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 少し歩いただけで、二人はこの道の危険さに気がついた。

 あらゆる方向から無人機の足音がしていたのだ。

 しかも瓦礫の山が邪魔でそれらを目視することは出来ない。

 そして、崖を飛び降りたこともあり、来た道を戻ることもできなかった。

「ふう、最悪だね」

 瓦礫の山の陰に隠れて、湊はリュックから取り出した水を飲んだ。

「でも、立ち止まってても状況は良くならない。もう行くしかないわ。準備は出来た?」

 湊は水をしまって頷いた。

 ピャートゥイが先導する形で二人は瓦礫の陰に隠れながら少しずつ道を進んでいた。

 湊は先導されっぱなしの自分を少し情けなく思ったがこればかりは適材適所だと、自分を納得させた。

 ふと、ピャートゥイが瓦礫の陰で立ち止まった。

「見て」

 ピャートゥイが指を指す方向を湊は見た。

 道の先が見えた。瓦礫の山が全くなく、身を隠せる背の高い雑草も生えていない。

 そして、そこには見えるだけでも三機の無人機が歩いていた。

「どうする?」

「どうしようかしらね」

 ピャートゥイはため息をついた。

 その時、湊は大空洞でのことを思い出した。

 たしか、ピャートゥイは無人機を停止させるほどの威力のフラッシュグレネードのようなものを持っていたはずだ。

「ピャートゥイ、大空洞で使ったやつは使えないの?」

 ピャートゥイは腕を組んで唸った。

「使えないことはないけど、咄嗟に止められるのは一機だけよ。二機以上は厳しいわね」

 ピャートゥイの言葉を聞いて湊は別の方法を考えることにした。

 思えば自分はピャートゥイを頼りすぎている気がする。湊はそう思った。

 ならば、ピャートゥイを頼らない。せめて二人で行う必要がある作戦を考えるべきだ。

 それから数分、いや数秒だったかもしれない。しかし、湊はとにかく長いこと頭を悩ませた気がしていた。

 結論、強引な作戦しか思い浮かばなかった。

 隠れられる場所まで二人で全力で走り抜ける。

 一度だけならピャートゥイが助けてくれる。

 とてもこれだ、なんていえるようないい作戦じゃなかった。

 頭を使ってすらピャートゥイを助けられないならどこに自分の適材適所の適所があるのだろうか、と湊は落ち込んだ。

「湊?」

 ため息をついた湊を心配そうにピャートゥイが見つめた。

「いや、なんでもないよ。ただ何もいい案が浮かばないだけ」

 ピャートゥイは静かに笑った。

「私も。全力で走り抜けるくらいしか思い浮かばないわ」

 二人ともそうなら、もうその作戦でいくしかないと湊は思った。

 ピャートゥイもそう思ったのか肩をすくめていた。

 その後、ピャートゥイは何かに気づいたように道の先を見て笑った。

「走れる?」

 何かの自信をもった顔でピャートゥイはそう聞いてきた。

「うん」

 湊の返事を聞くとピャートゥイはフョードルを一丁取り出してマガジンとチャンバーを確認した。

「一度だけなら確実に止められる。私が足を止めても湊は振り向かないで走って。いいわね」

 湊は頷いた。

「安心して、もしもの時は湊が気絶した時みたいに担いで逃げてあげる」

 緊張をほぐすようにピャートゥイが冗談をいってくれることに湊は心の中で感謝した。

「カウントダウンするわ。私がゼロっていったら走って」

「分かった」

 湊は深く息を吐いて集中した。

「三」

 目の前を無人機が横断していった。

「二」

 つばを飲み込む。

「一」

 ピャートゥイが姿勢を整えるのを見て湊も走る姿勢になる。

「ゼロ」

 瞬間、二人は全力で走った。

 走り始めて五秒ほどは無人機たちに見つからずに済んだがすぐにセンサーをこちらに向ける音が聞こえてきた。

「見つかったわ」

 ピャートゥイは湊の横に並んでそういった。

 まだまだ余裕がありそうだった。

 湊はというと何かを深く考える余裕は無かった。

 訓練していない人間の全力なんてたかが知れていた。

 突然、日差しが何かに遮られ周りが暗くなる。

「振り向かないで!」

 そういうとピャートゥイは振り向いて立ち止まった。

 恐らく足止めを使うのだろう。

 その間も湊は全力で走った。

 数秒をしないうちに電撃が走る音が聞こえ、焦げ臭い匂いがした。

 そして、五発分の銃声。

「まだいける?」

