて八に乗った。
「お疲れ様です」
八はそういって出迎えてくれた。
いつの間にかすっかり拠点として利用している廃駅のコンビニまでの帰路の途中、八の車内で湊は気になっていたことを口にした。
「秋津大和の、ナミハナ。あの人、ポビヂーチェリを見て目標を確認とかなんとかいってなかった?」
窓の外を眺めていたピャートゥイはそのままの姿勢で頷いた。
「それに最初に遭遇した秋津大和の部隊。あれのリーダーらしき人物も大空洞内で目標がどうのこうのっていっていたわね」
湊は頭の後ろで手を組んだ。
「やっぱりそれってさ」
「ええ、秋津大和の狙いもポビヂーチェリである可能性が高いわ」
ピャートゥイも同じことを考えていたので湊はその線でもう少し深く考えてみることにした。
「でも、なんでただのBG開発企業がポビヂーチェリを追っているんだろう」
秋津大和が正式な手続きを踏んでフィフスウェルに入っているのなら国の指示で動いているのだろうか。
「国の指示ってことは無いと思うわ。もし日本がポビヂーチェリの存在に気づいていたとしたら企業に頼まずに自衛隊を使うでしょうから」
だとしたら考えられるのは、秋津大和が独自の判断で動いているということ。
政府の組織ではないどこからか入手したポビヂーチェリの情報を元に動いているのだろうか。
だが、どこでその情報を掴んだのか。それが湊は気になっていた。
それほど高頻度ではないものの湊だってフィフスウェルに忍び込んで内部の情報を集める情報屋的な立ち位置にいた。だが、ポビヂーチェリを知ったのは今回の侵入でのことだ。
しかし、今回湊がフィフスウェルに入るタイミングとほぼ同じタイミングで秋津大和が部隊を組んでフィフスウェルに入ったということは、湊がポビヂーチェリを知ったよりももっと前から秋津大和はその存在を知っていたということになる。情報を手に入れたからといって武装した部隊をそんなすぐに組めるはずがないからだ。民間企業なら尚更。
自分以外にも自分と同じような仕事をしていた人間がいるのだろうか。湊はそう考えながら目をつぶった。
そして、少し悔しく感じた。
そこまでプライドを持ってフィフスウェルに侵入していた訳じゃないが、ただの素人として動いていたつもりもない。
湊は自分より凄腕の同業者を想像した。
きっと経験を沢山積んでいて、無駄のない動きをするピャートゥイのような奴なのだろう。
湊はピャートゥイを見た。
「……私が怪しく見える?」
「まさか。もしピャートゥイが秋津大和と繋がっていたならナミハナと対峙したときのあれが茶番ってことになる。いや、その時だけじゃない。大空洞の時もそう。繋がっていたんだとしたら、その演技力を活かすためにそんなことはやめて舞台俳優にでもなった方がいいね」
「私を信じてくれるってことね。ありがとう」
ピャートゥイは微笑んでいたがどこか表情に陰りが見えた。
「それにしても、自分は本当に普通の人間じゃなくなってきた気がする」
外が薄暗くなってきて、小さなランプが廃駅内のコンビニの中を優しく照らしていた。
そんなコンビニの中で湊は、リュックとカメラを外し腰を下ろしながらそういった。
ピャートゥイはそんな言葉にぴくりと反応していた。
「まぁ正確にいうと、普通の日本人じゃなくなってきた。だけど」
ピャートゥイは湊の隣に座った。
「どうして?」
「いや、だってさ。普通の日本人っていうのは、俺くらいの年齢なら学校に通って、友達作って、一緒に遊んで、家に帰ったら勉強やらゲームやらでしょ?」
指折り数えながら湊がそういうとピャートゥイは困った顔で首を傾げていた。
それを見て湊は思い出した。ピャートゥイは日本語が日本人と同じかそれ以上に流暢だから忘れていたが外国人だった。
しかし、海外の同年代の人間は違うのだろうかという疑問も浮かんだが、一旦それは置いておくことにした。
「まぁ日本人はそういうもんなんだけどさ。俺ときたらフィフスウェルに侵入するわ、銃を撃つわ、銃を撃たれるわ、無人機に追われるわ、で普通からよっぽど逸脱しているなってさ」
「普通じゃなきゃ嫌なの?」
「嫌、か?」
湊は顎に手を添えて悩んだ。
「うーん、友達が欲しいとはずっと思っていたけど学校に行きたいと思ったことはあんまりないし、そういう点では普通にこだわったことは無いかな。普通を逸脱して命の危機に晒されているのはちょっと嫌だけどさ」
「それで?」
ピャートゥイは妙に食いつきが良かった。
「まぁ普通が嫌とか、特別が嫌とかじゃなくて、今はただ自分が普通ではなくなってきたなって思っただけだよ」
そこまでいって湊は、元々自分が普通の日本人だったかどうか疑問に思った。
両親が居なくて博士に育てられて、高校に行っていない。そして、フィフスウェルに侵入している。十分普通じゃない。
「で、結局どっちなの」
妙に答えにこだわるな、と湊は感じた。
「嫌じゃない……かも?」
湊の答えにふーん、といってピャートゥイは立ち上がった。
「あ、ピャートゥイは普通ではないと思うけどすごくいいと思うよ。うん」
頭を掻きながらそういう湊を見て、ピャートゥイは呆れたような笑顔を見せた。
「それって褒めてる?」
「もちろん!」
「そう、ありがとう」
そういってピャートゥイはコンビニから出ていこうとした。
「……どこに行くんだい?」
「リュック、八の所に置いてくるだけよ」
ピャートゥイはコンビニを出ていった。
少しの間、一人になったコンビニに寂しさが積もった。