 全力で走る湊の隣に戻ってきたピャートゥイは、心配そうに湊の顔を覗いた。

「も、もう無理そう……」

 息を切らして、足がもつれそうになるのを根性でこらえていた湊は泣き言をいった。

 それを怒られると思ったがそんなことはなく、ピャートゥイは湊の手を掴んで湊を引っ張った。

「もう少しよ、ほら!」

 ピャートゥイが道の先に指を指す。

 息が苦しい中、湊が顔を上げるとすごい勢いでこちらに突っ込んでくる車両が見えた。

「八!」

 多少の瓦礫や地面の亀裂をものともせずに八は、湊とピャートゥイの前でドリフトをして止まった。

「乗ってください。早く!」

 ピャートゥイが八の後部ドアを開けると、半ばピャートゥイに投げられる形で湊は八に乗り込んだ。

 そして、ピャートゥイも八に飛び乗り後部ドアを閉めた。

「出して!」

「掴まってください!」

 無人機をその場に置き去りにするほどのスピードで八は走り出した。

 湊は息を整えながら後部ドアの窓を覗いた。

 後ろには無人機が五機も追ってきていた。

 よく見ると無人機たちは頭部センサーが破損していた。

「あ、危なかった……」

 そういって湊は車内のベルトを掴みながら床に転がった。

 車内は八がスピードをだしていることもあり激しく揺れていたが、そんなことが気にならないほど湊は疲れていた。

 地面の亀裂を八が飛び越えた時に体が浮く感覚が心地よいほどであった。


「八、居たわ」

 八が無人機を振り切ったことを確信しスピードを落としはじめた頃、ピャートゥイはフョードルのマガジンに弾を込めながらいった。

 最初は何の話かと湊は思ったがすぐにポビヂーチェリのことだと分かった。

「そうですか、やはり一度現れたところに再度現れることもあるようですね」

 ピャートゥイは弾を込め終わるとそのままマガジンを装填した。

「八、この辺りに無人機の音はする?」

「いえ、この辺りに無人機はいない様です」

「そう、じゃあ停まって」

 ピャートゥイの指示で八は停止した。

 湊が窓の外を見るとそこは少し開けた住宅地の跡であった。

「なにかあるのかい?」

 ピャートゥイは首を横に振った。

 そして、湊に見せるようにフョードルを持ち上げた。

「せっかくだからちょっと射撃訓練。しときましょ」

 そういってピャートゥイは後部ドアを開けて八を降りていった。

「湊さん、頑張ってください」

 湊が八の中でげんなりしているとそう八はいった。

 そして、すぐに外から「早くしなさい。何事もスピードが命よ」とピャートゥイが呼ぶ声が聞こえてきた。

 湊は大きなため息をつきながらSエミールを手に八を降りた。

 思った以上に体が重かったが張り切っているピャートゥイに泣き言をいったら今度こそ怒られそうだと思ったので観念してピャートゥイの横に並んだ。

「ふふ、きたわね。ちょっと待ってて」

 ピャートゥイは背負ったリュックから空き缶を取り出した。

 そして、取り出した空き缶を遠めの瓦礫の山の上に投げた。

 見事に瓦礫の山の上に乗った空き缶を見てピャートゥイは満足げに鼻を鳴らした。

「持ってきておいて正解だったわね」

「すごいコントロール……」

 ついそんなことを呟くとピャートゥイは花のような笑顔を向けてきた。

「ありがとう。さ、構えて」

「俺が先?」

「もちろん。安心して、私の分の空き缶もあるから」

 そういって自慢げにピャートゥイはもう一つの空き缶をリュックから取り出した。

 湊は肩をすくめた後、Sエミールを瓦礫の山の上の空き缶に向けて構えた。

 自分のことながら、ちょっとさまになっているような気がして湊は口角が上がった。

 少し自信がついたかもしれなかった。

「湊。数時間前に教えた基本的な姿勢、もう忘れちゃった?」

 そういってピャートゥイは空き缶を地面に置くと湊の足を軽く叩いた。

 湊の自信は簡単に崩れ去った。

「ほら、膝を軽く曲げて。足は肩幅より少し開き気味で。ちょっとだけ前傾姿勢になるのを意識して」

 湊は指示通りに動いた。

「ふふ」

「どうしたの?」

「膝、曲げすぎよ。それじゃへっぴり腰なだけだわ」

 湊は恥ずかしくなって顔を赤くした。

「それで、もう撃っていいの?」

 そういって恥ずかしさを誤魔化すのが精一杯だった。


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